第68話 Forever True
タルト先輩にわたしは押し倒され……
と、思ったその瞬間……、
部屋の照明が、パチッと消えて、暗闇から歓声のような音が響いた。
「「「わぁーーー! Yoshielさまー!!」」」
何? 歓声?
気が付くと、わたしはタルト先輩と一緒に
『Yoshiel & The Fallen 大晦日カウントダウン・ライブ』の会場にいた。
それも、最前列のプレミアム・シート。
マスコミ関係者が、PRESSと書いた名札を下げている。
この熱狂で、後ろからどんどんヨシフォー信者たちに押される。
前のめりになり、これ以上はもう限界だ。
突然の出来事に、わたしは押しつぶされそうになった。
「おっとー、チルちゃん。僕に捕まって!」
「タルト先輩、ありがとう」
「チルちゃんの身に何かあったら、僕、魔界送りになっちゃう」
タルト先輩は、笑いながら必死にファンたちの圧に耐えていた。
よく見ると、ファンたちが持っているライトは、わたしが企画したグッズだった。
ペンライトはずっと持っているのが大変だし、落としたりすると大変。
わたしは、腕時計型のライトを提案したが、それが採用されていた。
嬉しい。
みんな、腕にライトをつけている。
「チルちゃんの企画なんだってね。僕も買っちゃった。ほら、チルちゃんの分も……」
タルト先輩は、コンサート用ライトを二つも買ってくれていた。
「ありがとう……」
と、お礼の言葉は先輩に届く前に、Yoshiel & The Fallenのロックの音にかき消された。
Yoshielが歌う。
わたしの好きなバンド。
ああ、ここに部長がいてくれたら最高なのに……。
すると、激しい音楽から、静かなピアノ アルペジオに変わった。
中央のピアノをピンスポット照明がとらえた。
そこに見えたのは……、
オクト部長だ。
「ふわぁ! なんでー?!」
思わず叫んだわたしを、タルト先輩が手で制した。
「シーッ! チルちゃん、ここ、一番いいところ」
ピアノの前奏が止まる。
次に、奏でるのはバンドの名曲『Forever Lie』のイントロだった。
だけど……、いつもと少し違う。
ピアノを弾きながら、オクト部長がメインボーカルで歌いはじめた。
♪壊れないふりをしていた
壊れそうな過去は おいてきた
横にいてくれる君を選んだ
本当の声を やっとみつけた
――だから♪
ゆったりとしたメロディは、『Forever Lie』なのに、歌詞が違う。
替え歌?
そして、サビの部分。
Yoshielがコーラスを担当して、オクト部長とハーモニーをつくった。
♪Forever True
重ねた日々のなかで
ずっとそばにいさせて
真実の 真実の 愛を……
新たな契りを君と結ぶ
結んだこの手は、二度とはなさないから♪
いつの間に、作ったの? この曲。
一緒に住んでいるのに、全然気が付かなかった。
♪Forever True Forever True
真実の愛を……君と誓うよ ♪
ラストのサビで、オクト部長はわたしのほうを見た気がした。
いいえ、絶対見た。
――目が合った。
これは、スーパー・サプライズ・プロポーズ?!
わたしの目から、涙が溢れて止まらない。
涙腺崩壊した。
オクト部長のサプライズ演奏が終わると、もうすぐカウントダウンだ。
YoshielがMCをはじめた。
「ありがとう! 今年、“噓から出たまこと”をリアルに体験した男、オクトでしたー。みんな、拍手――!!」
「「「わー!オクトーーー!!」」」
大拍手の中、オクト部長はステージを降りた。
カウントダウンが始まろうとしている、そのとき……
オクト部長は、わたしのところまで駆けて来て、手を取った。
「行くぞ、チル」
「え?」
「タルト、ご苦労だった。おわったら楽屋裏へ行っていいぞ」
「部長! ありがとうございます! よいお年をーーー!!」
オクト部長に手を引かれ、タルト先輩の声が遠ざかっていく。
瞬間移動術だ。
気が付くと、会場の上空に浮かんでいた。
夜空の遠くで、花火が上がっている。
「ごらん、チル、星がきれいだ……」
「……はい」
「今年最後の夜空だ」
ピューと風が吹き抜けた。
「部長……、寒いです」
「……だな。家に瞬間移動しよう」
オクト部長は、パチッと指を鳴らした。
気が付くと家に帰って来ていた。
すぐさま暖房を入れて、わたしたちはリビングのラグに座り込んだ。
「楽しかったぁー。すごいですね、あんな素敵な曲、いつの間に作っていたんですか?」
「あ」
オクト部長の手が、わたしの髪を触った。
ドキッ……
「ライブのキラキラ紙吹雪ついてる」
「ああ、これね。いっぱい降って来て、綺麗でしたね」
「そうか。……咽乾いたな、ビール飲むか」
「あ、よかったら、年越しそば作ったけど、食べます?」
「おお、食べる、食べる」
オクト部長と二人で年越しそばを食べた。
ズズズー。
「年、越してしまったな。もう、元旦だ」
「うふっ、そうですね」
酔っぱらっていい気分になってきたオクト部長。
「チルー、手―出せ」
言われるままに、わたしは手を出すと、部長は何かを渡した。
(え? 何? まさか、……ゆ・び・わ? なーんて。淡い期待)
「はい」
手のひらから出てきたのは、酒のつまみ、柿の種だった。
「……なに、これ」
「おみやげだ」
「……」
(いらない。わたしのドキドキを返して)
「あ、あと、こっちのポケットには……」
オクト部長の手のひらから、わたしにキラキラ紙吹雪がたくさん降って来た。
「うわぁ! すてき! カウントダウン・ライブみたーい!」
「ああ」
オクト部長は、フチなしの細い形のメガネをはずした。
「うん、キラキラ花吹雪、きれいだったよなぁ」
オクト部長は、そのままわたしの膝を枕にして横になった。
「歌った。……届いたか」
「はい、届きました。……部長、明日、初詣行きませんか?」
「……、おきれたら……」
「こんなとこで寝ないでください」
わたしは、部長の体を揺すった。
「やめろー……」
「膝枕、気持ちいいですか?」
「そうでもない。ちょっと狭い」
「なら、降りてください」
「ああああー……、ごめん、ごめん……疲れたからもうちょっと、このまま」
そう言って、目を閉じてしまった。
「お疲れさまでした」
「ああ、年越しそば、うまかった……来年も」
「?」
「その先も……頼む」
わたしは、部長の髪をそっと撫でた。
「はい」
いつの間にか、カウントダウンは終わっていた。
やりたかったな、カウントダウン。
でも、来年もその先もあるし……、
それもずっと続くのなら、ま、いっか……。




