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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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第6話 はじめてのお買い物

 マンションから一番近いスーパーに来た。

わたしたちは外を出歩くときでも、悪魔の姿は隠さない。

最近この町では、魔女メイドや悪魔執事のコスチュームが流行っている。

お陰で、わたしたちもこの町の人間から、コスプレイヤーと思われているようだ。


今日は買い物ができる。

人間界に来たらやってみたかったこと、トップ3に入るイベントだ。

嬉しくて、はしゃいでしまう。

タルト先輩もニコニコしている。

でも、オクト部長はブレない。

いつもの冷酷な視線で、わたしたちを睨んだ。


「いいか、タルト。今回は契約者を連れての外出だ。

ヘンなモンスターに会わないように、ハイレベルな警護が求められる」


入り口にかわいいデザインのカートが置いてあった。


「きゃー、超かわいいー! わたし、これ使いたーい」


「待て、チル。それは子供用カートだ。大人はこっちを使うんだ」


「ええー、こっちが可愛いのにぃ」


タルト先輩は、優しく教えてくれた。


「チルちゃん、それ子供用ね。ほら、ここで人間の男の子が使いたがっているよ」


「ごめんなさーい。いいわよ。これ使って」


わたしは、子どもにカートを譲った。

そして、大人が使うカートに……


「さぁ、買い物にレッツゴー!」


「おい、チル。降りるんだ。カートは乗るものじゃない」


「え? ……すみませーん」


挿絵(By みてみん)


恥ずかしいミスだ。

わたしはタルト先輩の後ろに隠れた。


「隠れても無駄だ」


「部長、新卒が初めて人間界のスーパーに来たんです。僕だって最初は間違えましたよ」


「お前も、カートに乗ったのか……」



 売り場を歩くと、いろんな食品があった。


「牛乳、タマゴ、……刺身? 生で食うのか? 新卒には危険だ」


「部長、クッキーが食べたいです」


「いいね。僕も、僕も」


「待て。この菓子は保存料が………」


部長は、クッキーの箱の裏書を見ている。

その間に、タルト先輩は、ポイポイとクッキーをかごに入れた。


「おい、買い過ぎだ。少し戻せ」


「はーい」


「それから……、新しい歯磨き粉が必要だな」


部長が、白いチューブを棚から取った。


「げっ! 部長、悪魔の保存食……!! 人間界でも売っているんですか?」


「違う……これは、歯を磨くものだ。ミント味で食えない事もないが……」



 スーパーの試食コーナーでは、マヨネーズの着ぐるみキャラクターが曲に合わせて踊っていた。


♪ なんでもおいしくなる マヨマヨちゃん

たまごも、ハムも、お魚さんも

マヨマヨちゃんの魔法で 簡単においしくできちゃう

マヨマヨちゃんの マヨネーズ♪


わたしも思わず、曲に合わせて踊っていた。

部長のメガネが光った。


「これは、ハーメルンの笛吹き男か……。よせ、踊るな、チル。不思議なまじないで、女、子どもをおびき寄せるやつには、気を付けるんだ」


タルト先輩が、部長をなだめた。


「部長、マヨネーズの妖精ですよ、マヨマヨちゃんは。なんでも美味しくする魔法を使うんです」


「余計怪しいだろ! チル、心配するな。もしそいつが俺の家に現れても、悪魔の力で消し去ってやる」


「だめです部長! マヨマヨちゃんは、良い妖精ですから」


「どう考えても、不審者だろ。待ってろ、話を付けてやる」


部長はハーメルンのマヨネーズ男に接近した。


「よく聞け」


マヨネーズ男は表情ひとつ変えずに、部長を見た。


「俺の契約者になにかしてみろ。貴様を魔界送りにしてやる」


マヨネーズ男は着ぐるみの笑顔のまま、スタッフルームに逃げ込んだ。

スーパーのスタッフはあわてて店長を呼び、


「お客様、営業妨害になりますので……」


あれよあれよという間に、部長はスタッフルームに連れて行かれてしまった。

あわてて、わたしとタルト先輩もその後を追った。



 スーパーのスタッフルーム。


部長は腕を組んで立っていた。

わたしはタルト先輩の袖を、ぎゅっと握っている。


巡査Aベテランが、のんびりした口調で言った。


「お兄さん、着ぐるみ相手に“魔界送り”は物騒だよ」


巡査B(若手)が真顔で続ける。


「脅迫と取られかねません。公共の場です」


部長は反論した。


「脅迫ではない。事実の通告だ」


巡査B(若手)が、巡査Aベテランに確認した。


「先輩、やっぱり危険思想では」


「まぁまぁ」


巡査Aが手を振った。


「お嬢ちゃん、この人、ほんとに兄さんかい?」


わたしは、一歩前に出た。


「はい、そうです。お兄ちゃんね、ちょっとだけ変なの。でも、わたしのこと守ってくれるんです」


巡査Bがメモを書く手を止めた。


「変……?」


「お兄ちゃんは、自分のこと悪魔だって言うけどね、ほんとはこわくないんです!」


巡査Aが吹き出した。


「はは、そりゃ大変だ。自称悪魔のお兄さんか」


部長が反論する。


「自称ではない」


タルト先輩が部長を引き留めた。


「部長、落ち着いて」


巡査Aはわたしに目線を合わせた。


「ちゃんと迷惑かけないで買い物できるかい?」


「できます!」


「じゃあ今回は注意だけだ。な、お兄さん」


巡査Bが不満そうに言う。


「念のため身元確認は……」


「んー、この町でよく見るコスプレお兄さんだよ。いつも角つけてるだろ」


……いつも?


部長……


巡査Aが、部長の肩をぽんと叩いた。


「ほどほどにな。マヨネーズは敵じゃない」


部長は苦々しく答えた。


「善処する」


わたしの説明を聞くと、店員たちも、にこやかにわたしたちを帰してくれた。

会計は、部長の黒いデビルカードで決済した。


「ありがとうございましたぁ。またのお越しをお待ちしておりまーす!」




 スーパーの買い物袋が重いので、わたしたちは、一旦、家で荷物を置いた。


「もういいだろ。疲れた」


「あれ? 次は公園であそぶんだよね、チルちゃん」


「はい、公園で遊びたーい!」


「部長、契約者の願いは?」


「………絶対です」


「うん!」


わたしは、満面の笑みを部長に返した。


「それにしても、なかなかやるな、チル。

『この人ね、わたしのお兄ちゃんで、ちょっと変なの』ってな。

『悪魔って言うけど、ほんとはこわくないの!』とも。

だが、人間に嘘をつくとは……」


「とっさに言っちゃったんです。ごめんなさい……」


「そうじゃない。嘘をつくのは、悪魔の本能だ。俺が言いたいのは、その自然に流れるように出る言葉だ。お前は天才か?」


「でしょ? 部長もそう思います? 僕も契約の時に、チルちゃんのトークに助けられたんですよ」


それでも、わたしは罪の意識を感じ、うつむいてしまった。


すると、玄関を再び開け、部長は公園に出かけようとしている。


「魔界にこんな言葉がある。

『人を守る嘘は、千の真実より尊い』


「ほんとうですか?」


「嘘だ」


「もー!」


わたしは笑った。


わたしたちは公園に向かって歩いた。

町を歩く人間たちが、わたしたちを見て微笑んでいるように思えた。



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