表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/75

第66話 オクト部長のトナカイ

 「オクト部長、クリスマスは年末商戦ですか?」


 ハロウィンのときを思い出して、わたしは聞いてみた。

また部長は、携帯電話片手に仕事しながら、クリスマスの夜も忙しいのかと……。


「クリスマスは、キリストの生誕だ。我々、悪魔は魔界に籠ってやり過ごす」


「と、いいますと?」


「魔界は営業休止期間だ。よって、人間界に長期滞在している我が営業部は、休みだ」


「休み?! ひゃっほー! いいんですか?」


「何を喜んでいる……」


オクト部長のメガネの奥が光った。


「いえ、別に喜んでなんか。でも……ネットで検索した情報によりますと、……人間界のクリスマスって、恋人たちの甘いイベント……らしいですよ」


「ふぅーん、それは悪魔にどう関係あるのだ」


言い方!

(どう関係あるって、わたしたち婚約中ですよねっ)

でも、わたしは、部長を怒らせたくない。


「何も関係ありませんっ!」


ぷい、と顔を背けた。

投げやりに言い捨てる。

わたしは、黙ってスケッチブックを出してきて、絵を描いて気を紛らわせようとした。


「何をしている、チル」


「別に? 何もしてませんけど!」


「してるだろ。何か描いているのか? ロジックツリーか?」


「やめて。ロジックツリーなんか……」


オクト部長は、テレビのリモコンをつけるふりして、わたしの絵をチラ見した。


「ぷっ! なんだ、その不思議な動物は……」


部長は吹き出した。


「見ないで! 笑わないで! ひどーい!」


わたしは、スケッチブックの上にうつ伏せになって隠した。


「これは、トナカイっていう動物です」


挿絵(By みてみん)


「トナカイ?」


「サンタさんのソリを引く動物ですよ」


「それは、知っている。トナカイだろう?」


「本当に知っているんですか? じゃあ、部長もトナカイを描いてみてください」


「よかろう。まかせろ」


オクト部長はサラサラとスケッチブックの上で、ペンを走らせた。


「ほれ、できたぞ。これだ」


イケメンのトナカイが……

サングラスをかけて、ポケットに手を突っ込んでいる。

メンズ雑誌のグラビアみたい。


挿絵(By みてみん)


「部長、これ……悪魔の力を使いましたね。ちゃんと、自力でトナカイを描いてください!」


「魔力禁止か……」


自力になると、オクト部長の手は止まった。

かなり悩んでから、スケッチブックを見せた。

それは、さっきの絵とは全然違う。

たどたどしい線、個性的な楕円形に黒丸の目。

オクト部長は、いい訳から入った。


「チル、はっきり言おう。悪魔には芸術という概念は存在しない。情けないことに、これが限界だ」


「うううん。……素敵。わたし、この絵が好き。……これ、大切にします」


「よせ」


「枕の下に敷いて寝ていいですか?」


「悪夢を見るぞ」


部長の絵を大切に折りたたむ。

しばらくしてから、

わたしは、バルコニーの外の夜景を眺めていた。


「サンタさん、人間の子どもにはプレゼントをくれるそうです」


「サンタが?」


「トナカイのそりで空を飛ぶ、赤い服と帽子のおじいさんなんだって。夜中に、こっそりお家に入ってくるんだそうです」


「心配するな。もし、そいつが現れても悪魔の力で消し去ってやる」


「ダメっ! サンタさんは良いおじさんなの」


「どう考えても、不審者だろう」


「いいえ、プレゼントを置いていってくれるんです」


「プレゼントとは、何をくれるんだ?」


「何でも」


「ほう、じゃ、お菓子もか? 対価は?」


「たいか?……、いい子にしていたらもらえるんです」


「そうか……報酬だな」


(なんか違うんだよなー。悪魔契約から一旦離れてくれないかなー)


わたしは、窓から夜空を見上げた。


「実はね、わたし、魔界にいても……小さい頃はね、サンタさんにプレゼントもらっていたんですよ」


「それは不思議な話だ。今でも小さいじゃないか」


「不思議がるところ、そこじゃないです。もっと小さいころの話です」


悪魔なのに、クリスマスの記憶があるなんて不思議だと思う。


「でも今は、もしかしたら、わたし、いい子じゃないから……、サンタさん、もう来てくれないかも……しれません」


「それは、大人になったからじゃないのか?」


「ハハハ、……ですね。悪魔ですしね」


ちょっと寂しく笑った。




 ――数日後、クリスマスの朝が来た。


今日から二連休か。

朝、早く起きなくてもいい。

わたしは、ベッドの中で寝返りをうった。

すると、枕元で頭を何かにぶつけた。


……なにこれ? 箱?


プレゼントだ。

わたしは、驚いてベッドから飛び起きた。

急いで箱を開け、驚きのあまりに頬を紅潮させた。


「うわぁTシャツ! トナカイ……部長が描いたトナカイの絵の!」


喜んで、Tシャツを抱きしめた。


「……おはよう、チル。よかったな」


オクト部長がドアを開けて、笑顔で立っていた。


「夜中に、サンタが来たようだな。

つまり、お前は模範的ないい子と見なされたんだ。……安心していい」


わたしは、Tシャツをギュッと抱きしめて、満面の笑みで振り向いた。


「はい……ありがとうございます!」


だが、これがもし悪魔の力だったら、力の乱用になる。

わたしは心配になった。


「これ、本当にサンタさんですか? まさか部長……悪魔の力使ってないですよね。力の乱用じゃないですよね?」


「お前はプレゼントを欲していた。『願い』と取って問題ないだろう」


「え、じゃ……コンプライアンス部が……」


「俺の魔力ではない、人間界のプリントサービスだろう。なかなか気が利くサンタだな」


「あはっ!」


わたしは、大好きなオクト部長に飛びついた。


そして、その後……

オクトブランドのTシャツに着替えて、部長の前に立った。


挿絵(By みてみん)


「どう? かわいい?」


「まあまあだな……。だが、サンタのやつ、もっといいプレゼント用意すればいいものを……」(お・ま・え、Tシャツの下、生足かよっ!!)


「わたし、これでいい。部長の描いたこの絵がいいの」


ガバッ!


突然、わたしはオクト部長に襲われた。


(部長、クロヒョウになった……?)


そのあとは、甘いひとときを過ごしましたとさ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