第5話 休日の朝、部長のタスク
朝、目を覚ました。
見慣れない天井が目に入る。
状況を理解するのに、数秒かかった。
……あ、部長の家にいるんだった。
顔を洗いにベッドから出ると、部長も目を覚まして、天井から降りてきたところだった。
「おはようございます」
「おはよう。……ゆうべは眠れたか?」
「ベッドを貸していただき、ありがとうございます。おかげさまで、ぐっすりと……あ、部長は寝られませんでしたよね」
「俺はクラシックタイプの悪魔だ。目を閉じるだけで、睡眠はそんなに必要ない」
すると、
ジリリリリリ……!
突然、目覚まし時計が鳴った。
部長は、余裕でアラームを止めた。
「部長、目覚まし時計が鳴る前に起きるんですね」
「ああそうだ。朝のルーティンに入る。勝手にくつろいでいてくれ」
「はぁ……」
わたしは、キッチンに行くふりをしながら、チラチラと部長の動きをチェックした。
部長の動きは速い!
✅水を飲む 2秒
✅シャワー 8分
✅ストレッチ 7分
タスクをこなすように、次々とアクションを変える。
「ちょっと、ジョギングしてくる。タルトが起きたら、トーストでも食ってろ」
「部長は?」
もう部長は、ジョギングに行ってしまった。
部屋の隅で丸くなって寝ていたネズミ、
……いや、タルト先輩だ。
ってか、この物音でよく目を覚まさないな。
あ、起きた。
「おはよう、チルちゃん。あれ? オクト部長は?」
「おはようございます。部長、朝のジョギングに出ちゃいました」
「早っ!」
「『トーストでも食べてろ』、だそうです」
「じゃ、適当に食べてよーっと」
「朝ご飯、部長を待たなくても、いいんですか?」
「部長は。クラシックタイプだから、食べないと思うよ」
「え? クラシックタイプって、寝ないし食べないんですか?」
「少しは寝るし、たまには食べるよ。ゆうべ、晩酌してたでしょ?」
「ああ、そういえば……」
「僕たちモダンタイプと違って、燃費がいいんだよね」
✅ジョギング 20分
タルト先輩とトーストを食べていると、オクト部長は帰って来た。
「おかえりなさい……」
「ああ」
返事もそこそこに、部長はシャワーを浴びにバスルームへ直行。
シャワー好きだな。
✅二回目のシャワー 7分
今朝もドライヤーは使わない。
わしゃ、わしゃ、わしゃ、
タオルドライしながら、キッチンで何かをセットしている。
カチャ、カチャ、カチャ、
コーヒーをドリップするようだ。
よくわからないけど、こだわりがあるのだろう。
✅コーヒータイム
起きてから、ずっと動きっぱなしの部長。
コーヒー片手に、やっと一息つくのかな。
いや、違った。
ノートパソコンを開けた!
右手にコーヒー。
左手にパソコン。
パソコンのタッチパッドをダダダダと忙しく叩いている。
「これで手を打つか……? いやまだだ」
「?」
「くっ……もう一声」
ストイックな発言。
仕事しているの?
エリートサラリーマンに、休日は不要なの……?
「タルト先輩、部長は何を見ているんですかね」
「FXか株じゃない?」
そのとき、部長がつぶやいた。
「これだ」
タッチパッドをタンと押す。
とたんに部長は、なんともいえない表情に変わった。
気になる……。
わたしは、ティッシュペーパーを取りに行くふりをして、パソコンの画面をのぞき見した。
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お休みの日は、癒されたいんだね。
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「部長、お忙しいところすみません。栄養補給しなくて、よろしいのでしょうか」
「ああ、栄養補給か」
部長は戸棚から、不思議なチューブの保存食を取り出した。
「部長、それって健康食品ですか?」
「悪魔由来の保存食だ。黒く、粘度があり、三年は腐らない優れもの。これを少量摂取すれば……」
わたしは思わず、口をへの字に曲げてしまった。
「君もどうだ。味は保証する。モダンタイプには苦いかもしれないが」
「黒くて、変なにおいがします」
「色は関係ない」
「あります」
「何をわがまま言っている。これから同居するのに、毎回人間が食べるようなものを出せると思うな」
「すみません、わたしのせいで、同居することに……うううう」
タルト先輩が、間に入ってくれた。
「まあまあ、部長もチルちゃんも、落ち着いて。部長、いくら自分の部屋を提供したからって、主導権が部長にあるのはおかしいですよ」
「何?」
「契約者は、チルちゃんですよね。部長はチルちゃんの願いを聞く立場なんですよ」
「契約上はそうだが……」
「契約者の生命維持は最優先事項。……ですよね。モダンタイプだからって空腹のままにさせ、体が弱ってしまったら大問題ですよー」
「だからって、悪魔の力で食事を出すのは、力の乱用にあたる。禁止事項だ」
「魔力を使えとは言っていません。僕が思うに、……今日はお休みだし、みんなで買い物に出る。なーんて、いい案だと思いません?」
「……業務的・合理的判断として、なら」
「ですよね! チルちゃんの契約を履行するためにも、それがいいと思いますよ」
わたしは、手を叩いて喜んだ。
「さすが、タルト先輩! 冴えていますね。『お友達になって』の願いにも沿っていますし。ついでに公園で遊びたーい! 美味しいものも食べて見たーい! わーい、楽しみー!」
わたしは、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
「はぁ?! なんだと?」
タルト先輩は、オクト部長の肩を叩いた。
「部長、契約者は?」
「……チル」
「契約した悪魔は?」
「俺だ」
「だから?」
「……出かける」
「「やったー!」」




