表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
54/74

第54話 繋いだ手を離す(オクト)

*俺がチルの手を引いて、取調室を出る前の話から――



 マジックミラー越しに、チルの様子を見ていた。

チルは、OJT魔女の正体をゼットセダイだと暴いた。

そして、ノリマキの誘導尋問にも……

チルは、少しも怖気づくことがなかった。


気が付くと……

いつの間にか、本部長があんパンを持って、俺の横に立っていた。


「君の部下を、ちゃんと見て上げなよ」


チルはだんだん、自分の意見を持ちはじめている。

ノリマキにむかって、きっぱりと否定までしている。


本部長は、あんパンの袋を開けながら言った。


「君が、あの契約の対価をとるために、チルさんの選択権を削ったのは仕方ないよ。君は全部を奪ったのではなく、一部だけ削った。そういうことだね」


「それが……、最後まであいつを守ってやる最善の方法だと思って……」


「未来にはいろんな分岐がある。仕事を続けるか、辞めるか。将来どんなキャリアを積みたいか。いろんな選択肢を選ぶことで人生は左右される」


「本部長、わたしは……」


「知ってるよ。あの子がオクト君から離れるという選択権を……削ったんだよね」


「恥ずかしい行為です」


「新卒が犯した重大なミス。何とかしてやりたいよね。過保護になるのもわかるよ。でも、そんなに弱いかな?」


マジックミラーの向こうのチルは、叫んでいた。


『ダメ! それはやめて!』


あいつが、契約続行を選んだ瞬間だった。


弱くねぇ……。


「あいつを……連れて戻ります。何かあれば、呼んでください」


「うん、手荒なことはしないでねー」



そして、俺はチルの手を引いて、取調室から連れ出した。

エレベーターに乗り込んだ。

何も言わず、1階へのボタンを押した。


そっと繋いだ手を離した。

すると、チルは謝った。


「すみません、部長。迷ってしまって……気が付いたら変なところに」


俺は何も言わなかった。

言えなかった。

ゼットセダイの言う通りだ。

俺は良心の呵責にさいなまれていた。

……守るどころか、縛っただけじゃないか。


「あの……、部長。怒ってます? ……怒ってますよね」


チーン。


エレベーターは地上の人間界、営業部フロアに着いた。

ロビーを黙って歩く。

後ろからチルがついてくる。


「部長、すみませんでした。……戻り時刻が遅くなってしまいました。これから、猛スピードで資料作成します」


「いらん」


「え?」


「今日は、もういい。デスクを片付けてあがっていいぞ」


「あ、あの……」


「聞こえなかったか? 帰れと言っている」


「はい、……わ、わかりました」


挿絵(By みてみん)


ちょっと強く言い過ぎたかもしれない。

オフィスに戻ると、チルはうなだれてデスクを片付けた。


「あれ? チルちゃん、具合でも悪いのー? もう帰り支度?」


「あはは、なんだか、疲れちゃって……お先に失礼しますね、タルト先輩」


「マジで? 部長……チルちゃんが……、いいんですか?」


「構わん。後輩のことより、タルト。お前、昨日の報告書はどうした」


「はい、今、提出しまーす。てか、本当にどうしたの?」


「いいから、お前は自分の業務に集中しろ!」


俺はデスクに座って、書類を見ていた。

そして……


書類の裏で、チルがオフィスを出て行く後ろ姿を、そっと目で追っていた。

(本当は、帰したくなかった)



 夜、暗くなったオフィス。


俺のデスク周りだけ照明を残して、あとは消した。

家に帰るのは、気が重い。

あんな狡猾な行為をした俺だ。

家に帰ってチルに会わせる顔が無い。


会社で一晩過ごそうか。

もともとクラシックタイプは、寝なくても平気だ。


すると、スマホが鳴った。

メールの通知音だ。

画面を見たら、Yoshielからだった。

兄さん、珍しいな。


挿絵(By みてみん)


メールを開いた。


―『漆黒の闇に踊る、青い炎へ』


相変わらず、ヘビメタの歌詞のような書き出しだ。


―『僕のSNSの熱心なフォロワーからDMが届いたよ。

タルトくんが助けを呼んでるんだけど、……どうする? (^O^)/』


ちょっと意味がわからない。

おれは、返信した。


『Yoshielに助けを求めているのなら、兄さんだろ。俺には関係ない』


―『ところがさー、関係ありありダヨーン(>_<)

お前、家に帰ってないの? 

チルちゃんが泣いているってYO!  ( ノД`)シクシク…』


『泣いていると言えば、俺が帰るとでも?』


―『相変わらずだな。

タルトくんから聞いた情報だけど、チルちゃんはお前に見捨てられたと言ってるらしい……それって、マジ? (;^ω^)』


『……それはない』


―『やった―! ないって教えてもいい? (^_-)-☆』


『おい、こんな話、誰に教えるんだ。俺の部下にか?』


―『とりま、アカネに……(‘ω’)』


『アカネさん、関係ないだろ。話がこじれるから、マジやめてくれ』


―『ふぅーん、家に帰らない気? じゃ、タルトくんとお前んちに遊びに行こうかなー。アカネも一緒に連れて行っていい? (*’▽’)』


『俺がいない時を狙って、みんなでチルに会いに行くって、カオスだな』


―『だって、普段は、オクトが番犬のようにチルちゃん守ってるんだもん。

Bow-wow (;´Д`)』


『なにそれ』


―『ドーベルマン』


『そこじゃない。俺が言いたのは……』


―『オクトさぁ、会社で何やってんの?』


『仕事だが』


―『だったら、仕事で遅くなるって、連絡入れなきゃ。

ホウ・レン・ソウ!(報告、連絡、相談)(≧▽≦)』


『ウザい』


―『チルちゃん泣かしたら、ダメだよ。お前、わかってんだろ?』


『何が』


―『それは……今にも開花しそうな恋の蕾、なーんちゃって(*ノωノ)』


『う……』


―『ポン! はい、開花! (^O^)/』


もう返信するのやめよう。

シラス兄さん=Yoshielに、乗せられてる気がする。


しばらくしてから、またメールが来た。


―『既読スルーか。偉くなったな』


それでも無視した。


―『こじらせてんじゃねーよ。上司だろ、責任取れるのか? <`ヘ´>』


兄さんの言葉に、俺はムッとした。


『その手があったな。教えてくれて、感謝する』


―『バーカ、バーカ、本気にするなよ

ちょっと煽っただけじゃん。

それとも本気でバンドに戻る? (≧▽≦)』


俺は何度も入力し直した。

だが、送信できなかった。


挿絵(By みてみん)

『考えさせてくれ……』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