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【第112話 魔導書GET!】

 サイモンからゾーン団の歴史について知らされた来翔は、二千年前の天才魔道士について質問した。


「そのゲートを作った人は、地球とここを繋げて何をするつもりだったんですか?」


「あぁ、それは奴がイタズラ好きでのぉ。地球という新世界をハチャメチャにしてくると言って、アチラへ行ってしまったのじゃ。およそ二千年前の地球は、ハチャメチャにならんかったかの?」


「二千年前ですか……その頃の地球こそ、ゾーンの民が好きそうな無法地帯でしたよ? その世界をゾーンの天才魔道士がハチャメチャにするとしたら……アトランティスやムーは時代が違うしなぁ〜。ちなみに、その人の名は? 歴史上に名前が残ってるかも知れません」


「ヘブライじゃ」


 ヘブライと聞いて、来翔が思わず笑ってしまった。


 そんな来翔を見て、サイモンも困惑していた。


「な、なんじゃ、急に! 何か面白いことがあるのかえ? 早くワシにも教えておくれ!」


「ヘブライか〜。イエス! イエス! イエス! なるほど! そういう事か。えっと、そのヘブライさんは確かに二千年前に世界を大混乱に導きましたよ! ヘブライさんは、無法地帯の地球に道徳を宗教という名で広めました。それはやがて法と秩序となり、我々の世界は二千年という長い期間を、法と秩序の中、なんの疑いもなく生きてきました。なるほど。そうか、無秩序の人ががハチャメチャになると道徳になるのか〜」


「なんと! あちら側でヘブライは、エジントンのような事をしたというのかえ!? それは皮肉なもんじゃな……。それで、今のゾーンもアチラの世界をハチャメチャにしておるのかえ?」


「まあ、まだギリギリ、トカゲ人類よりは規模は小さいですが、世界の経済をひっくり返せるようなスキル持ちがいまして、その人はもう拘束できました。あと、世界を十回も滅ぼせる兵器を持ってましたが、それも海の底へ沈んだので、あとは残党を捉えると今度こそ地球は平和になります!」


 それを聞いても、サイモンは微妙な顔をした。


「それで本当に終わるのかの? ゾーンのボスがまだ残っているうちは、安心するのは早いのではないかえ?」


「ゾーンのボス?」


「そうじゃ。ゾーンのボスもまた、ヘブライの血を受け継ぐ者だと言われておるよ。ヘブライが魔法の天才であったように、ヘブライの血を受け継ぐゾーンのボスも天才のはずじゃ! 確か……今代でゾーンのボスは、三十五代目か三十六代目のはずじゃ。ボスのゾーンがいる限り、安心は出来んぞよ?」


「その今代のゾーンは、何処で何をしてるのか知ってますか?」


「何をしてるのかは知らんが、何処にいるのかはわかっておる」


 そう言ってサイモンは、空を指さした。サイモンの指の先には、大きな夕月が浮かんでいた。


「ま、まさか……月……ですか?」


「そうじゃ。今代のゾーンは、たった一人で月を支配したのじゃ!」


 来翔だけではなく、セイレーンのレンカも仰天して口を開け、夕月を眺めていた。


 そして、レンカが重い口で呟いた。


「どうりで、私とビリーがいくら探しても見つからないわけね……」


 来翔は焦ってサイモンに尋ねる。


「月を支配って、どうやって月まで行くんですか? 翼のあるレンカさんなら、あそこまで飛べるのでしょうか?」


 レンカが首を横に振った。そして、サイモンも重い口を開いた。


「さあな。長年生きているワシにもわからんよ。飛行魔法でも、あそこまで飛べるやつなぞ見たことがない。じゃが、あ奴はどうやって行ったのかはわからんが、月で暮らしておる。月の民が三十年前に地上に追いやられてきたのは事実じゃて。月の民は、須佐ノ国より東の小さな島に移り住んだのじゃ」


「その月の民は、どうやって地上まで降りてきたのですか?」


「はて? そんなものは簡単じゃろ。地上目掛けて飛べば、勝手に落ちてくるわい。上から下に。これこそ自然の法則じゃわい。月の民はパラソルをさして、フワリフワリと降りてきたに決まっておるよ。他にどんな降り方があるのかえ?」


 そんなメルヘンチックな降り方で降りてきたとは到底信じられなかった来翔がレンカを見ると、レンカも来翔と全く同じ表情で、来翔と見つめ合った。


「サイモンさん。こちらの世界では、空より高いところには宇宙とかあったりします? 宇宙ってのは空気と重力がなくて真っ暗で……」


「空気と重さと光が無いじゃと? 何を言っておる? 太陽があるのに真っ暗なはずがなかろう! 空気と重さが無いなんて、どんな理屈じゃ!」


 そうサイモンから言われて、改めて来翔のいる世界の方が明らかにバグっている事に気づいてしまった。


(確かに、太陽があるのになぜ宇宙は真っ暗なんだ? そもそも、地球の方がメルヘンチックだったのか?)




