第77話 オクト的七夕伝説
昔、あるところに、とある商社に勤めている可愛らしい女子社員がおりました。
彼女は、布地を作るテキスタイルデザイナーで、チル姫といいました。
同じ会社に、バリバリ仕事の出来る営業マンがいて、名前をオクト彦といいました。
ある日、チル姫とオクト彦は恋におち、二人は毎日イチャラブな日々をおくり、やがて結婚しました。
しかし、あまりにイチャイチャしすぎて、仕事を怠ったため、天の本部長によって引き離されてしまったのです。
天の本部長は、結婚している二人を強制的に引き離し、天の川の両岸に隔離しました。
そして、真面目に働くことを強要しました。
「君たち、ラブラブしすぎ。アウト―! オクト彦星くん、君、転勤だからねー」
「転勤……? あの、転勤先に妻を連れて行っても……」
「ダメ―! オクト彦星くん、きみは新規事業の酪農部門に行ってちょうだい」
「らくのうって、酪農?……ですか」
「うん、天の川の向こう岸ね。そこで牛さんの世話してくれる? チル姫と会うのは年一回しかダメ―」
「え? 嘘ですよね。 わたしたち新婚ですがっ!」
「だって、イチャつくんだもん。大丈夫だよ。ちゃんと働けば、年に1回会わせてあげるよー。そんときは、あんパン付きで……」
「あんパンは要りません」
新婚夫婦を強制別居させるとは、
なんというブラック企業なんでしょう。
そして、一年が経ちました。
待ちに待った七月七日。
七夕の日だけは、二人は会うことを許されるのです。
星が降るような夜です。
天の川を渡って、二人は再会できました。
「オクト彦さーん、お久しぶりでーす!」
「チル姫、テキスタイルデザインは順調か?」
「んー……ぼちぼち」
二人は夜空をデートしました。
オクト彦は銀河ステーションで、チル姫の手をとりました。
「作業効率を考えながら、動けているか?」
チル姫は答えに迷いました。
(えー……)
天の川の白鳥座を見ていても、
「昼休憩は1時間とれてるのか?」
きれいな流れ星が流れても、
「新規顧客は開拓できているか?」
オクト彦は、真面目に話し続けます。
「生産効率はアップしているか?」
チル姫は、黙り込んでしまいました。
「ずぅーん……」
(ちょっと、オクト彦さーん!)
(仕事の話ばっかり!)
(この、仕事脳め!)
チル姫の気持ちなどそっちのけで、着物の襟もとをきちんと正すオクト彦です。
チル姫は思いました。
(ややこしいとこに転勤しちゃって……)
でも、天の本部長からの転勤命令を、オクト彦は前向きにとらえていたようです。
(『新規事業開拓で一旗揚げて来る』なーんて言っちゃって。つまり牛飼いじゃないの。
あれから、年一回しか会えないのに……)
オクト彦の横でチル姫は、だんだん暗い表情になりました。
重苦しい空気が漂っています。
「……」
「チル姫。……情緒が安定しない時は、感覚を切り替えろ」
「?」
「ガムを噛め」
(この男は……。)
でも、チル姫は相変わらず楽天的でした。
(ま、いっか。年に一回しか会えないのに、文句なんか言いたくないもん)
そう自分に言い聞かせました。
でもね、心の奥では甘えたかったのです。
もっと、ロマンチックしようよなんて、恥ずかしくて言えなかったんです。
貰ったガムを噛みながら、気を取り直して、チル姫は明るい声で聞きました。
「そっちはお仕事どうですか?」
「すこぶる順調だ」
「まぁ、不調な時なんてなさそうですね」
(真面目で、エリートで、仕事第一な人だし……)
「そうだな」
(ほらね)
オクト彦は、チル姫の頭に手を置きました。
そして……、
「今日があるから、……一年頑張れる」
そう言って、オクト彦は優しい笑顔を向けました。
チル姫は、顔を真っ赤にして両手で隠します。
「七夕ってすごいです……」
「ああ」
オクト彦は、小さく笑った。
「俺は幸せ者だな」




