【第109話 ZONのヤツら】
「やんや、あんな女は初めて見たじゃ! 仕事なんてほとんどしねぇで、女の子ばっかり抱いてるんだわ! だから、割と簡単に殺せるんでないかい? あんな隙だらけなら、誰だって殺せるべさ!」
カリーナの調査を終えた田吾作が、ホクホク顔で語っていた。
「デビットって奴に罪を擦り付けようとしてっから、早く罠だって事は教えてやんねぇと可哀想だわ!」
カリーナの仕組んだ罠についても具体的に語ってくれたので、早々にトンプソンがデビットへ電話をかけ、ホテルへ呼び出した。
「トンプソンさん! やはり、生きてたんですね! 良かった〜!」
「うむ、潜水艦の爆発くらいではゾーン団の戦士は死なん。他のメンバーが死んだのは毒殺だ。貴重な『操縦』スキル持ちを二人も失ったのは、かなりの損失だ」
「とにかく、トンプソンさんさえ生きていれば良かったじゃないですか! 今やZONはカリーナ派閥の天下ですよ! トンプソン派閥のゾーン団の人たちは地方へ左遷される予定です。私も近々、社長職を失うそうです!」
「デビットが? 社長のお前が何故?」
「はい。実はトンプソンさんの仇を取ろうと殺し屋を雇ったことが、世間にバレた時のリスク回避のために、私は閑職に左遷されるそうです。私の後釜はモナになります!」
ここで、田吾作が口を挟んだ。
「やんや、そのモナってかわい子ちゃんはカリーナの愛人だべさ! そのモナってかわい子ちゃんも、カリーナを利用しようとしてるからタチが悪いんだわ! モナはカリーナには言ってねぇけど、ちゃんとした彼氏がいるんだわ! これもカリーナにバレたら、モナもその彼氏も殺されんでないかい? それと、デビットは明日から会社に行きなさんな! アンタは顔に出やすいからよ、トンプソンとこうして会ったことがバレっから! アンタは昨日まではイライラしてたべさ。明日もその演技が出来れば良いけどよぉ、カリーナの判断力スキルの前じゃ、まんずバレっから! あとよぉ、カリーナは女の子とベットの上とシャワーの時しかバリアは解かねぇな。ずっと日中はバリア出っぱなしだわ! ありゃ、オラかLEONしか倒せねぇな。日中はまんず不可能だわ。寝てる時もバリア出っぱなしよ! 殺せるチャンスは女の子を抱いてる時とシャワーの時の二回だけ!」
カリーナの底なしのMPのことを聞いて、長年付き合いのあるトンプソンでさえ驚いてしまった。
「まさか、そこまで魔法障壁を展開してるとは……。さすがはゾーンの妹よ……」
魔法も物理も完全耐性の魔法障壁が一日中展開していると聞いて、その場にいる全員が困った顔をした。
そんな中、詩音だけは世界樹のクロスボウを手入れしながら呟いた。
「ダーリン、私に殺らせて欲しい。きっとLEONさんやダーリンが殺った方が上手くいくんだと思うんだけど、ダーリンは女を撃つことなんて出来ないでしょ?」
田吾作は少しだけ悩んでから答えた。
「やんや、そったらクロスボウで殺るってか! 二発しか撃てねぇんだべさ。奴は魔道士タイプと言えどゾーン団の幹部だど? たったの二発で倒せるべか?」
詩音はニコッと笑って、腰の鉈を引き抜いて答えた。
「いざとなればダーリンから貰ったこの鉈で戦うから大丈夫! それに、この世界樹のクロスボウは魔法武器に匹敵する威力もあるからね! 任せてよ!」
そんな夫婦の惚気を聞いていたカーコとキーコが、元気よく二人揃って手を挙げて話に加わった。
「はい! はい! 私らもZONをぶっ壊したい! せっかくエアウルフで来たんだから、ZONをぶっ壊しても良いよね?」
「操縦は姉ちゃんっすけど、砲撃手は私っす! キャノン砲を撃ちまくるっす!」
ここで、トンプソンが冷静な意見を語り出した。
「カリーナ殺害は最後にした方が良いだろう。即死させないと、カリーナは死なないぞ? と言うよりは死ねないんだ。今、マーガレットが付けているリジェネリングと同じ物を付けてるからな。たとえ、その世界樹のクロスボウで心臓を貫いても、リジェネリングの効果で即死にはならん! そして、一番問題なのが、ゾーン団には異世界でも最強クラスのヒーラーがいる。心臓を貫いたくらいでは、すぐに復活してしまうぞ」
◆
と、ここで、トンプソンからZONに残っている脅威となる人物が語られた。
「まずは、最も強いのはやはりカリーナだ。カリーナの『スタミナ』というスキルはMPが尽きることがない。と言っても、いつかは尽きるから無尽蔵ではないのだが、二十時間程度なら魔法障壁を展開できるらしい。これが下位互換の魔法防御という物理耐性のものなら、三日は展開していられるそうだ。その他にも、爆撃魔法や氷魔法も得意とされている。パッシブスキルについては、何を持っているのかは俺たち下っ端には教えられていない。ただ、本人は努力が嫌いなため、運転や操縦などの地球オリジナルのスキルは獲得できていない。銃も握力や腕力が無いから、射撃系のスキルは獲得できなかった。あと、肝心なことは、高所が苦手で高くは飛べない。奴の最たる弱点はそこだな」
