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【第105話 プロの賞金稼ぎ】





 オルカ号にマーガレットが救助されると、マーガレットは水面で漂うゾーン団とレベッカも助けるようにと、ワタルに懇願した。


「ワタル、彼らを見捨てちゃダメよ! 一応、彼らに助けられたのよ……」


 困ったワタルが来翔を見ると、来翔も首を縦に振っていたので、二人はゾーン団とレベッカもオルカ号へと乗せることにした。


 ゾーン団も大人しくオルカ号へ乗り込んでくる。ワタルは警戒を解かず、魔法剣を構えていた。


 トンプソンはオルカ号に乗り込んだ瞬間、気を失ってバタリと倒れ込んだ。


「あ! 私を買ってくれたオジサン!」


 トンプソンを見たネーラが、来翔の胸ポケットから飛び出してきた。


「オジサン! オジサン!」


 ネーラが心配してトンプソンの頬を何度も叩くので、マーガレットが優しくネーラを両手ですくい上げ、トンプソンから引き剥がした。


「ネーラ、オジサンは疲れてるから寝かせてあげてね」


「死んでないの?」


「大丈夫よ。ただのMP切れなの」


 来翔もトンプソンの顔に見覚えがあった。すぐに、あの日ネーラを投げつけて逃げた男だと気づく。


(ネーラを置き去りにした男か……)


 マーガレットが、ワタルと来翔に経緯を説明した。


「この人達はそこまで残忍じゃないから大丈夫よ。気を失ってるトンプソン以外は戦闘員じゃないし、ワタルも剣を収めても大丈夫。あと、このレベッカは地球人。私を色々とサポートしてくれた恩人なの」


 実際、彼らを拘束しようにも、普通の手錠では簡単に壊されてしまう。拘束する手段の無いワタルと来翔にとって、船の上では実質、休戦するしかなかった。


「それで、どうして漂流していたの? ソナーで爆発があったことはわかってたけど、水中で潜水艦同士で撃ち合ってたりしたのかい? マーガレット」


 ワタルがマーガレットに尋ねた。


「いえ。原因不明で突然爆発音がしたの。あの潜水艦には私も含め八人しか乗ってなかったから、誰も警戒してなくて……」


 そのマーガレットに、ケラーが付け加える。


「私が爆発した時、潜水艦を操縦していたのですが、船内のAlexaの報告では、海水取り込み口が爆破されたという事なので……撃たれたと言うよりは、破壊された……いや、爆破された可能性があります」


「爆破? それは魚雷などではなく?」


「はい。逆に魚雷ならレーダーに感知されますし、あの潜水艦はAIで管理されてましたので、魚雷ではありません。ちなみに衝突等でもありません」


 そこへ、トンプソンが目を覚まして答えた。


「暗殺だ……。カリーナが、完全犯罪を狙っての……」


 レベッカが驚いた。あの脳筋のカリーナが、完全犯罪や暗殺という回りくどいことをやってのけるはずがない。


「ま、まさか! カリーナさんが!? そんな事、彼女には不可能です!」


 付き合いの長いケラーも同意する。


「トンプソンさん! 流石にそれは話が飛躍し過ぎですよ! あの戦闘バカのカリーナですよ? 他人に殺人を任せるでしょうか?」


「あぁ。マーガレットを拉致した後、奴は何らかのスキルを獲得していた。どんなスキルなのかは具体的にはわからんが、俺の目の前で急に冷静になりやがった。あれは間違いなく、新スキルの影響だ」


