【第111話 超音速AirWolfで異世界無双してみた姉妹】
ZONからデビットが失踪してから一週間が経っていた。
「モナ、今日で一週間よ? もうアナタが社長に就任してもいいんじゃない?」
「ありがとうございます! 既に彼の自宅には解雇通知を発送済みなので、本日付けで、この私が社長に就任させて頂きます! 早速、社内放送でこのことを発表してもいいでしょうか?」
モナはとびきりの笑顔になっていた。そんなモナを見て、カリーナもとても嬉しそうにモナを抱き寄せてキスをしていた。
◆
そんな社長交代劇が行われていた一週間前、奥尻の駐屯基地のヘリポートでは、カーコとキーコがエアウルフに給油していた。
「来翔さん! 死ぬ時は一緒っすよ! 早く乗って下さいっす! うちの姉ちゃんはああなったら、もう止めなんないっす!」
来翔とネーラとレフトが恐怖に苛まれながらエアウルフに乗り込み、キーコに尋ねている。
「本当に大丈夫? プロペラを止めるなんて出来るの?」
「もちろんっす! ターボブースト中はジェット推進なんす! ローターは元々、ターボブースト中は全く使ってないっす!」
「とはいえ、あのゲートを音速で通過するのは、ストリングフェローホークでも無理なんじゃ?」
「うちの姉ちゃんは、ストリングフェローホークを超える逸材になるのが夢なんす! 私もドミニクを超えたいっす!」
「超えたいの!? まだ超えてないの!? ヤバいじゃん! 超えてからやろうよ! まだ超えてないなら無理だよ! ゲートをエアウルフで通過するなんてさ!!」
キーコはニヤッと笑って親指を立てて答える。
「こんな時、ドミニクならGOサインしか出さないっす!」
「そこはドミニクにならなくて良いんだよ……」
「ピヨピヨ……」
「レフトも怖いってさ……」
彼らが何を話しているのかというと――カーコは、来翔が異世界でエルフの国まで行って帰ってくるまでに二週間もかかると言ってきたことに、気の短いカーコが不満を抱き、エアウルフで鍋釣岩のゲートを通過すると言い出していたのだ。
ヘリとしてローター飛行する場合、当然プロペラが岩に接触してしまい、余裕で通過できないのだが、エアウルフに限ってはジェット推進に切り替えるとローターは縦に固定して飛べるので、鍋釣岩のゲートギリギリで通過できるのだ。
[穴の幅七.五メートル-機体幅三.四メートル)÷二=二.〇五メートル]
[穴の高さ七.〇メートル-機体高三.六メートル)÷二=一.七メートル]
幅と高さの余白は二メートル。
カーコは基地の整備兵達と楽しそうに語り合っていた。
「私のエアウルフならやれるよ!」
「頑張ってください! 我々が責任もってレーザー誘導しますんで!」
「誘導なんて邪道だよ! 完全マニュアル操作でやってやるよ!」
カーコのアドレナリンは全開だった。
◆
来翔が乗り込んだところで、目が血走っているカーコが荒々しく離陸した。
「遅いよ、来翔さん! さあ! 行くよ! 異世界に!!」
エアウルフは駐屯基地を飛び立つと、鍋釣岩目指してターボ全開でマッハ1に達した。
「来翔! 怖い! カーコもキーコも顔が怖い!」
「ピーヨピヨ! ピーヨピヨ!」
来翔の手のひらに隠れるように、ネーラとレフトは包まれている。来翔もあまりの恐怖に、目を閉じてしまった。
「行っくよー!!」
「姉ちゃん! 行けっすー!」
プロペラを縦一文字にして、エアウルフはマッハ1の速度で鍋釣岩のゲートへ真っ直ぐ飛んだ。そして、ゲートをギリギリで見事に通過し、一瞬にして異世界の空を、初めてヘリコプターが舞い上がった。
異世界側のゲート前にいた乗合馬車の御者たちも、生まれて初めて見る空飛ぶ乗り物の轟音と迫力に、たまげて腰を抜かしていた。
「やったー! 出来た!」
「さすが姉ちゃんっす! ストリングフェローホークを超えたっす!」
無事に通過できたことで、ネーラとレフトも大騒ぎしていた。
「ピヨピヨ!」
「凄い! 凄い!」
ゲートを通過したことで、カーコとキーコが初めてフェアリーであるネーラを見ることが出来た。
「うわっ! アナタが妖精さんなんだね! 初めましてではないけど、初めまして!」
「うん! やっとお話出来たね、カーコ!」
「可愛いっす! 妖精さん! うちにも欲しいっす!」
「エアウルフで妖精の国に行けば、きっと乗りたいって子もきっといると思うよ! キーコ!」
「マジっすか! あとで妖精の国にも行きたいっす!」
「行こう! 行こう!」
◆
