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【第120話 絶望的な監禁生活】

 カリーナとの同棲生活が決まったモナは、カリーナにバレる前に中絶する事を決意した。


(妊娠がバレたら、私は殺される……)


 ジムとの子供をおろすなんて、自分の中でも許されざる行為ではあったのだが、このまま同棲生活を始めると、百パーセントバレてしまう。


 この日、モナは有給を取って産婦人科へやって来た。ところが、産婦人科の入口の前には、何故かカリーナが心配した面持ちでこちらを見つめていた。


「カ、カリーナさん!? 何故、ここに?」


「アナタこそ水臭いわよ。ダメよ、中絶なんてしちゃ!」


 中絶……今、確かにカリーナの口から中絶という一言が聞こえた。モナは絶望した。


「知っていたんですか?」


「当たり前よ。私がアナタの変化に気づかない訳がないじゃないの! 二人で育てましょ?」


「どうして知ってるんですか? うちの両親にもまだ話してないのに……」


「そんな事はどうでもいいのよ。とにかく中絶はダメ。私も責任持ってアナタの赤ちゃんを大切に育てるわ! アメリカには同性でも結婚できる州があるのよね? そこで結婚しましょ! 私は貴女を一生大切にするわ!」


 一生逃げられない事が、たった今、確定した。モナの絶望はさらに深いものになった。




 ◆




 この日からのカリーナは、明らかに異常だった。


 妊娠中のモナには翌日から産休を与えて、家から出ることを禁止した。せめて家事はモナがやろうと思ったのだが、カリーナは家政婦も募集してしまった。翌日にはプロの家政婦が即採用されてしまったので、本格的にモナは家の中でする事が無くなった。


 ただ、唯一の救いは、採用された住み込みの老婆の家政婦さんがとても優しくて饒舌で、絶望の中のモナに元気を分けてくれたことだった。


「カスミさんのお料理は美味しいです! 毎日、ありがとう」


「ありゃま! 奥様。そんな事を言ってくれても、夕飯を豪華になんてしませんよ!」


「うふふ。カスミさんのお料理なら、簡素なものでも美味しいからなんでも良いのよ」


 そんな所へ、仕事からカリーナが帰宅した。


「モナ! 今日も元気? 身体に異変はない?」


「はい。カスミさんのお陰で、健康そのものです」


「そう。良かった。家政婦さんも良い人が見つかって良かったわね!」


「ところでカリーナさん! 会社の方はどうなんですか? 私は産休を取るにはまだまだ早すぎるので、せめて午前中だけでも出社しましょうか? 何故か最近、退職者も増えてきてますし……」


「いいのよ、それで。辞めたいやつは辞めてくれた方が助かるの。会社の口座には使い切れないほどのお金があるんですもん。いつ潰れても良いの。トンプソンが消えた今では、会社を残しておく意味も無いしね」


 会社が無くなれば、カリーナと二十四時間面と向かって生活しなくてはならない。それはモナとしても本当に困るのだ。


「カリーナさん! 会社を潰しちゃダメですよ! 産まれてくる子供のためにも会社は残しましょうよ! 親子で会社を大きくしましょう!」


 カリーナは満面の笑みで答える。


「そうね! 私の子供には、世界一の大企業をプレゼントしなくちゃね!」


「そうです! それです! 私たちの子供には、世界一の大企業をプレゼントしましょう!」


 翌日もカリーナは満面の笑みで出社していた。と言っても、カリーナは会社では何の仕事もしていないのだが。


 ただ、カリーナが出社中は家の中では比較的に自由に行動が出来るので、モナにとってはこのひと時が無ければ、とっくの昔に精神が壊れていた自信があった。住み込みの家政婦、カスミの存在も大きかった。




 ◆




 そんなある日。テレビのニュースでスペースZ社が買収されたことを、たまたまモナが見てしまった。


 スペースZとの調印式には、かつてZONで働いていた若い社員の姿がそこにあった。


「あの人は確か……広報部だった……」


 そう言って、モナが自分の使っていたノートパソコンを開いて過去の従業員名簿を見ようとしたところで、家政婦のカスミが優しくノートパソコンを閉じた。


「ありゃま、妊婦さんが仕事しちゃダメよ」


「いや、でも、少しだけですから!」


 強引にモナはノートパソコンを開こうとしたのだが、再びカスミに阻止された。


「いい加減にしてください、カスミさん!!」


 カスミは虚空を見つめて何かを言っていた。


「田吾作は出てくるな。私なら大丈夫さ」


 カスミの不思議な行動に、今までが好感度MAXだっただけに、一気に不信感を抱き始めてしまった。


(痴呆なの? かなりの高齢者ではあるのだけれど、こんな突然に起こるものなの?)


 この日を境に、モナはカスミとの距離を置くことにした。唯一の救いかと思っていただけに、カスミの様子はそれなりにモナにとってショックだった。




 ◆




 それから数日後。カリーナの高級マンションには、スペースZ社からのダイレクトメールが届いた。


┌──────────────────────┐

│ アナタも宇宙旅行へ!           │

│ │

│ ・おひとり様500万円で無重力体験。 │

│ ・おひとり様1000万円で宇宙ステーション滞在。│

│ ・おひとり様2000万円で月着陸。 │

│ ・おひとり様5000万円で金星or火星旅行。 │

└──────────────────────┘


 モナにとっては、(またスペースZの企画か……)とパンフレットをチラ見すらしなかったのだが、カリーナは別だった。


「ねぇ。このパンフレットって詐欺なのかしら?」


「いえ、今はスペースZだけじゃなくロシアや中国でも、開発費用集めのために一般人をロケットに同乗させるんです。特にスペースZは宇宙旅行に特化した会社なので、詐欺では無いですよ。もう何人か宇宙に行ったお金持ちはいますから」


「ふ〜ん。月にも行けるのね……」


「カリーナさんは月に行きたいのですか?」


「うん。私の兄貴が月を一人で占領したのよ。だから、私もコチラの月を占領したら、兄貴にばかりデカイ顔をされないんじゃないかと思ってね」


 モナは密かに考えていた。


(宇宙旅行は、百パーセント安全ではない)


「良いですね! 月への侵略ですか! コチラの月には、地下資源が地球よりもあるって噂ですよ!」


「そうなの? 既に誰か占領してたりする?」


「まだ未開の地です!」


「そうなのね。今なら私が占領しても、誰も文句は言わないのね?」


 ここで、家政婦のカスミから、最後のダメ押しが語られた。


「奥様方のお子さんに月をプレゼント出来たら、こんなにロマンチックな事はありませんね!」


 その瞬間、カリーナは決心を固めた。


「私が月の女王になるわ!」


 モナとカスミは、それぞれの思いを秘めて、ニヤリとほくそ笑んでいた。




 (第121話へ続く)



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