第7話 悪魔の公園デビュー(オクト)
既に契約は締結された。
契約者の願いを叶え、契約を履行しなければならない。
契約履行場所でチルと同居を始めた。
チルの願いを叶えるため、タルトに説得され、公園まで来た。
チルは子どものように喜んで、走り始めた。
「待て、走るな! 怪我をしたらどうする。まずは、友達になるとはどういう状態になることなのか。ネット検索して、目標への近道を探ろう」
「部長……、そこからですか?」
「タルト、準備体操無しで海に飛び込むようなものだぞ」
俺は、スマホですいすいと検索した。
『友達を作るには、まず笑顔で挨拶することから始め、自己紹介をしましょう。』
「なるほどな……。実践する価値はある」
俺は不自然にならないように、チルに近づいた。
「チル、おはよう」(挨拶)
「おはようございます、オクト部長。もう夕方ですが……」
「俺はオクト。部長だ」(自己紹介)
「はい、そうですね。……どうしよう、タルト先輩。部長がおかしい。初期化されちゃった……」
「そうみたいだねー」
挨拶と自己紹介をしたのに、反応が薄い。
と、いうより以前より不穏な空気になってしまった。
俺は、更にネット動画で『友達を作る方法』を調べた。
『やってよかった友達作りー! 公園などの遊び場は、友達作りに最適な空間です。』
「なるほどな……やはり、公園というのは最適解なのか」
俺は、チルの目を見た。
「チル、公園だ」
「はい。ありがとうございます。嬉しいです。部長は、公園で遊んだことあるんですか?」
「魔界にそんなものはない」
タルトが慌ててフォローに入った。
「じゃあ、僕が教えてあげる。簡単な遊具から始めようねー。部長もですよ」
「……ああ、それは……も、もちろん」
するとチルは、鎖にぶら下がった木の椅子まで走って座った。
「これ、ブランコって言うんですよね、タルト先輩」
「そうだよ。オクト部長も、隣に来てください」
「不安定なベンチじゃないか。落ちるなよ」
チルは座ったまま、願いを口にした。
「誰か、押してくださーい」
タルトが俺に目配せをした。
しょうがない……
契約者の命令は俺がきく。
「何処を押すのだ。どこにスタートボタンがあるんだ」
「部長、背中ですよ」
「背中にスイッチがあるのか……」
「違います! チルの背中をちょっと押してくれれば、ブランコは動くんです」
「なるほど」
しかし、俺はどの程度の力加減で背中を押せばいいのかわからない。
最初は、チルの背中にそっと触れた。
「もうちょっと、強く押すんですよー」
「わかった」
今度は、命令通り強く押したら、チルが乗ったブランコは大きく高く揺れた。
俺が急いで止めなければ、一周回るところだった。
「いやーーん! こわーい。部長やりすぎー」
「適切な遠心力が……」
俺は、力の微調整に苦戦していた。
タルトが提案してきた。
「部長もブランコに乗ってみたら? そしたら、力加減がわかりますよ」
「それもそうだな」
俺は長い脚でバランスを取りながら屈伸した。
すると、チルのブランコも一緒に揺れた。
不思議なものだ。
次はシーソーというものに乗った。
チルは小さくて軽いから、ずっと上で待っているままだった。
「ずっと、上じゃつまんなーい」
不満をあらわにするチル。
タルトが、俺にそっとアドバイスする。
「部長が、足を延ばしたり曲げたりしてみてください」
「こうか?」
俺はシーソーに座ったまま屈伸運動をしたが、シーソーは動かなかった。
「部長の足が長すぎるんですよ」
「何だとタルト。難しい。だめだ。やめよう」
俺が、シーソーから降りた途端。チルが急降下してきた。
慌てて、俺はチルをキャッチした。
「ああ、驚いたぁ!」
「俺もだ」
次は、チル中心で遊べるものにした。
俺は滑り台の下で腕を組んだ。
滑り台の下で待つだけだ。
これなら失敗はない。
運動するのはチル自身だから、今度こそ成功させてみせる。
チルの声が、滑り台の上から聞こえた。
「ちゃんといますー?」
「いる」
「ほんとにー?」
「いる」
チルが滑ってきて、俺の胸に突っ込んだ。
「受け止めた!」
「うん!」
思わず抱きとめた。
……近い。
これは業務だ。
すぐに、チルを地面に降ろして、冷静にならなければ……。
「このくらいで十分だろう。どうだ、チル。我々が友達になった実感はあるか?」
急に、チルは後ろから俺の腰にギュッとしがみついた。
「ないけど楽しいです!」
それは、満面の笑みだった。
「なかったら意味が無いだろう。何のために公園に来たと……」
「次、部長が滑り台。やってみてください」
「……先が思いやられる……」
俺は滑り台で、長い脚を折りたたんで座る。
降りると、長い脚がすぐ地面に着地した。
チルは純粋に喜んでいる。
「部長、滑り台じょうず! はじめてなのに、すごーい!」
「……何がだ」
「ぜんぶ!」
「降りただけだ」
「でも、すごい!」
俺は、少しだけ視線を逸らした。
合理的な説明が見つからない。
それでも、悪くないと思っている自分がいる。
「……運動能力は平均的だ」
「うん! すごいよね! ね、タルト先輩」
「僕だって、これくらい出来るよー」
俺は褒められて、無表情のまま固まった。
すると、携帯電話のメール着信音がした。
ポケットから出して、確認すると……
「コンプライアンス部から、メールだ」
俺がつぶやいた声に気づき、タルトが近くまできた。
チルは、ひとりで滑り台に夢中だ。
「部長、今日って定休日ですよね。そのメールって、契約受理の自動送信じゃないですか?」
「かもしれない。だが、契約営業部は定休日でも、コンプライアンス部は休まない可能性もある。あいつら、魔界の部署だしな」
俺は、そのメールを開いた。
『お疲れ様です。契約は順調ですか? ノリマキ』
ノリマキ……
コンプライアンス部のベテラン部長だ。
言葉は優しく丁寧だが、侮れない相手だ。
「おーい、帰るぞ。急用ができた」
「えええー、もう? 今来たばかりじゃないですかー」
チルは、滑り台の上でふくれっ面をしている。
なんでこんなガキの面倒を見なきゃいけないんだ、俺は。
「部長、僕がチルを連れてきます」
「悪いなタルト。頼んだぞ」
「チルちゃーん、部長は急用があって、先を急いでいるんだってー」
タルトに連れられて、公園を出るチルはうつむいていた。
「オクト部長に……もう一回、すべるところを見せたかったです」
俺は咳払いをした。
「また来る。それでいいだろ」
なんなんだ、この新卒は……!
理解できない。
だが——
悪くない。
俺たちは急いで帰るために、空を飛んだ。
夕焼け空だった。
タルト先輩「ここで★入れると、部長の好感度上がるよー!」
オクト部長「上がらん」
チル「え、上がらないんですか!?」
オクト部長「面白いと俺の好感度は比例しない……」
タルト先輩「出た、ロジックお化け。でも★入ったら嬉しいよねー」




