第63話 悪い子はどこですか?
「オクト部長、見て」
わたしは、オクト部長を真似た仮装を見せた。
ストライプ柄のネクタイと、普段は隠している角と翼まで完璧に、真似している。
「なんだその格好は」
「ハロウィンの衣装です。人間界では、仮装してお菓子をもらうイベントなんですよね」
わたしは、部長の目の前でくるりと回ってポーズをとった。
「どうですか?」
「俺たちは、仮装などしなくても悪魔だろう。はっきり言おう。お前が悪魔の恰好など……似合わないな」
「えー? 部長とお揃いなのにぃ?」
「俺とお揃い? ……まぁ、出来は悪くない」
「えへへへ」
わたしは、照れてモジモジした。
「今日って、お休みなんですよね」
とたんにオクト部長は、険しい顔つきになった。
「誰がそんなことを言った」
「本部長が、昨日おっしゃいましたよ。『ハロウィンは楽しいイベントですよ~』、『仮装OKです!』って」
「残念ながら、それは表向きだ。チルに向けて言ったんだろう」
企業戦士、オクト部長は覚醒した。
「悪魔契約コーポレーションにとって、ハロウィンとは……、地獄の繁忙期だっ!!」
「え……?」
「全社あげて、営業・コンプラ・契約全部フル稼働する日がハロウィンだ。
・新規契約の獲得ラッシュ。
・短期契約、軽契約、お試し契約が大量発生。
・今日中にサインさせろモード。
魔界の年末商戦とも言う」
わたしが抱いていたイメージとだいぶ違う。
そこへ、タルト先輩がやってきた。
「本部長が言ったのは、企業の建前だよ、チルちゃん。僕ら社員からすれば……、
・ハロウィン=地獄の一日。
・終わったら燃え尽きる。
・代休?あるわけないだろ。
と、いう日だよ~」
「それも嬉しくなーい」
わたしはがっくりと肩を落とした。
タルト先輩は、そんなわたしを元気づけようと思ったのか、衣装を褒めてくれた。
「チルちゃーん、悪魔の衣装、かわいいねー。でも、こっちのほうがいいかもよ」
そう言って、指をパチンと鳴らした。
すると、部長とお揃いのネクタイが、黄色に変わった。
タルト先輩とお揃いだ。
「!」
オクト部長は、タルト先輩を怒った。
「こら、さっさと戻せ」
「すみませーん。でも、チルちゃんも外回りするのに、部長とお揃いでいいんですか?」
「お揃いじゃない。なぜなら、俺も仮装する……。本部長から、チルと同行しろと指示があった」
オクト部長は、照れながら指をパチンと鳴らした。
すると部長は、神父の姿に変身した。
「人間を惑わす悪い子は、どこですか?」
イケメン神父の目が、わたしを見つめた。
(……わたしのこと?)
一瞬、言葉が出ない。
オクト部長の視線が外れない。
「キャー! 超絶かっこいいです! 背徳的――!」
わたしは、顔を真っ赤にして飛び跳ねた。
オクト部長も、真っ赤になった自分の顔を片手で隠している。
タルト先輩は……
「二人とも、お互いの仮装……、まんざらでもないみたいね~」
夜になった。
社員総出で、ハロウィン・イベントに繰り出した。
わたしは、年末商戦だという概念が全くなかった。
「わたし、人間界のハロウィンって、はじめてです!」
「チルちゃん、とっても楽しいよ。ほら、みんな仮装してる」
タルト先輩は、魔女のマントに黄色いネクタイ姿だ。
「おい、タルト。お前まで仮装して……、なぜ俺たちと同行している」
「だって、部長は司令塔でしょ? 電話応対で大変だから、僕がチルちゃんを守っていまーす」
「とかなんとか言って、フィールドセールスの最前線から身を引く気だろ」
「……そうとも言いまーす」
オクト部長は、あきれ顔だ。
わたしは、部長の袖を引いた。
「あ、見て、見て! 仮装した子どもたちが夜の町を歩いていますよ」
天使、魔女。オオカミ、ユーレイ……。
「ほら、見て、部長! どの子どもも、体からいろんなものを生やしてます。アハハ! へーんなの」
「……自分の姿を鏡で見てみろ」
すると、タルト先輩は言った。
「うん、チルちゃんも、子どもに見えるよ。子どもたちに混ざってお菓子をもらえるかも」
「うわっ! やりたい、やります。やる!」
「何だ、その三段活用は……」
オクト部長は、渋々承知した。
「トリック・オア・トリート!」
わたしは、ある人間の家を訪ねた。
「まぁ、かわいい悪魔さんね。はい、キャンディ」
人間のおばさんは、可愛くラッピングしたキャンディをくれた。
「わぁ、ありがとうございます!」
「いいわねぇ、お父さんが神父様なの? とっても、お似合いよ」
え?
オクト部長が、父親に見られた。
タルト先輩は慌ててフォローした。
「違いますよ~。神父さんはクラシックタイプなんで、おじいちゃんです」
「はて……?」
「余計なことを言うな、タルト……」
タルト先輩を叱責しようとしたところに、部長の携帯電話が鳴った。
部長は電話で、部下に指示を出す。
「…………ああ、その契約は第七条に抵触する。修正しろ」
この繁忙期に、わたしのお遊び程度の同行するのは、難しそうだ。
「部長、仕事忘れて楽しむのは無理ですね? ……ほんとは、もう少し一緒に楽しみたかったです」
「……忘れる必要はない。両立すればいい」
一拍おいて、
「……お前が楽しめる範囲でな」
どこまでストイックなの?
それから、数軒の家を回って歩いた。
「トリック・オア・トリート!」
オクト部長は、わたしの同行と仕事、どっちも諦めなかった。
電話対応しながら、神父の恰好で付き添ってくれた。
タルト先輩は、もらったお菓子を大事そうに持って歩いている。
「チルちゃん、お菓子、いっぱいもらったね~。僕の取り分は何%?」
オクト部長が釘を刺した。
「100%、チルの分だ!」
行きかう人たちの中、わたしはふと異様な空気を感じて、立ち止まった。
「……?」
オクト部長は、相変わらず仕事の電話。
タルト先輩は、お菓子の袋をのぞきこんでいる。
「あれ……? なんか、今、悪魔の臭いがしなかった? 部長」
「何……?」
気のせいかもしれない。
わたしたちは、家路を急いだ。
*二人の小さな男の子が歩いている。
「ゼットセダイ君」
「なんですか、ノリマキさん」
「君、本当はお菓子目当てでしょ」
「いいえ、まさか」
子どもに変身したコンプライアンス部監査チームの二人だ。
ゼットセダイは、ぺろぺろキャンディを舐めながら歩いていた。
「単なる人間界の定期巡回ですよ」
「人間の子どもに変身までしておいて、よく言うよ……」
「そういう、ノリマキさんだって」
「ハロウィンは、グレー案件が爆増するからね。違反ギリギリをどう合法にするか、社に戻ったら書類の山ですよ」
「だから、逃げました?」
「君と一緒にしないで」
「はい、クッキーどうぞ」
「子どものふりして受け取ったお菓子など……、ありがとう」
コンプライアンス的に、全部アウトだ。
……ただし、今日は“例外”らしい。




