【第115話 シアトル発のベンチャー】
114話が抜けておりました!
申し訳御座いませんm(_ _)m
起業と資金運用を任されていたデビットとトンプソンは、既にTdカンパニーを開業していた。貿易会社と銘打っているが、実際は株による資産運用をメインとしている。
「デビット。今日の利益で、勇者から出ている資金を全て返し終わる。ここからは我が社の純利益となる。もしも、この先この会社が本格的に軌道に乗るようなら、お前が社長となり、ZONから引き抜いた社員たちと共に、この会社を育て上げろ」
「トンプソンさんは、会社に残らないのですか?」
「フフッ。俺は全てが終わる頃には、間違いなく異世界で刑務所暮らしだ。おそらく終身刑になるだろうな」
デビットがとても切ない顔をしているところへ、ワタルが口を挟む。
「デビットさん、これでも終身刑はかなり減刑されてますからね。本来なら処刑ですよ! 今の帝国には法律上、死刑は無いからこそ、亡くなったビリーさんは捕らえた賞金首を帝国の刑務所へ送っていたんですって」
賞金稼ぎの首領をしていたビリーが、あえて法と秩序で雁字搦めな帝国で生活をしていた理由は、ただ一つ。死刑が廃止された国家であったからだ。生死を問わずの賞金首も、ビリー一門は生け捕りを主にしていた賞金稼ぎだった。当然、LEONも滅多に賞金首を殺すことはない。異世界では、トドメをさした人に一番経験値が入る。なので、敵を殺さないLEONのレベルは、いまだに15。ネーラとレフトよりも低いのだ。
ビリーの戦闘スタイルが素手なのも、敵を殺さないようにという、ビリーなりの工夫だった。そんなビリーの意を汲んで、全てのことが終わったらトンプソンの事は、LEONが帝国まで連行することになっている。
場が暗くなりそうだったので、ワタルがトンプソンとデビットへ問いかけた。
「もうヘッドハンティングは出来るんですよね? ZONの社員をそろそろ引き抜いてもいいんじゃないですか? なんか、二人とも毎日忙しそうですし」
「トンプソンさんは常に株の動きを見てなくちゃならないので、本当に忙しいとは思いますが、まだ貿易会社としての業務が無いので、私だけはいまだに暇ですよ! ヘッドハンティングについては、アメリカではヘッドハンティング用のエージェントに依頼するのが普通なので、もう既にエージェントには依頼済みです」
急遽立ち上げた会社ではあるものの、トンプソンの統御スキルは下がる株も上がる株も見えているので、あっという間に資金運用が上手い新進気鋭のベンチャーとしてのし上がっていた。いつものモナならこんな不自然なベンチャーの存在に気づいていたはずなのだが、自身の妊娠の事で頭がいっぱいで、いきなり現れた不自然なベンチャーの事など全くわからないまま、数日間が過ぎていた。
◆
そして、Tdカンパニーの資金が潤沢に潤い始めた頃、来翔たちがシアトルへ帰ってきた。
Tdカンパニーの口座の金額を見て、来翔は次の指示をデビットへ伝える。
「デビットさん、民間の宇宙ロケット開発社、スペースZ社の買収をお願いします」
「は? 何故、こんな時に宇宙事業を?」
来翔は少し冗談っぽく語った。
「魔法も物理も効かないカリーナを倒すことなんて不可能なので、こうなったら月まで退場させてもらいましょう!」
その場にいた全員が、
「「「は?」」」
とリアクションをして固まってしまった。
来翔は、異世界でサイモンから聞いたゾーン団のボスについて語り始めた。
「実はゾーン団のボスって、異世界の月を支配してます。異世界の宇宙は、こちらの宇宙とは全く別物で、真空や無重量ではないようで、どうにかすると宇宙船がなくても行き来が出来るようなんです。つまり、カリーナにはこちらの月に行けると招待状でも出せば、簡単に釣れるような気がするんです。兄であるゾーンがアチラの月を支配したことを真似て、コチラの月も支配しようとするんじゃないかと思うんですよ!」
それを聞いてトンプソンが唖然として答える。
「さすがは木べらの戦士……天才的な発想だ……確かに、カリーナなら馬鹿だから、コチラの宇宙空間については無知である可能性が高い! いや! 可能性が高いと言うよりも百パーセント知っているはずが無い! 月に行けると聞いて、行かないという選択肢を選ばないはずが無い!」
その場にいたワタルとデビットの顔が、徐々に希望に満ちてきた。
「さすがは来翔さん! それ最高じゃないですか! さすがにカリーナでも月では生きていられませんよね? トンプソン、魔法障壁って真空でも呼吸とかできたりしないよね?」
トンプソンは興奮気味に答える。
「当たり前だ! 仮に呼吸が出来たとしても、地球に帰ってくる手段がない! 異世界では月から飛び降りれば地上には落ちて来れるが、コチラの宇宙では月から地上へ飛び降りれないし、何よりも大気圏というのは侵入角度を間違えると大気圏で弾かれる! 弾かれたあとは、宇宙の彼方へと永遠に彷徨うことになる!」
デビットが早速、スペースZ社についてパソコンで調べ出した。
「現在、スペースZが提供している宇宙船はオリオン号とアポロン号です。オリオンは主に宇宙ステーションまで航行出来ますが、アポロンの方は月や火星まで航行出来ます! 行けますよ! 月でも火星でも! いや、もっと確実にカリーナを倒すなら、金星に向かうのも面白い! 金星は古来からVENUSと呼ばれてます。彼女の最後には相応しいんじゃないですか? さすがのカリーナでも、VENUSで生き抜くことなど不可能です!」
金星が英語で「VENUS」と呼ばれるのは、ローマ神話に登場する愛と美の女神ウェヌス(Venus)に由来している。古代の人々が夜空に輝く金星を観測した際、その圧倒的な美しさと輝きから、最も美しい女神の名前を授けたとされている。そんなVENUSこそ、カリーナの最後には相応しい。
この場にいるトンプソンもワタルもデビットも納得し、スペースZ社のホームページに記載されているアポロン号を、しばらくの間見つめていた。
◆
一方、初めて訪れるアメリカ大陸のシアトルにて、フェアリー軍団がネーラとレフトの案内でシアトル観光に明け暮れていた。フェアリーだけでは買い物が出来ないということで、渋々マーガレットと雨森が、フェアリー軍団の買い物のアシストをしてくれている。
「奥さん、あっしには妖精さんは見えねぇんですが、本当に大勢さんがいらっしゃるので?」
何とかフェアリーの姿を見ることが出来るマーガレットが答える。
「えぇ。魔素の少ない私にもまだ全員が見えてる訳ではないのですが、見えてるだけでも五十人はいますわね……先程からシアトルにはコンビニが少ないと、皆さんが退屈してるみたい……」
もはや、最終決戦の事を覚えているフェアリー族は一人もいなかった。コンビニが少ない代わりにスタバが沢山あるので、何とかスタバでお菓子を買ってもらい、フェアリー族はご機嫌でお菓子を食べながら、シアトル観光を満喫していた。
(第116話へ続く)




