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【第108話 クマよりも】

 殺し屋からの報告を聞いて、社長室ではカリーナとモナがシャンパンで祝杯をあげていた。


「モナのおかげよ! 本当に素晴らしいわ! こんなに簡単に完全犯罪って出来るものなのね! さあ、モナ、こちらへいらっしゃい。ご褒美をあげるわ」


 そう言って、カリーナはモナを抱き寄せてキスを交わした。


「副社長……ありがとうございます」


 ウットリとしてモナも見つめ返す。


「ねぇ、モナ。完全犯罪と言うからには、実行犯も殺して欲しいのだけれど……」


「はい。あの老人なら私一人でも殺れますよ、副社長。ボーナスを追加するとか言っておびき出して、私が殺りましょうか?」


 カリーナの判断力スキルが、それを否定した。


「ダメよ。私の陣営から殺人者を出す訳にはいかないわ。それじゃ完全犯罪にならないもの。……そうね。あれでも、トンプソンって下の者から慕われていたのよ。だ〜か〜ら〜、彼を慕ってた馬鹿な奴に、殺し屋の情報を流しなさい。それこそデビットなんて最適よ! 今日明日にはデビットが帰って来るのでしょ?」


 モナはニヤリと笑って答えた。


「はい。デビットは明日の午後から出社予定です。トンプソンの腹心でしたからね。トンプソンが殺されたことを知れば、必ず殺し屋を始末するはずです!」


 カリーナとモナはニタリと笑って、再び濃厚なキスを交わしていた。




 ◆




 そして翌日。


「デビットさん、おかえりなさい。大変です! 原子力潜水艦が沈没しました!」


 トンプソンから経営権を委ねられたばかりのデビットは、唖然として言葉が出てこなかった。


「は?」


「潜水艦が何者かに攻撃されたようです!」


「の、乗組員は!? しゃ、社長は無事なんだろう? 乗組員は全員ゾーンの戦士だぞ? 死ぬわけないよな?」


「いいえ。全員死亡です。今はサンフランシスコに副社長が、遺体の確認に向かってます」


 デビットは途方に暮れてしまった。つい数日前に、トンプソンから直々に経営権を委ねられたばかりなのに、そのトンプソンが急死するとは思ってもいなかった。


「遺体の確認を……カリーナさんが?」


「はい。地元の警察から要請があり、六人全員と面識のある副社長が向かいました。副社長もこの知らせを聞いて、涙を堪えてました……」


「今、確か攻撃されたと言ったか? 潜水艦を? そ、そんな事が出来るのか? 米軍ではないよな? 既に我々の会社で軍は買収済だぞ?」


 モナは、スミス探偵社と書かれた封筒をデビットに渡しながら説明をした。


「その件については、探偵を雇って既に犯人を見つけております。クリオという有名な殺し屋です。クリオには息子さんがいて、どうやら息子さんは元米軍で、江差侵攻の時に初期のゾーン団に殺られて亡くなっているそうです。これは、クリオの個人的な恨みからの犯行だと思われます!」


 探偵社からの様々な証拠を見ながら、デビットは悔し涙を浮かべていた。


「モナ、コイツを殺せる殺し屋を探してくれ。トンプソンさんの仇は俺が討つ! カリーナさんに先を越されたくはない! 急げ! カリーナさんにこのクリオという殺し屋が見つかると、瞬殺されてしまう! 仇だけは俺が取りたいんだ! 頼む!」


 モナは、最初からデビットがそう言ってくるのを予感していたかのように、もうひとつの封筒を手渡した。


「既に手頃な殺し屋を見つけております。キューティーという女の殺し屋です」


「金はいくらかかっても構わん。クリオを無惨な方法で殺してくれ!」


 モナはニヤリと笑って一礼し、社長室から退室した。




 ◆




 その日の夜。アリバイ作りのためにサンフランシスコまで出張していたカリーナは、作戦通りに進んでいることをモナから電話で聞いて、ほくそ笑んでいた。


 本当にアリバイ作りのために、サンフランシスコの警察署に赴き、遺体の確認をすることになった。だが、遺体を見た瞬間、嬉しさのあまりに小躍りして笑い出しそうになるのを、必死にこらえていた。


 そんな様子を見た女性刑事が、気遣うように声をかけてきた。


「お辛そうですね。直接、遺体を見なくても、写真でも確認できますよ!」


 その言葉に甘えるようにして、写真だけで遺体の確認を済ませる。


「はい。ウチの社員たちで間違いありません……」


 カリーナはその場で派手に嘘泣きをして、女性刑事の同情を買った。その女性刑事もカリーナの好みのタイプだったので、思わず攫おうとも考えたが、完全犯罪が崩れることを危惧して自重した。


 カリーナは、積年の思いを込めて、その女性刑事の胸の中で泣いてるフリをした。


(全てが終わったら、この女刑事を攫おう……。それにしても、ビリーまで殺してくれたなんて、あの殺し屋は本物だったわ……クックック……笑いが止まらないわ!)