 そこで、トンプソンの目の前にいたネーラに、トンプソンが気づいた。


「ん? お前は……屋台で見つけたフェアリーか?」


「そうだよ! 私を買ってくれたオジサン! 気がつくのが遅いんだよ! さっきから目の前にいたのにさ〜。オジサン、MPは大丈夫?」


「な、なぜ、お前がここに? ここはアメリカだぞ?」


 ネーラはレフトを呼んで、トンプソンに紹介した。


「ほら? レフト。このオジサンが私を日本に連れてきたんだよ。オジサン、このインコはレフト! 私の親友! この子とアメリカまで来ちゃった!」


「インコとアメリカまで来ただと? 意味がわからん!」


「んとね、マーガレットを探しにレフトと来たの。レフトがマーガレットを見つけたの」


 ますます意味がわからず、トンプソンも頭を抱えてしまった。


「マーガレットは、このフェアリーが見えるのか? 貴様には魔法の才能が無いはずだが……」


 マーガレットは優しくネーラとレフトを両手にのせながら答える。


「もちろん見えますよ。心が通じあってるから。ね? ネーラ、レフト!」


「うん!」「ピヨ!」


「だからといって、フェアリーとインコが日本からアメリカまで来れるものか!!」


 困惑するトンプソンの背後から、トンプソンが忘れもしない、最も恐れる声が聞こえてきた。


「ネーラとレフトはヘリで来たんだよ。我々と一緒にね!」


 トンプソンが声の方向へ振り返ると、そこには勇者と――そして、最も恐れる最強の男、木べらの戦士が立っていた。


「ウワァァァ!!! き、き、木べらの戦士!!!」


 トンプソンの怯えと、ゾーン団なら誰でも知る「木べらの戦士」という言葉。それだけで、勇者の隣にいる男こそが、地球人最強と言われる来翔なのだとわかった。


 その瞬間、ゾーン団は全員で海に飛び込んで逃げようと試みたが、船長のクイントが怒鳴った。


「やかましい! 俺のオルカ号の上でゴキブリみたいにゴタゴタ動くな! 海に叩き落とされてぇか!」



 ゾーン団は船長の迫力に、思わず黙ってしまった。


 トンプソンも未だMPは回復せず、肩で息をしながら押し黙っている。


 そんな中、トンプソンと来翔が顔見知りのような雰囲気だったので、ワタルが来翔に尋ねた。


「もしかして、あの男は来翔さんがΩ(オメガ)の時に交戦したという大男ですか?」


「そうです。ネーラを置き去りにして逃げることが出来る、ただの脳筋ではなく、見た目によらずかなりクレバーなので、口撃にも気をつけて下さい。ゾーン団の戦士タイプにしては、かなり珍しい男です。僕は二度目に遭遇した時も、交戦することなく逃げられましたからね」


 唯一の人間であるレベッカだけは、目の前の中年男性である来翔を見て、無敵のゾーン団の戦士達が恐れおののく理由が理解できなかった。レベッカから見た来翔は、ごくごく普通の日本のオジサンだったからだ。


「マーガレット……。あのオジサンが、ゾーン団の恐れていた木べらの戦士なの? めちゃくちゃ普通のオジサンなんだけど? むしろ人の良さそうなオジサンじゃない……」


 マーガレットはクスッと笑って答える。


「それは私も同じことを思ったわ。でも、ワタルが……来翔さんだけには魔法剣を使っても勝てないって言ってるのよ。ワタルだって人外に強いのにね。私も来翔さんが戦ってるところを見たことは無いんだけど、ワタルを信じてるから疑わない。きっとゾーン団の戦士もそれがわかるのよ。トンプソンが震え上がるなんて、カリーナの前でも無かったでしょ? だから、トンプソンの中では、来翔さんはカリーナよりも強いのよ」


 確かにトンプソンは、カリーナ相手でも怯える事なく真っ向勝負していたし、口撃ではいつもトンプソンの方が勝っていた。そんなトンプソンが、来翔を見てからは明らかに怯えている。そんな怯えたトンプソンを見て、他のゾーン団の戦士達も完全に怯えきっていた。


 レベッカは、来翔の腰に刺していた木べら――業務用六十センチ杓文字――を、思わず触ってしまっていた。


「これが………木べら……」


 急に杓文字を触られたことに困惑しながらも、来翔は杓文字を抜いてレベッカへ手渡した。


「アメリカの人には杓文字は珍しいのかな? はい、どうぞ」


 自らの武器を躊躇うことなくレベッカに手渡した来翔の姿に、余裕を噛ましているように見えたのか、ゾーン団の戦士たちがますます怯えた。なぜなら隣の勇者は、こちらにずっと魔法剣を向けているのだから…。


 杓文字を受け取ったレベッカも戸惑いながら握ってみて、やはりただの木べらであることを確認する。


「これが武器なの? ただの木べらじゃない……」


 試しに、レベッカは自分の太ももをペチンと叩いてみた。


「全然痛くもない……」


 今度はマーガレットの腕にもペチンと叩いてみたが、マーガレットも痛みは感じておらず苦笑していた。


 レベッカは、こんな木べらでどうやって戦うのか気になってしまい、杓文字を返しながら直接尋ねてみた。


「こんな木べらで、ゾーン団やトカゲをどうやって倒したのですか? 付与魔法とか使うのですか?」


 来翔は杓文字を受け取り、腰に刺し直しながら答える。


「杓文字は腰で打つって言われててね。腕力で振るっちゃダメなんだよ。腰が入ってないと、いくらスイングスピードが早くてもダメ。腰で振り抜くためには、下半身の安定も大事なのさ」


