【第113話 噛み合う心と噛み合わなくなる運命】
フェアリーの国に突如現れたエアウルフを見て、好奇心の塊であるフェアリー達が一気に集まってきた。
ドヤ顔でネーラとレフトがエアウルフから降り立つと、ますますフェアリー達が盛り上がる。
「みんな! これ超音速攻撃ヘリ、エアウルフ! マッハ2で飛ぶの!」
「ピーヨピヨピヨピヨ!」
超音速攻撃ヘリ・エアウルフは、フェアリーの心を一気に掴んでいた。すなわち、カーコとキーコはめでたく、フェアリーたちの姿を見ることが出来た。
「姉ちゃん! めっちゃ可愛いフェアリーがいっぱいいるっす!」
「本当だ! 私にも見えるよ、キーコ!」
フェアリーたちの熱烈な歓迎は、カーコとキーコに熱心なエアウルフの質問という形で迎えられた。自力で飛べるフェアリーではあるが、全員がエアウルフに乗りたがったので、カーコとキーコはフェアリーたちが満足するまで、エアウルフを何度も飛ばせていた。
◆
カーコとキーコが初めてのフェアリーの国を満喫している頃、シアトルでは、今話題の雨森とデメタが、モナとモナの彼氏であるジムにガマの油を売っていた。
「お姉さんは可愛いから大サービスだ! 七十五ドルで良いよ! 持ってけ泥棒ー!」
「ねぇ、ジム! オマケしてもらったんだし、二つ買おうか!」
ジムはさわやかに二百ドルを支払い、ムール貝の貝殻に入ったガマの油を二つ受け取った。
マーガレットが釣り銭を渡しながら、ジムに囁いた。
「ガマの油は滋養強壮にも効きますからね。今夜お試し下さいね」
ジムは少しだけ驚きながらも、ガマの油を受け取って帰って行った。
それから数日後。ジムは再びガマの油を買いに来た。
「おや? お兄さん! ガマの油が気に入ってくれたのかい?」
ジムは相変わらず笑顔で答えた。
「こんなカエルの油なのに、すごく効くんだね。僕のフィアンセも大満足さ!」
「そりゃ良かった! デメタにとっちゃ最高の褒め言葉でさぁ!」
そう言って、ジムはこの日もガマの油を買っていった。
◆
それから数日後。モナとジムが、二人の住むマンションの一室で、妊娠検査薬を見ながら頭を抱えていた。
「どうしよう、ジム。妊娠したのは凄く嬉しいけど……。今は不味いのよ。カリーナさんにジムのことがバレちゃう……」
「あんな危ない会社は辞めちゃいなよ。僕の稼ぎだけでも生活は出来るんだ。君が働く必要なんてないよ」
モナは苦い顔をして、しばらく悩んでから答える。
「今回は、おろしましょうか……」
その考えには、普段は温和なジムが真剣に怒った。
「それだけはダメだよ! そんな事をモナが言うなんて、信じられないよ!」
「でも、せっかく社長になれたのよ!? うちの会社は表立って公表はしてないけど、総資産だけならアメリカでも五本の指に入ってるの! それを捨てられる? ゾーンの奴らなんて利益に興味が無いんだもん! 我が社の総資産なんて、人間の社員が取り放題なの! 実質トップのカリーナさんからせっかく気に入られてんのに、今更、彼氏がいて妊娠しましたなんて事を言ったら、下手すればジムは殺されるかも知れないの! カリーナさんは、本当にそれをやれる人なの!」
ジムも、普段からカリーナの事でモナが愚痴っているのを聞いていたので、それがハッタリではないことを十分に理解していた。
「やはり、前社長のトンプソンを殺したのは、不味かったんじゃないか?」
「わかってるわよ! 私だって嫌だったんだけど、仕方なかったの! 序列は下のくせに、トンプソンは経済に強すぎたの! 地球人に馴染みすぎていて、他のゾーン団の人から見ると異質で恐れられてたんだもん! 当然、カリーナさんから一番疎まれてたの! 翻訳騒動が無くても、遅かれ早かれトンプソンは殺されてたわよ……」
そんな憂鬱な気分のまま、モナはこの日も出社していた。そして、相変わらずカリーナのセクハラに耐えていた。
