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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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第4話 オクト部長の部屋

 終礼が終わる頃に、タルト先輩はやっと帰って来た。


「ただいま戻りましたー」


「おかえりなさい。タルト先輩」


「あれー? チルちゃん、目が真っ赤。泣いてる?」


「ううううん」


わたしはブンブンと頭を振った。


「オクト部長に怒られたの?」


「んーーーーー、そう。でも、わたしが悪いの」


「……あまり思いつめないでねー」


タルト先輩は優しい。

こんな先輩と同居だったら、嬉しいのに………

なのに、何故、苦手なオクト部長と同居することになるのか。



 タルト先輩は、オクト部長に呼ばれて仕事の報告をしている。


「チルちゃんと?……マジですか?」


二人は、わたしの方を見た。


「シーッ! 静かにタルト。これは他の者に誤解を与えかねない。だから内密に……」


ああ、……同居の事を話しているんだ。

わたしは、大学の寮を出て、悪魔契約コーポレーションの女子寮に入ったばかり。

荷物もほとんどほどいていない。

あの荷物は、開封されることもなく、部長のマンションに行くのかぁ。



 終礼が終わって……。

オクト部長のマンションに、タルト先輩が一緒に付いて来てくれることになった。


「ありがとうございます。タルト先輩。心強いです。わたし一人だと怖くて……」


「俺は別に、新卒を取って食うわけじゃない」


「うんうん、わかるよー、チルちゃん。部長怖いもんねー」


「でも、思ったんですけどぉ……」


「どうしたの?」


「契約書の住所に住んでなくても、別に問題ないのでは……」


「甘い! 悪魔契約書。あれは旧式で住所は、単なる住処ではない。契約履行場所も兼ねているのだ」


「契約りこう場所?」


「チルちゃんの契約が、実行される場所って意味だよ」


「そこに住んでいないと、どうなるんですか?」


オクト部長が、メガネをくぃっと上げて教えてくれた。


「魔界契約法第八条。契約履行住所に双方が存在すること。

住んでいないとなれば……うん、契約書に書かれたことは虚偽になる。

つまり、違反とみなされる可能性が高い」


わたしは、思わず生唾を飲んだ。


「処罰なんていやですー」


「俺も嫌だ。だから、さっさと契約を履行し、終わらせる。これが考えられる中でベストな方法だ」


「チルちゃん、白目になってる……」



 帰宅。

オクト部長のマンションの玄関に立った。

オフィスから、ドア・ツー・ドアで30分。

玄関のドアを開けると、無機質な空気が流れ出た。


「ここが俺の拠点だ」


「きょてん?」


「活動拠点。生活圏。防衛線」


「いえって、言えばいいのに」


……言い直した。


「家だ」


家に入ると、いつものルーティンで勝手に動いてしまうオクト部長。

帰宅後、息つく間もなく……服を脱ぎ始めた。


「部長! 待って! チルさんが一緒です。ここで脱がないでください」


「あー、タルト。俺は、帰宅後、真っ先にシャワーを浴びる。君たちは、勝手にくつろいでいろ。ここは会社じゃないんだから」


「くつろいでいろと、言われましても……、わかりました。チルちゃん、あっちでテレビ見よう」


「はい」


わたしはテレビを観ながら、オクト部長をチラチラと観察した。


オクト部長のシャワー、所要時間15分。割と早い!

着衣8秒、めっちゃ早い!

おーーーーっと! 髪はタオルドライで済ませてしまった!

そこまでして、時短にこだわるのか!


挿絵(By みてみん)


何かの機械音がする。

洗濯機だ!

お、キッチンに行った。

フライパンを振っている。

料理8分。


挿絵(By みてみん)


「おい、お前ら、何飲む?」


そう言いながら、冷蔵庫を開けた。


「何もお構いなく……」


「僕、リンゴジュースが飲みたいな」


「俺はビールで晩酌だ」


プシュッ!

テーブルに野菜炒めを置いて、缶ビールを開けた。

ここまで実にスムーズ!

無駄のない動き!


「部長、僕のリンゴジュースは?」


「勝手に出して飲め」


「わたし、……コンビニ行って、何か買ってきます」


「いいから、夜は出歩くな。人間界を甘く見るんじゃない」


わたしの一言で、オクト部長はペースを乱されたようだ。

ビールを飲みたいのに飲めない。


「すみません。では、お言葉に甘えて冷蔵庫開けますね。失礼しまーす」


「チル……」


「はい」


「今日はご苦労だった」


「あ、はい。部長もお疲れさまでした!」


「僕は?」


「タルト先輩も、お疲れ様でした!」


その後、三人でゆっくり乾杯した。

わたしとタルト先輩は、ジュース。

オクト部長は、おいしそうにビールを飲んでいる。

こんな顔して、くつろぐんだ、部長。


「で? 契約を履行するにあたり、内容の確認だ。チル、お前の願いは何と書いた」


「『お友達になって』と書きました」


「お友達? いいか、チル。そもそも悪魔は一緒に暮らさない。お前が求めるような友達も作らない。どの程度近づけば『友達』というのか。どういうことが、友達になる具体的な条件なのか。分かりやすく説明しろ」


そんな理詰めで来られても、返答に困る。

わたしは、部長の顔じっと見て、固まってしまった。


「わたしも、お友達いないんです。だからわからない……」


その言葉に、オクト部長も固まった。

タルト先輩は吹き出した。


「ぶーっ! ふふふ」


「ふふふ、オクト部長も一緒ですね」


「いや、笑っている場合か!」


三人で笑い転げた。


「幸い、明日は定休日だ。すぐにコンプライアンス部は来ないだろう」


「はい」


「よかったね、チルちゃん。同居人が部長で」


「え?」


わたしは、タルト先輩のほうが良かったと言いたいが、部長の前でそれは言えない。


「同居ではない、契約だ。

同居人ではない、あくまでも部長だ」


「はいはい、わかってますよー」


「安心しろ。空いている部がある。それに、俺が寝る時は、天井から逆さにぶら下がって寝る」


「え……かわいそう」


「俺は、コウモリ型悪魔だ、これは合理的だ」


「そ、そうなんだー」


 その夜、タルト先輩は、部長の部屋に一緒に泊ってくれた。

タルト先輩は部屋の隅にクッションを積んで、その上に丸くなった。

まるでネズミみたい。

そういえば、耳もネズミみたいな形をしている。


「いいなぁー。僕もここに滞在しようかなぁー」


「タルト、ここはホテルではない。金取るぞ」


「部長、ホテルオクトって素敵じゃないですか?!」


「チルちゃん、ナイス!」


「全然……ナイスなものか」



 夜中にトイレに起きた。

リビングの天井……

オクト部長は、逆さ吊りで寝ていた。


「ほんとだ……」


挿絵(By みてみん)


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