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【第119話 刺激的な監禁生活】

 所轄の遺体安置所で泣き腫らしたモナは、呆然としたまま刑事から強盗殺人事件についてのあらましを聞いていた。と言うより、聞き流していた。


 刑事からのくだらない終わった話には全く興味のないモナは、刑事から解放された瞬間に自宅に帰って、ジムの遺品の整理を始めた。本当なら一晩中泣き続けたかったが、何かしていないと気が狂いそうだったので、自宅の後片付けに没頭した。


 後片付けしているうちに、いつの間にか夜が明けてしまったので、シャワーを浴びて早めに出勤した。今のモナには、仕事しか無かった。


 何故だか、最近、退職者が続いていた。その事については気にはなっていたが、自分の妊娠のこと等で手一杯で、退職者の事まで頭が回らなかったのだ。


(足りない人員は派遣会社から回してもらいましょう)


 モナは部下に派遣会社から不足分の人員を補充するように頼んでから、いつものように昼近くに出社してくるカリーナのために、社長であるモナが副社長室を整理整頓を始めていた。


(早く平常心に戻らないと、カリーナさんの判断力スキルでバレちゃう……)


 モナは、深く深呼吸を整えていた。




 ◆




 やがて、昼休みの時間に合わせてカリーナが出社してきた。


「おはようございます! カリーナさん!」


 カリーナはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべて、優しくモナを抱きしめた。


「元気が無いわね、モナ。どうしたのかしら? 昨日は早退したみたいだけど、何処か体の調子が悪いのではなくて?」


 図星をつかれてモナは動揺してしまったが、カリーナは気づかないフリをした。モナも、カリーナが気づかなかったことに安堵した。


「モナ、私たち一緒に暮らさない?」


「えっ!? 同棲と言うことですか!?」


「えぇ。そうよ。私がどれほど貴女を愛してるか知ってるでしょ?」


 もはや、ジムが死んでしまったモナには、もうどうでも良かった。


「はい……お世話になります……」


 カリーナは満面の笑みでモナを強く抱きしめて、キスをした。




 ◆




 その頃、ジムはカスミが作ってくれた昼食を美味そうに食べていた。


「スゲー美味い! カスミさんはプロの料理人なんですか?」


「ありゃま! 料理人なんてとんでもない! 私はただの家政婦さ!」


「なるほど。料理人では無いけどプロではある訳ですか……。それにしても、アチラのデスクにある刺身はなんですか? ご自身の昼食ですか? 僕がアメリカ人だからって気を使って、刺身をわざわざ別のデスクに並べてくれたのですか? 一応、マグロの漬けでしたら僕でも食べられますよ? サビ抜きですが……」


 ジムは、書斎のテーブルの上に並べられた刺身の盛り合わせを指さして尋ねた。


「ありゃま! あれはアンタの護衛の昼飯なんだわ! アメリカの人に刺身の盛り合わせなんて出すわけ無いべさ!」


 カスミから護衛と聞かされたジムは、これから護衛が合流するものだと思っていたのだが、数秒間、刺身の盛り合わせから視線を離しただけなのに、先程まで綺麗に盛り付けられていた刺身の盛り合わせが、少しだけ減っていた。


(ん?……若干、減ってるか……? いや、気のせいか?)


 再び、ジムは目の前の料理を食べ進めてから、刺身の盛り合わせを見ると、今度は明らかに減っていた。


「減ってる! 絶対に減ってる! カスミさん! 刺身が減ってますよ!」


「ありゃま! 当たり前だべさ! アンタの護衛も昼飯くらい食わせてあげなさいよ!」


「ご、護衛!? 護衛なんていませんよ! この部屋には僕とカスミさんしかいませんってば!」


 すると、ジムの背後から声がした。


「アリャマ! 私はカスミの刺身しか食べない。お前も気にするな!」


 ジムが振り返るが、声は聞こえたのに、そこには誰もいなかった。


 そんな狼狽えるジムを見て、可哀想に思ったカスミがLEONに話しかけた。


「LEONちゃん! ちゃんと姿を出して挨拶しなさい! ジムが怖がってるよ!」


 LEONは困った顔をして、保護色を解いて姿を見せた。


「うわっ!! トカゲ人類!!」


「大丈夫! LEONちゃんは刺身しか食べないんだよ」


「アリャマ! たまには虫も食べる」


「虫はオヤツだろ? ご飯のことを言ってんのさ!」


 LEONは再び書斎のデスクに座り、器用に箸で刺身を食べている。ようやく刺身の意味がわかったジムも落ち着きを取り戻し、カスミの作った昼食を食べていた。




 ◆




 一方、ヘッドハンティングで徐々にTdカンパニーにも人員が増えてきたことで、リスタオールも事務仕事からようやく解放されたので、ランチタイム明けにジムの監禁部屋を訪ねてきた。


 突然のエルフ美女の来訪に、ジムも鼻の下が伸びきっていたが、リスタオールは爽やかな笑顔でジムに一枚の伝票を手渡した。


┌────────────────┐

│ 医療費    $100,000也 │

└────────────────┘


「は? じゅ、じゅ、じゅ、十万ドル!? な、なんですかこれは!」


「私は帝国で最も高いヒーラーですのよ? これでも地球割引でございますわ」


「………ぼ、僕はただのタクシー運転手なので……十万ドルなんて不可能なんですが……」


 リスタオールはますます爽やかな笑顔で答える。


「えぇ。それは大丈夫ですのよ。私はエルフ。ジムさんの曾孫の代までに、少しずつお支払い下さいませ。エルフは永遠に待てる種族なのですわ」


 ジムは愕然として、伝票を受け取った。


「は、はい……なるべく子供をたくさん産んで、早めにお返しします……」


 リスタオールとデメタは命の恩人なので悪くは思いたくなかったが、ガマの油が一万円で買えるのに比べて、リスタオールの魔法は十万ドルという桁違いなことに対しては、目の前の美女は金銭感覚がバグってる事に恐れおののいてしまった。


(この館には、地球最強の戦士と異世界最強の銭ゲバがいて、しかも僕の護衛は消えるトカゲか……。退屈しない監禁生活になりそうだ……)




 ◆




 ヘッドハンティングも順調にすすみ、スペースZ社の買収もそろそろカタがつきそうになり、あとはロケットにどうやって判断力スキルを持っているカリーナを乗せるのかを、来翔とトンプソンとデビットとレベッカが頭を悩ませていた。


 そんな頭脳派なビジネスマンを放置して、勇者ワタルだけが地下室で今日も剣の素振りを怠らなかった。昔のように、デメタが勇者の剣の修行を見守っている。




 (第120話へ続く)



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