こうして、エアウルフはまずビリーの屋敷がある南区へと飛んだ。南区にはヘリポートが無いため、郊外に停めて、そこからは歩いてビリーの屋敷へ向かった。
ビリーの屋敷には、秘書的な事をしていた魔族のミーネルと、ビリーの相棒を長年していたセイレーンのレンカ、それからビリーのパチンコ店の店長をしていた戸田が集まっていた。
「来翔さん……本当にオーナーが?」
「うん。残念だけど毒殺されてしまったんだ。これ、ビリーの遺品だよ」
そう言って、来翔が戸田にビリーの身につけていたグローブやガントレットを手渡した。
すると、ミーネルがビリーの遺言書を金庫から出してきた。
「ビリーは、いつ死んでもいいように遺言書を残していたんです……」
遺言書には、賞金稼ぎギルドの首領はミーネルに譲ると記されていて、パチンコ屋もそのままミーネルに譲渡する旨が記載されていた。
そして、長年相棒を務めていたレンカが、来翔に同行してゾーン団の壊滅に協力すると申し出てきた。もちろん、来翔は断らなかった。
「来翔さん、俺も行きたいけど、ただの元C-Classの俺なんかじゃ足手まといになると思うんで、自重します! レンカ姐さんはオーナーの相棒をしてた人なんで、相当強いです! きっと役に立ってくれます!」
戸田はゾーン団相手では荷が重すぎるとして、自重していた。
ビリーの遺品を手渡したあとは、エアウルフでサイモンに会うためにエルフの国へと飛んだ。
◆
「お爺さん! また来たよ!」
ネーラとレフトがサイモン邸に飛び込んでいった。
「おや? おチビちゃん! また来たのかえ?」
「うん! 胡麻! 胡麻を貰いに来たよ!」
レベルアップの胡麻を、小さな二人が焦った顔をして欲しがっているのを見て、サイモンはただ事ではないことを察し、来翔を見て事情の説明を求めた。
来翔が事の経緯を詳しく語ると、それを聞いたサイモンがゆっくりと語り出した。
「そうか……今のゾーン団は、そんな事になってしまっていたのか……。あれから九百年も経つというのに、未だにアップデート出来てないのじゃなぁ〜」
「お爺さんは、昔のゾーン団を知ってるの?」
「あぁ、知っておるよ。九百年前のこの世界には、まだ法律も秩序も無くての。ゾーン団のような力が全てという時代だったのじゃ。ところが当時、エジントンという男が、この世界に宗教を作った。神の名のもとに道徳を布教したのじゃ。こうして、そんな教えに賛同したもの達が作った国が、エジントン聖教国なんじゃ。エジントンは教祖になると、聖人扱いされるようになる。普段から『殺すな』『盗むな』『傷つけるな』と言ってきたからのぉ〜。いざ、ゾーン団のような荒くれ者が目の前に現れても、戦うことも出来なくなったわけじゃ。そんな聖人の代わりに暴力で秩序を守るヤツらが必要になり、エジントンは帝国を作ったのじゃ。帝国とは、聖教国によって都合の良いように作られた国なのじゃよ。ゾーンの民は、そんな聖教国と帝国により、九百年かけてどんどん領土も民も奪われていって、ついには盗賊一味へと規模を縮小されたのじゃ。ただし、力が全てのゾーンの民は、未だに個の強さがすさまじい。個が軍隊を凌駕する。近年では帝国も聖教国とは密接な関係でも無くなり、聖教国もまた宗教感が薄れてきていたのじゃ」
サイモンの話が長すぎて、ネーラとレフトとカーコとキーコはとっくの昔に眠ってしまっていたが、来翔だけはサイモンから、九百年の歴史をしっかりと聞いていた。
「なるほど。ゾーン団の目的というか、理念がわかってきましたよ。ゾーンが旧コナ国を統治していたのは、実は九百年以上も前から続いてたんですね?」
「そうじゃ。コナ国は元々、ヤツらの縄張りじゃな。ヤツらは蛮族の集まりじゃから、当時からコナ国とは呼ばれておらんかった。あの地のことは、昔から蛮族ゾーン(エリア)と呼ばれておったのじゃ。それが九百年経つと、ゾーン団の縄張りからコナ国へと呼び名も変化していったんじゃ。蛮族ゾーンのゲートも、元々はゾーンの民の天才的な魔道士タイプが作ったものじゃ。二千年ほど前、ゲートを作れるだけの圧倒的な魔道士が、あの地を収めておったのじゃ……。そんな彼はゲートを作り、二千年前に地球へと行ってしまったんじゃ」
「二千年前……ですか……ゲートを作ったのも、ゾーン団の祖先でしたか……」
ジジイとオッサンが内容の濃い話をしている中、ネーラとレフトとカーコとキーコは一度も目覚めることなく、ジジイとオッサンの落ち着いたボイスを聴きながら、スヤスヤと眠っていた。
(第112話へ続く)