 ◆




 地元の警察からカリーナによる遺体確認が終わったことが、勇者ワタルへ報告された。


「来翔さん! 警察署にカリーナが来てるみたいです! どうしますか!? 俺たちで戦いますか!?」


 そんな勇者に、来翔が冷静に答える。


「だから、お前はダメ勇者なのだ!」


「は? 俺が? ダメ勇者?」


「カリーナには魔法も物理も効かないと言ってるだろ! 今のお前らでは傷一つ付けられん!」


 ワタルもムキになって答える。


「俺がダメでも、来翔さんなら勝てますよね? 魔法障壁なんてぶち破れるでしょ?」


 来翔も困り顔で答えた。


「ワタルさんの気持ちはわかるけど、今はダメです。シアトルのZONにはまだゾーン団がいるそうなので、ここでカリーナに勝てたとしても、シアトルにいるゾーン団が何をするかわかりません。カリーナがシアトルに帰るまで待ちましょう。それに、カリーナにはちゃんとスパイも付けますんで、彼女の弱みを調べてもらいましょう」


「スパイ? ですか……。そのスパイもカリーナにバレたら、かなり危険ですよ」


 来翔はニヤリと笑って答える。


「大丈夫。絶対にバレません。お願いします、田吾作さん」


 来翔が誰もいない虚空を見つめて呟くと、その虚空の中から声だけが聞こえてきた。


「やんや! めんどくせぇなぁ〜。あのべっぴんさんの弱みを握れってか! オラがあのべっぴんさんにベッタリくっ付いてたら、ウチの女房も怒ってまうでねぇの!」


 それを聞いた詩音が答える。


「大丈夫よ、ダーリン。私、信じてるから! 私やLEONだとバレる可能性があるから、ダーリンしか出来ないの。お願い!」


「やんや! そしたら行ってくるべ。あのべっぴんさんのすぐ後ろさピッタリくっ付いて、シアトルまでちょっくら行ってくるわ! あんたがたもクロガネとビリーの埋葬が済んだら来んだべさ?」


「はい。埋葬が終わったら僕らはエアウルフで直行します! シアトルのフォーシーズンホテルで集合って事で。既に予約は済んでるので、田吾作さんも疲れたら宿で休んでも良いですからね」


「何言ってんのよ! はんかくせぇんでねぇの? オラはクマ撃つ時は一週間くらい山から降りてこねぇっての! オラが本気になれば、一、二週間は休まなくても良いんだわ! そしたら、早速行ってくるべさ!」


 来翔が虚空を見つめて手を振ったのを見て、ワタルが尋ねる。


「来翔さんには見えてるんですか?」


「え? 見えるわけないじゃないですか! 田吾作さんがかくれんぼしてる時は、LEONさんの目でも見えないそうですよ? 今のは勘です、勘! たぶん、こっちの方かな? って勘です」


 田吾作の声はしなくなったが、部屋の扉が開くこともなかった。本当に出ていったのか、それともまだそこにいるのか、誰にもわからなかった。


 そんなチートじみた存在を知らなかったトンプソンとレベッカが、恐怖に固まっていた。


「勇者チームには、木べらの戦士以外にも恐ろしい男が、まだいたのだな……」


「えぇ、確か、ゾーン団でも透明化は難しいんでしたよね? 社長……」


「あぁ、その透明化のエースも、そこにいる木べらの男に殺された……。ハナから、ゾーンはコイツらに勝ち目は無かったということか……」




 ◆




 一方、警察署から出てきたカリーナの背後には、田吾作がピッタリとマークしていた。


(本当にべっぴんさんだへさ、こんなべっぴんさんがクマよりもおっかねぇなんて信じられないべさ……)


 カリーナは上機嫌で街を歩き、娼婦が立ち並ぶ地区まで来ていた。


「あら、貴女、可愛いわね。女でもイケる?」


 カリーナに声をかけられた一人の娼婦が、笑顔で答える。


「えぇ。泊まりなら五百ドルよ」


「払うわ。行きましょう」


 こうして、カリーナは上機嫌のまま娼婦を買って、ホテルへと入っていった。そんなカリーナの情事を、猟師の田吾作がギンギンになって見つめていた。


(こりゃ楽しくなりそうだわ! クマを追いかけるよりも、ずっと楽しいべさ!)




 ◆




 それから二日後。カリーナはZONに出社していた。副社長室には、カリーナとモナと田吾作がいる。


「カリーナさん、お疲れ様です! まんまとデビットが罠にハマりましたよ! これで完全犯罪達成です!」


「そうでしょ? 私の判断力スキルも満更悪くないスキルだわ。ほんの少しだけ気に入ってきたかも。で? 例の殺し屋はもう始末したの?」


「デビットの様子を見てる限りでは、まだみたいです。今日もイライラしてましたし……」


「例の殺し屋を始末し終えたら、デビットには退場してもらわないとね。その辺も大丈夫?」


「はい。バッチリ、殺し屋と会って金を渡してる所を写真に撮りました!」


 そう言って、モナがスミス探偵社の封筒の中から、デビットが女殺し屋に金を受け渡しているシーンの写真を取り出した。


「うふふ、デビットが逮捕されたら、モナがここの社長をしてちょうだい」


 モナもニヤリと笑って答える。


「はい。おまかせ下さい。でも、カリーナさんが社長じゃなくていいんですか?」


「う〜ん。そうなのよねぇ。我々、ゾーンの人間って働くことが嫌いなのよ。異世界でも九百年前から法と秩序と戦ってきた歴史があるのよ。トンプソン以外のゾーン団は、働いてお金を得るよりも、奪ってお金を得たいって人の方が多いのよね。トンプソンだけが、ゾーンでも異質なの。だからこそ、モナに経営権を委ねたいのよ」


「わかりました! 私が責任もって、ZONを大きくしますね!」


 カリーナも満足したようにモナを抱き寄せて、濃厚なキスをし始めていた。


(このべっぴんさんはあっちゃこっちゃに彼女を作って、いつか刺されんでねぇの?)


 田吾作がギンギンになって、二人の濃厚なキスを至近距離で見つめ続けていた。




 (第109話へ続く)



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