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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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第72話 受理、ただし試用期間へ

 魔界住民課婚姻届口、開庁日。


わたしはオクト部長と、窓口の行列に並んでいた。

年に二回しか開かない婚姻届け窓口。

並んでいる他のカップルたちを見ると、みんな真剣な顔していたり、イチャついていたりしている。

ところが、わたしの婚約者は、


「ふぁ……」


今、わからないようにあくびをかみ殺した。

オクト部長は、決して弱音を吐かない。

今日は地獄の八連勤後の、やっとの取れたお休みだ。


疲れているはずだが、婚姻届けを提出する日に愚痴など言っていられない。


「瞑想するわけにはいかない……」


『眠たい』って言わない。

言わないように頑張っているっぽい。


「オクト部長、整理券は何番ですか?」


「666番だ」


「3桁!」


でも、前回の提出日から半年待った大切な日だ。

わたしは待っている時間も楽しい。


ふと、魔界役所の向こう側に、知っている悪魔によく似た姿を見つけた。


「あれ? タルト先輩? ……まさかね」


まぁ……、タルト先輩が誰かと婚姻届けを出しに来たとしても、不思議ではない。

そんなことを考えて納得。

だが、しばらくすると、今度はノリマキとゼットセダイの姿も見かけた。


「ん? コンプライアンス部が何で?」


オクト部長は、知っているのか知らないのか、無反応だ。

立ちながら寝ているし。

わたしの見間違いだろうか。


次に見かけたのは、間違いなく本部長だった。

ここまで、似ている悪魔が続くことってある?

絶対に、おかしい。


「部長、……見間違いかもしれませんが、タルト先輩とコンプライアンス部、本部長を、さっき見かけました」


「そうか。今日は定休日だからな」


え? 部長。

それだけ?

冷静すぎる。



 やっと順番が回って来た。


「666番のかた。どうぞ」


わたしとオクト部長は、婚姻届け窓口に立った。


すると突然……、

照明がたかれて、カメラクルーたちが押し寄せてきた。

タルト先輩が、マイクを持って登場。


「魔界TVをご覧の皆様、大変お待たせいたしましたぁ! 今日、ついに悪魔契約コーポレーション営業部のエース、オクト部長が新卒のチルちゃんと婚姻届けを提出します。僕は、今、この窓口でこうして実況中継していまーすっ!」


挿絵(By みてみん)


受付の職員は動揺もせず、淡々と部長から婚姻届けを受け取った。


「あっ! まさに今、受理されようとしています。ああ、思えば今から半年前、……ここで辛酸をなめたオクト部長。今回こそは、婚姻届けにミスや記入漏れがないか、コンプライアンス部と本部長に確認してもらったとのことです!」


わたしは、タルト先輩がレポーターになって、この様子を実況生中継していることに驚いた。


「部長、大変なことになってます。内部事情までTV中継されてますよ」


「……そうだな」


え、冷静すぎる。

部長……。

過労で……ついに、ここまで判断能力が落ちたのか!

窓口の悪魔が言う。


「では、オクトさん、チルさん、婚姻届けを受理いたしました」


「ありがとうございます」


「ぶちょぉ~! よかったです!」


わたしの目はうれし涙でいっぱいになった。


挿絵(By みてみん)


「ですが……オクトさん」


ですが?

なに、その否定文。

窓口の悪魔は続けた。


「この婚姻は、ちょっと特殊です。悪魔同士の友達契約から、婚姻への変更であること。それと、悪魔同士でも人間界で同居は非常に特殊です。よって、悪魔婚姻法第33条により、この婚姻が確かなものになるために、一定の試用期間が必要になります」


オクト部長は、知っていたのか、動揺しない。

わたしは、動揺しまくりだ。


「なんですか? その試用期間って、バイトみたいな扱い。それってどれくらいの期間なんですか?」


「ケースバイケースですが……、約三か月です」


「え……三か月? 試用期間の間に離婚しちゃうなんて……、ないですよね」


「いいえ、むしろ離婚しないための試用期間とお考えください」


婚姻届けを出したばかりなのに、終わりじゃなくて――ここから始まり?


オクト部長は、何も言わなかった。

ただ、わたしの手を強く握った。


いや、握るんじゃなくて、前もって教えてよ。


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