過去にオーストラリアで対戦済みのワタルが尋ねた。
「オーストラリアでは、俺との対戦中に三分もかかるという魔法詠唱を唱えてましたけど……確か、ホーリーレインと言う回避不可の広範囲魔法とか言ってましたよ? それは得意魔法ではないんですか?」
「あぁ、あれは魔法詠唱が三分以上もかかる上に、詠唱をミスるとMPがゴッソリ持っていかれるから、滅多に使えないのだ。たぶん、それを使おうとしていたということは、その時にはカリーナはまだ何かしらの冷静になれるスキルを持っていなかったのだろうな。残念ながら、最近、何故か冷静な判断ができるようになってしまった。以前の奴なら、完全犯罪などは考えなかった。ちなみにホーリーレインは、光の雨が野球場程度の範囲に降り注ぐ魔法だ。雨をかわせる奴ならかわせるが、この中に雨をかわせる奴はいるのか? 雨天時の雨が水ではなく貫通性のある光だと思っておけ。これを使える奴は、ZONでは今はカリーナ一人になっている。そこの木べらの戦士に、もう一人のホーリーレイン使いのエースが殺されてしまったからな」
全員が、来翔を見た。
「あれはネーラが透明化を見破っただけだよ。僕は指示されたところを撃っただけさ。トドメもワタルさんが刺しただろ?」
トンプソンが溜息をつきながら呟いた。
「己の強さに無自覚な所が、さらに恐ろしい男だな」
ワタルもそれに同意する。
「そうなんですよ。来翔さんはいつもああなんです……。そこがかっこいいんですけどね……」
トンプソンはカリーナ以外の危険人物を語り始めた。
「次にヤバいのはバーンという男だ。戦士タイプの親衛隊の一人だ。カリーナと組むことが多いな。武器は刀。もちろん魔法刀を使っている。効果は激痛。悪趣味な魔法刀だ。コイツの効果は、かすっただけでも激痛が襲う。この激痛に耐えられる者などいない。本来は拷問用に作られたものらしいのだが、バーンはこれを戦場で使っている。ちなみに『運転』スキルを持っていて、単独の時はバイクで行動しているな」
効果激痛と聞いて全員が顔を見合わせると、雨森の頭の上のガマガエルのデメタがドヤ顔で「ゲコゲコ!」と鳴いた。
雨森が通訳をしてくれる。
「ハハ、デメタの野郎が恐ろしいことを言ってますぜ! どんな痛みにもオイラの油は効くよってね。全員、ガマの油を懐に入れときな! だそうですぜ!」
来翔がニコッと笑ってデメタを撫でた。
「ありがとう、デメタ。僕も三つ買わせてもらうよ!」
「ゲコゲコ!」
デメタもニコッと笑って鳴いた。
勇者チームのヒーラーとして着いてきたデメタが「ゲコゲコゲコゲコ?」とトンプソンに質問をしようと鳴いている。
カエルの言葉を理解できないトンプソンが、困った顔で雨森を見た。
「デメタの野郎はゾーン団のヒーラーのこと、早く話せと怒ってますぜ。ヒーラーから倒すのは戦いのセオリーだろ? と申してます……」
トンプソンは意外な顔をして雨森に尋ねる。
「なんと! このカエルも戦えるのか!?」
「ゲコゲコ!!」
デメタが激怒して、雨森の髪型をぐちゃぐちゃにしている。
「おっとっと! デメタ! おやめなさい! ゾーンの旦那。デメタはこう見えて勇者様の剣の師匠でさぁ。戦えるか否かと問われると、戦えます。しかもあっしよりも強ぇ」
デメタはドヤ顔でふんぞり返っている。
「ゲコゲコ」
トンプソンは気を取り直して、ヒーラーについて語り始めた。
「実は、ヒーラーについては外見については教えられん」
全員が困惑してしまった。
そんな中、ワタルが詰め寄る。
「おい! 今更、隠してどうする!」
「いや、それが本当に教えられんのだ」
トンプソンが言葉足らずなので、レベッカが代弁する。
「実は本当に、ヒーラーのエルさんの外観は教えられないのです。実は毎日、姿を変えてるんです……」
「「「は?」」」
全員が戸惑ってしまった。
その戸惑いに答えるように、トンプソンが説明をする。
「エルには、地球で獲得した『コスプレ』というスキルがある。このスキルのせいで、どんな人物にもなりきれるのだ。男でも女でもなりきれる。子供でも老人でも、どんな姿にもなりきれるのだ。ヒーラーだから基本的に戦えなかったのだが……俺になりきることも出来る……混戦になると、同士討ちも考えられる厄介な相手だ。ヒーラーから倒すのは戦いのセオリーではあるのだが、このエルに限っては、一番最後に倒すのが最も簡単な攻略法になる」
◆
こうして、トンプソンによるZONに残っている倒すべき敵の情報共有が行われていった。
全てを聞き終えた来翔とワタルは、思わず呟いた。
「百億円の賞金首ってのは、甘くないですね……」
「はい……。でも、そんなヤツらから来翔さんは恐れられてるんですよ? もっと自覚して下さいよ!」
来翔の肩に乗っていたネーラとレフトも、同意して頷いていた。
(第110話へ続く)