 レベッカは来翔の説明を聞いても意味不明だったが、これ以上尋ねても理解できないことだけはわかったので、もう聞かないことにした。今は目の前の可愛らしいセキセイインコの首元を撫でて、気持ちを落ち着かせる。レフトもすっかりレベッカに懐いていた。


「ピヨヨヨヨ〜」




 ◆




 やがてオルカ号は漁港に戻ってきた。ビリーとLEONとクロガネが待ち構えている。


 船から降りたゾーン団へ、ビリーが異世界語で話しかけた。


『よお! トンプソン。久しぶりじゃねぇか! ようやくこうして面と向かって話せるぜ! いつもいつも肝心なところで逃げやがってよ! テメェを追ってLEONなんて地球に居着いちまったじゃねぇかよ!』


『ふん! 元々、賞金稼ぎなんて奴らは根無し草だろうに! さあ、捕まえるなら捕まえてみろ! ここで暴れて一般人にも被害が出るくらい、俺たちは抵抗させてもらうぞ!』


 ゾーン団が全員身構えた。


 そこへ、クイント船長が後ろから怒鳴り散らした。


「漁港でガチャガチャ騒ぐんじゃねぇ! 魚が逃げちまうだろうが、この馬鹿どもめ!」


 ゾーン団もビリーも気まずそうに漁港内から出ていく。後を追うように、他の面子もついていった。


 手頃な空き地があったので、再びゾーン団とビリーが相対する。


『トンプソン! MPが切れてんじゃねぇのか? それを言い訳にすんなよ!』


『俺は元々戦士タイプだ! MPなどはいらん!』


『LEONは雑魚をやれ! トンプソンは俺が貰う! 久しぶりの百億の首だぜ! 行くぞ!』


 LEONが保護色を解いて姿を表すと、両手と長い舌には三つのブーメラン。同時に放たれたそれは、あっという間に三人の戦士タイプの後頭部へとヒットした。唯一の女であるケラーは、この時点で戦意喪失していた。残る一人のゾーン団の男も、LEONにアッサリと敗北。立っているのは、トンプソンだけになった。


 先手を仕掛けたのはトンプソンだった。大振りでビリーの顔面を殴る。が、ビリーの太った身体には全く効かない。それどころか、体重差で負けているトンプソンの手首の方が、大きなダメージを負っていた。


『クソッ! 相変わらず太り過ぎだ、ビリー!』


『ガハハハ! お前らがガリガリ過ぎんのよ! ちゃんと飯食ってんのかよ!』


 ビリーはそう言って、トンプソンの腹をえぐるような重いパンチを喰らわせた。魔法防壁も貼れないトンプソンは、それをダイレクトに受けてしまう。


『おいおい! まだ寝てもらっちゃ困るぜ。オメェらにはまだまだ恨みは残ってるからよ!』


『それはコチラも同じだ! 貴様に捕らえられたゾーン団の仲間は、百人を超えてるのだぞ!!』


 トンプソンは最後の力を振り絞って、ビリーの首を両手で締め上げた。だが、ビリーはそのまま再び腹へ重いパンチを喰らわせる。トンプソンはガクッと膝をついて、項垂れてしまった。


 そのままビリーがミスリル製の手錠をトンプソンにかけて、全てが終わった。


 既にLEONも、他のゾーン団のメンバーにミスリル製の手錠をかけている。


 唯一の地球人であるレベッカだけは手錠をかけられることなく、ゾーン団の最期を見届けて泣いていた。マーガレットがそんなレベッカに寄り添うのを、複雑な気持ちでワタルが見つめていた。




 ◆




 初めてビリーとLEONの賞金稼ぎらしいところを見たネーラとレフトとチックルが、興奮して手錠をかける真似をして遊んでいた。


「レフト! 君を逮捕する!」


「ピヨー!」


「ねえねえ、ネーラ? レフトは羽に手錠するのかな? 足にするのかな?」


「ピヨヨ?」


「アハハ、レフトにもわかんないってさ!」


 そんな和やかなフェアリーとセキセイインコの様子など、誰も見てはいなかったが――


 二人の賞金稼ぎは、長年追い続けていた仕事をひとつだけ終えた事を、それぞれ静かに噛み締めていた。




 (第106話へ続く)



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