 ◆




 ある程度の話を聞けたことで、ようやく来翔が対カリーナ戦のために、レベルアップの胡麻が必要な事を説明した。


 そして、サイモンが出してきたのは、大量の白ゴマとレベルアップの胡麻五粒だった。


 来翔は寝ていたネーラとレフトを起こしてあげると、二人は久しぶりに見るレベルアップの胡麻を見て喜んでいた。


「お爺さん! この沢山ある白いゴマはなあに?」


「これはお土産用の美味しい白ゴマじゃよ。あちら側に帰ったら皆さんでお食べ。レベルアップの胡麻は、今は五粒しか無いから、皆さんで話し合って食べるが良いぞ」


 ネーラが一粒キープした。続いてレフトが一粒キープした。本当に申し訳なさそうに、レンカも一粒キープした。何故かカーコとキーコもそれぞれ一粒ずつキープしたので、五粒全部が行き渡ってしまい、来翔の分が無くなってしまった。


 そんな来翔以外の胡麻所持者たちが、鋭い目つきで醜い争いを始め出した。


「レンカは関係ないじゃん! なんで胡麻を取るの? それは来翔の分なのにさ!」


「私は相方のビリーの仇を討たなくちゃならないから、当然貰う権利はあるでしょう! そんな事よりも、そちらの黄色い小鳥が胡麻をキープしてる意味がわからないわ?」


「ピーヨピヨ! ピーヨピヨ!」


「そもそも胡麻を貰いに来ようと言ったのはレフトだ! って言ってるよ!」


 ネーラが同時通訳していると、キーコが先行して一粒食べてしまった。


「ゴックン! あ! 何か力がみなぎってきた!」


 それを見たカーコも一粒食べてしまった。


「ゴックン! あ! 本当だ! 今の私ならマッハ4にも耐えられそう!」


 残る胡麻は三つになったところで、来翔が醜い争いを制止した。


「僕は良いから、みんなが食べなよ」


 ネーラとレフトが戸惑ってる中、レンカは一粒食べてしまった。


「あ! 本当にレベルが上がってる!」


 レンカだけは鑑定モノリスを持っていたので、自分のステータスを確認して喜んでいた。


「ピヨピヨ!」


 そう言って、レフトが来翔へ一粒差し出した。それを見たネーラも一粒差し出した。


「レフトは食べなよ。私、いらない……」


 ネーラもレフトも、今にも泣きそうな顔をしていた。来翔はニコッと笑って答える。


「ネーラもレフトもレベルを上げたくて来たんだろ? 君たちが食べるといいよ。僕は本当に必要ないからね」


 ネーラとレフトは顔を見合わせて、本当に申し訳なさそうに戸惑っていた。


 そんな来翔とレフトとネーラのやり取りを見ていたサイモンが、来翔の為に戸棚からクルミを十個も出してきた。


「ほれ。来翔。お主はこれを食べるが良い」


 クルミを受け取ってから、来翔は改めてネーラとレフトに胡麻を食べるように促した。クルミを貰った来翔を見て罪悪感が和らぎ、二人は胡麻を食べてしまった。


「ピヨピヨピヨ!」


「やった! レフトも私もまたレベルが上がった! 早く! 来翔もそのクルミを食べてみてよ!」


 来翔はクルミを割って、一粒食べてみる。


「う、美味い! サイモン! このクルミ、超美味い!」


 サイモンはニコッと笑って答える。


「そうじゃ、そのクルミはとても美味いクルミなのじゃ!」


 ネーラとレフトだけではなく、レンカやカーコやキーコが、そのクルミの特殊効果をワクワクしながら来翔を見つめていたが――来翔はなんの変化も起こらない。


「ピヨピヨ?」


「ねぇねぇ。来翔。レベルが上がったの? いくつ上がったの?」


 来翔とサイモンは、クルミを食べながら答える。


「いや、特に変化はないよ。普通に美味しいクルミってだけ」


「そうじゃよ。これは美味しいクルミなんじゃもん。変な特殊効果なぞ、あるわけがないぞよ」


 その場にいた胡麻を食べた五人は、気まずそうに、オッサンとジジイが美味そうにクルミを食べているところを、黙って見ていた。




 ◆




 すると、何かを思い出したようにサイモンが立ち上がり、書斎から数冊の魔導書を持ってきた。


「来翔は魔素があるんじゃもん! 魔導書を持っていくがよい」


 サイモンがちゃぶ台に並べた魔導書は、電撃魔導書、召喚魔導書、水魔導書、魔眼書、次元魔導書、レシピ本、健康書――だった。


「お主の魔素量ならば、どれか一つしか覚えられんぞよ。どれにするかの?」


 来翔がどれにするか悩む前に、既にレシピ本を見つめて、ネーラとレフトがヨダレを流していた。レシピ本の表紙には、美味しそうな酢豚の写真が載っていたからだ。


「二人は酢豚を食べたいのかい?」


 ネーラとレフトは、酢豚の写真を見つめながら何度も頷いていた。


「そうか。酢豚は結構、手間がかかるから作ったこと無かったよ。よし、わかった。このレシピ本を貰って、江差に帰ったら酢豚を作ってあげるからね!」


 ネーラとレフトは、嬉しさのあまりサイモンの家中を縦横無尽に飛び回っていた。


「サイモンさん、ありがとうございます! レシピ本を貰っていきますね!」


 サイモンもニッコリと笑って、レシピ本を来翔に手渡した。来翔はそれを大切そうに小脇に抱えていた。




 ◆




 サイモンとの再会と、それぞれのレベルアップも終わり、あとはゲートに帰るだけなのだが、カーコとキーコがフェアリーの国へ行きたいと言うので、エアウルフで空中都市のフェアリーの国へと飛んだ。


 勇ましく飛んでいくエアウルフを、サイモンが見えなくなるまで見送っていた。




 (第113話へ続く)



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