【第116話 カエルと小鳥】
114話が抜けておりました!
申し訳御座いませんm(_ _)m
トンプソンとデビットがスペースZ社を買収しようと躍起になっている頃、太平洋に浮かぶクイーンエリザベス号では、敬老会の旅行中のカスミとリスタオールが優雅にプールサイドで日焼けを楽しんでいた。リスタオールは見た目は二十歳の美しい女性なので、プールサイドの男たちの注目を集めている。
「ありゃま! 本当にアンタと一緒だと、アンタばかりモテるから嫌になっちゃうよ!」
「仕方ありませんわ。人族の殿方は、エルフとサキュバスには弱いんですもの」
そんな二人の次の目的地は、偶然にもシアトル港だった。
「皆がアメリカに行っちまってから、もう二ヶ月は経つのになんの音沙汰もないねぇ〜。シアトルに着いたら、たまにはLINEくらいしなさいと怒ってやらないとダメだねぇ〜」
「そうですわね。全くバトル脳の人達のやる事は理解できませんわね……」
こうして、二人の老婆はゾーン団の脅威のことなど全く知らずに、敬老会の豪華客船の旅を満喫していた。
◆
一方、来翔たちの拠点となる中古の一戸建てでは、レフトとデメタが激しく言い争いを繰り広げていた。
「ゲコゲコゲコ!」
「ピヨピヨピヨ!」
そんな二人にネーラが割って入る。
「まあまあ、レフトもデメタも落ち着いてよ! ほら? ちょうど来翔が来たから、来翔に決めてもらおうよ!」
「ゲコ!」「ピヨ!」
そんな三人を見て、来翔が声をかける。
「朝から騒々しいけど、どうかしたの? 僕に決めてほしいってのはなんだい?」
ネーラが代表して答える。
「あのね。さっきデメタがかえるの歌を歌ってたんだけど……ほら? かえるの歌ってレフトにはトラウマがあるでしょ? マーガレット事件の時の……。だから、レフトがデメタに『かえるの歌よりも小鳥の歌の方がいい歌だよ!』って怒鳴っちゃったの。そしたら、デメタも『小鳥の歌なんて赤ちゃんが歌う歌だ!』って言い返しちゃって、どっちの歌が良い歌なのかで大喧嘩になったの。だから、来翔にどっちの歌が良い歌なのか決めて欲しいの!」
デメタとレフトが睨み合っていた。
「そんな事で喧嘩したの? どっちの歌が良い歌なのかなんて、決められないよ! 良いかい、レフト、デメタ。昔から日本では、朝は小鳥のさえずりを聞いて目覚めてたし、夜はカエルの合唱で眠りについていたんだよ。どっちの歌声も、日本人には必要だから、かえるの歌も小鳥の歌も両方、昔から歌われてきたのさ。朝と夜は必ず平等に来るからね。だから、どっちが良いとか決めちゃダメなんだ。朝が好きでも、すぐに夜になるし、夜が好きでも、すぐに夜明けは来るんだよ。だから、レフトもデメタも、そんな事で喧嘩しちゃダメだ。二人ともこうしないか? 朝は小鳥の歌を皆で歌おう。夜はかえるの歌を皆で歌って眠ろう。それでいいかい?」
「ゲコ!」「ピヨ!」
途端に、デメタもレフトも笑顔になった。
そんな時、来翔のスマホが鳴った。来翔がLINEを見て、にっこりと笑ってネーラとレフトに伝える。
「ネーラ、レフト、これからカスミとリスタオールが港に着くってさ。皆で迎えに行くかい? デメタも来るかい?」
「ゲコ! ゲコ!」
◆
そして、数時間後。シアトル港には豪華客船が停泊しており、中から敬老会のお年寄りがぞろぞろと降りてきた。
いち早くネーラがカスミを見つけて飛んで行ってしまった。釣られてレフトも飛んでいく。来翔とデメタは車の前で待っていると、カスミとリスタオールが来翔の前にやって来た。
「ありゃま! 来翔さん! アンタ全然連絡もよこさないから、心配するでしょうや!」
