【第114話 HOPE!】
深夜帯なのに、若い女の子が一人でタクシーに乗ってきたことで、ジムは密かに乗客のことを疑っていた。
「お嬢ちゃん、どちらまで?」
「ダウンタウンにあるブルースカイという簡易宿までお願いします」
エルは今夜、殺せる場所を探すためのリハーサルを兼ねて、人気のないポイントを探すためにジムのタクシーに乗り込んでいた。
エルとしては、下町まで走れば人気の無い場所などすぐに見つかるものだと決めつけていたので、この街で一番粗末なホテル、ブルースカイを目的地に指定した。しかし、下町に近づけば近づくほど、昼までは見かけない娼婦の姿が目立ってきた。
「運転手さん。この辺は娼婦の方が多いんですか?」
「そうですよ。下町の夜はこんなもんです。年がら年中、娼婦が立ってますよ。やっぱり違法な商売なので、表通りで堂々となんて出来ませんからね!」
エルは、自分の甘さに少しだけ笑えてしまった。
(クックック……。俺たちゾーンは、やっぱり堂々と殺しも盗みもしなくちゃな……。こうやってコソコソやるなんて、性に合わないぜ……)
ゾーン団は、強奪する事が正義。派手にバトルして相手を血祭りにあげることが正義なのだ。誰からも見られることなく悪事を働いたことなど、これまで無かった。ゾーン団にとっての完全犯罪は、この世で最も苦手なジャンルなのかも知れない。そう考えると、エルは笑ってしまった。
ただし、今のエルはか弱い乙女の姿をしているので、可憐な笑みを浮かべているだけだった。
(そうか……タクシー強盗は、深夜よりも昼間の下町の方が良さそうだ……)
やがてタクシーはブルースカイ前に到着すると、エルは仕方が無いので、そのままこの夜はブルースカイへ泊まることにした。一晩二十ドルの安さだったが、シングルルームでも広々した部屋だった。
◆
その頃、フェアリーたちを乗せたエアウルフは、帰りのガソリンの事を考えて、ようやく着陸することが出来た。フェアリー達も大満足でエアウルフから降り、流線型の機体をペタペタと触っている。
「ツヤツヤしてて綺麗だね」
「滑らかなのに速いよね」
「グーで殴っても傷つかないんだって」
「私もプロペラが欲しいよ」
「音よりも速く飛ぶと音がしないね」
降りたあとも、しばらく興奮気味に流線型の機体をペタペタと触り続けていた。
ただし、クノン女王だけは浮かれることもなく、物々しいエアウルフでの再会に訳ありな事を察して、来翔に問いかけた。
「来翔、困り事? 元気ないよ?」
「さすがクノンだね。実は……」
来翔は、アチラでのゾーン団との最終決戦前だということを伝えた。
「というわけで、最後の戦いの前に遊びに来たのさ。カーコとキーコがフェアリーの国を見たいって言ったからね」
「ふ〜ん。もしかして、来翔は死ぬかも知れないの?」
「いや、死ぬつもりはないんだけど……ビリーさんは死んじゃった」
ビリーの事を知っているクノンが、驚いていた。
「え? ビリーが? あの人族最強と言われてたビリーが?」
「うん。プロの殺し屋にね……。あちらの世界では、面と向かって戦うことは滅多にしないんだよ。だから、ビリーさんの力も、あまり役に立たないんだ」
少しだけ考えて、クノンは来翔へ提案をした。
「私たちフェアリーは、来翔への恩返しをしなくちゃいけないから、私たちも戦う! あちらの世界へ行って、私たちも戦うよ!」
来翔は驚いて尋ねる。
「え? 君たちが?………いや、それはダメだよ。敵は本当に厄介なんだ」
「ダメ。これは女王命令です! 私たちも行く。そして、来翔に恩返しをする。それに、来翔が断っても無駄だよ! こっちには隠蔽スキルを持ってるメモルがいるんだよ? 勝手に内緒で着いて行けるんだよ? 私の浮上スキルは戦闘では全く役に立たないけど、エリーの巨大化とかセリカの野生化とか、戦闘では役に立てるの! お願い! 私たちも戦わせて!」
来翔は、メモルの隠蔽から逃げる事は不可能だと知っているので、諦めてフェアリーたちの同行を認めるしかなかった。
「わかったよ。ただし、あちらの世界ではさっきも言ったけど、面と向かってのバトルはほとんどないからね。心理戦とか、君たちでは暇になると思うけど大丈夫かい?」
「そんなの平気だもん!」
クノンは、全てのフェアリーにアメリカへ行くことを伝えるため、伝令のミツバチを飛ばした。ミツバチ達は一斉に国中のフェアリーに、エアウルフに乗ってアメリカまで行けることを触れ回った。すると、フェアリーたちの歓喜の声が一斉に上がった。
◆
フェアリーたちの荷造りが終えると、フェアリーを乗せたエアウルフはゲートに向けて飛び立った。
飛び立ってすぐに、エアウルフはマッハ2に加速した。フェアリー達は大興奮で、カーコとキーコを讃えている。その気になったカーコは、この日初めてのマッハ2.5に到達した。レベルアップの効果は、やはり凄かった。
速ければ速いほど盛り上がるカーコとキーコとフェアリーに反して、来翔とレンカは恐怖で真っ青になっていた。カーコとキーコは速度を緩めることなく、奥尻の鍋釣岩をマッハ3で通過した。どんな遊園地のアトラクションよりも、遥かに怖かった。
奥尻島に着くと、エアウルフの給油のために奥尻基地に着陸した。二度目の奥尻島ということで、フェアリー達は一斉に四方八方へ飛び去ってしまった。
「わーい! また奥尻だ!」
「あ! あそこにコンビニがあるよ!」
「行こう! 行こう!」
「ネーラ、お金持ってる?」
「ピヨピヨ!」
「あ、待って! 皆! 皆の姿がお店の人には見えないから買えないよ〜〜!」
仕方が無いので、給油中は来翔がフェアリーの為にコンビニへと付き合った。全員分の駄菓子を買い終えた頃に、エアウルフの給油も終わっていた。
「姉ちゃん! 来翔さん達が戻ってきたっす!」
「良し! マッハ3ならアメリカまで二時間で着くかな?」
レベルアップにより、カーコとキーコは間違いなく、ストリングフェローホークとドミニクを超えていた。
この日の奥尻島の夕日は、とても美しく輝いていた。夕日に照らされた海も、黄金色に染まっていた。
(第115話へ続く)