が、妊娠が発覚したモナには、無意識的に拒絶の反応があったのかもしれない。判断力スキルを持っているカリーナが、その微妙な変化に気づいてしまった。
いつものようにキスをして舌を絡めながら、カリーナがモナの変化に気づく。だが、あえてその場では何も言わなかった。判断力スキルが、そうさせたのだ。
(今日のモナはおかしい……)
「モナ、あとでエルを呼んでもらえる?」
「ヒーラーのエルさんですか? どこか悪いのですか?」
「いえ、大丈夫よ。怪我も病気もしてないわ。エルにはゾーンとしての仕事を頼みたいのよ」
◆
午後。副社長室にエルがやってきた。
「カリーナさん。私に御用ですか?」
「あら? 今の貴方は女の姿をしているのね? 凄く可愛いわよ」
「そうでしょ? アメリカ社会は女の姿の方が色々と暮らしやすいですからね。随分前から女の姿をしてたんですよ。それで、こんな世間話をするために呼んだんじゃないですよね?」
カリーナは部屋全体に遮音魔法をかけて、周囲から音を遮断した。エルも事の重大さを悟り、真剣な顔に変わる。
「モナの身辺調査をお願い。何故だか判断力スキルに、今朝から反応が出てるのよ。違和感というか……うまく説明できないんだけど、昨日のモナとは明らかに何かが違うのよ」
「そりゃあ、変わりますよ。トンプソンをぶっ殺して、いきなり社長を任せられれば、誰だって心の変化くらいはあるでしょ?」
「いや、モナに限ってはそれは無いわ。あの子は野心の塊だったもの。社長になったくらいでは動揺するような子じゃないの。そういうところが、地球人のくせにゾーンらしくて、私も気に入ってたのよ」
「わかりました。それじゃ表向き、私に適当な所へ出張命令を出しておいてくださいよ。出張いくフリして、別の姿でモナの身辺調査をしますんで」
「頼んだわよ、エル」
こうして、エルはビル清掃の委託業者に潜伏し、それとなくモナの身辺調査を開始した。すると、すぐにジムというフィアンセがいること、産婦人科に通っていること、妊娠したことが発覚し、エルはその事をすぐにカリーナへ報告した。
その報告を受けたカリーナは、ニヤッと笑ってエルへ告げる。
「そうなのね。モナのやつ、彼氏がいたの……。まあ、可愛いもんね。それは仕方ないわ。でも、その彼氏はいらない。ただ、モナの子供は私とモナで育てるわ! こんな事で私とモナに赤ちゃんが出来るなんて、最高じゃない! エル。その彼氏って奴はもう用済みよ。消していいわ! ただ、モナには殺したと気づかれないように、事故を装って貰える? 交通事故とか通り魔とか強盗ならモナも諦めがつくでしょ。シアトルなら頻繁に強盗事件も起きてるしね。そうなれば、私とモナと赤ちゃんは幸せになれると思うのよ!」
カリーナは、モナに彼氏がいた事にほんの少しだけショックを受けていたが、愛するモナに赤ちゃんが出来ていたことは幸運だった。そんな狂気に満ちたカリーナを見て、エルもほんの少しだけ、恐怖を覚えていた。
◆
エルはこの日から、モナではなく彼氏であるジムの尾行をするようになった。ジムはエリートのモナとは違い、高卒で低所得者だった。市内でタクシー運転手をしている。比較的に尾行も容易いし、タクシー強盗を装えば、簡単に殺害が出来そうだった。コスプレのスキルは、好きな姿になりきる事が出来る。強盗をするには最高のスキルだ。
赤ちゃんが手に入ると知って舞い上がってしまっていたカリーナは、判断力のスキルを使用することを忘れてしまっていた。初めて判断力スキルより感情が勝っていたのだ。判断力スキルがまともに稼働さえしていれば、ジムの暗殺もプロに頼んでいたはずなのだが、安易にエルに頼んでしまった。もちろん、エルのコスプレというスキルは強盗にはピッタリなスキルだったのだが――こんな些細なミスから、カリーナは堕ちていく運命を辿ってしまう。
何も知らないジムは、可愛らしい女の子の姿をしたエルを、タクシーに乗せてしまった。
もう、賽は投げられたのであった。
(第114話へ続く)