「そうですわ。来翔さん、全然帰ってこないから、私への借金を苦に夜逃げしたのかと思いましてよ?」
相変わらずな二人を見て、来翔もなんだか心が温まる思いだった。
「ハハハ、全然連絡が出来なくてすいません。今、ビジネスが忙しくてLINEする暇もありませんでしたよ……」
「「は? ビジネス?」」
困惑するカスミとリスタオールに、拠点までの道のりで来翔が説明をした。
拠点に着くと、そこはまるで株式市場のような鉄火場の忙しさだった。トンプソンはもちろん、デビットもワタルもレベッカも雨森さえも、パソコンと電話でてんてこ舞いになっていた。
そんな拠点を見て、カスミとリスタオールはやばい所に来てしまったことを瞬時に察した。
そんな二人ににっこり笑って、来翔が残酷な事を告げた。
「すいませんね、カスミさん。皆さんにコーヒーをお願いします。リスタオールさんは事務仕事をお願いします。この資料を全員分コピーしてホッチキスで纏めて下さい」
「ありゃま! 私らは敬老会の旅行中だよ?」
「すいません。シアトルで途中下船という連絡は、もうレベッカさんがしてくれましたので、しばらく業務を手伝って下さい!」
カスミとリスタオールが呆れてしまったが、これが人類のための最後の戦いだと聞かされては、もう断ることなど出来なかった。
◆
カスミとリスタオールが業務を手伝ってくれるようになり、ようやく雨森とデメタとマーガレットがガマの油売りを再開できることになり、早速、広場へと稼ぎに来ていた。
数日ぶりのガマの油売りを待っていたかのように、この日もたくさんのギャラリーが集まっていた。もはや常連となっているジムも、待ちわびていたかのようにガマの油を買いに来た。
「お久しぶりですね! もう、別の土地へ行ってしまったのかと心配しましたよ! 実は油のお陰でフィアンセが妊娠したんですよ! 今日はそのことを伝えたくて……」
モナの恋人であるジムの嬉しそうな報告を、雨森とマーガレットが複雑な気持ちで聞いていた。
「そうですかい。そりゃあ、おめでとうござんす!」
ジムがこの日も油を二つ買って帰ると、隣のマーガレットが雨森に呟いた。
「モナはどうなるのかしら……」
「あっしらには関係の無い事でさぁ……。ただ、産まれてくる子には幸せになってもらいてぇもんですよ……」
その時、デメタが雨森に囁くように告げた。
「ゲコ、ゲコ、ケケケ」
「ほう! あの女性がずっとジムを見てたんですかい……」
デメタはエルの不審な行動に気づいたのだ。カエルの目は、生物の動きを正確に感知出来る能力がある。デメタもまた、生物の動きには常に気を配っているのだ。そんなデメタから見ると、エルの動きは尾行していることがバレバレだった。
デメタは雨森に「ゲコ! ゲコ!」と告げると、エルの尾行を始めた。
突然、デメタがどこかへいってしまったので、マーガレットが雨森に尋ねる。
「あら? デメタはどこへ行くんですか?」
「ちょいと野暮用でさぁ〜。あの綺麗な姉さんに一目惚れしたみたいですよ!」
軽口を言った割には雨森の顔が真剣だったので、マーガレットもすぐに察していた。
「そう……ジムが危ないのね……」
「へい……さあ! 商売を再開しますか、奥さん!」
二人はデメタ抜きでも、ガマの油売りを再開し始めた。
デメタはビョコン! ビョコン! とジムを尾行しているエルを、必死で追いかけていた。シアトルの夏の日差しはカエルのデメタには強烈だったが、愚直にデメタはビョコン! ビョコン! とひたすらに跳ねていた。
(第117話へ続く)




