第53話 取り調べ
「あなた、オクト部長と契約しましたね」
その一言で、空気が変わった。
「オクト部長はあなたのミスを、問題ないように見せかけるのに必死よ」
入力する指さばき、これは、たぶん……、あいつだ。
わたしを騙して、平気で演技している。
「事の重大さを、わかってます? これは面談と言う名の取り調べなの」
「はい、わかりました。たった今」
「……?」
「あなた、コンプライアンス部のゼットセダイさん……ですね」
「へ? 何を……」
「はっきり言います。あなた、化けるのが下手くそです。最初から違和感ありました」
OJT魔女は、ため息交じりにポケットからコンパクトミラーを出した。
この期に及んで、化粧直しか?
「ちっ! もうちょっとうまくやれると思ったのになぁー」
悪魔の力が消えて、ゼットセダイがそこいた。
「なんのまね? ゼットセダイさん」
「なんのって……、業務だよ業務。これが趣味に見えるかよ」
「うん、見える。女装が趣味かと……」
「よせ! オクトと一緒にすんな! ったく、バレたらしょうがない。ノリマキさーん、助けてくださいよー」
すると、壁の向こうからするりと、コンプライアンス部の監査チームのノリマキが現れた。
あんた、幽霊かよ!
「チルさん、こんにちは、ノリマキです。うちのゼットセダイの変身、よく見破りましたね」
「こんにちはー、オリガミさん」
「ちっとも、怯えてないんだね?」
「だって、オリガミさんって優しくて丁寧だし、ゼットセダイはタイパ重視で、わたしと似てるし、共感ってやつ?」
「おい、お前とは似てねーよ」
「本当は、ポンコツって言いたかったんだけど、かわいそうだから、それは言わないでおくね」
「もう言っているつーの」
ゼットセダイは不機嫌になったが、ノリマキは優しく説明した。
「物おじしない子だね。本来なら、魔界に永久束縛されてもおかしくないんだよ。君とオクト君の契約は……」
「知っています。わたしのミスでオクト部長に迷惑かけています。
わたしは部長の足かせになっているかもしれません。
でもそんなこと言えません。
……それを言ったら、終わってしまう気がして」
「チルさん、あなた、オクトくんとの契約。友達になれたと思いますか?」
「さぁ、わたしだけ思っても、部長がそう思ってなければ、友達と言えないと思います」
「ふーん、それ、オクト君に聞いたことある?」
「聞けませんよ。そんなこと……」
「あれまぁ、聞けないのはどうしてかな。まさか、オクト君に友達以上の感情を持って……」
「いいえ、違います!」
「言えないということは、そういう類のことでしょう?」
「違いますってば……、いつもタイミングが合わないだけです」
「ほぅー。じゃ、いつならいいのかね?」
「……」
わたしは、返事に困った。
「ずっと……、ダメかもしれません」
「それは困りますね。契約は果たしてもらわないと……」
いつかそう言われると、覚悟はしていた。
でも、オクト部長みたいに素敵な人の友達になんて、おこがましい。
ミスしてばかりのわたしは、友達になる資格なんて……ない。
「ほんとうに、君はダメダメばかりだねー。対価は払われたが、契約キャンセルという方法が、ありますよ。契約解消で、対価はお返しできますが……」
わたしは、思わずノリマキの腕をつかんだ。
「ダメ! それはやめて!」
ノリマキが確認した。
「……いいんですか? このままで」
すると、ゼットセダイが口をはさんだ。
「うーーん、いい反応だね。やっぱり、面白い子だ。ノリマキさん、契約者本人が解消しない限り無理ですよ」
「そうだけど……」
「僕はあのクラシックタイプ風情が、良心の呵責にさいなまれる姿が見たいです。だから、続行で……」
「いい趣味だね、ゼットセダイくん」
――その瞬間。
空気が変わった。
ドアが開いた。
びゅーーー!!
突風が吹き抜けた。
気が付くと、ゼットセダイが床に転がっていた。
わたしは誰かに手を引かれて、面談室を出た。
わたしの手を握っているのは……
……オクト部長だった。
その手は、少しだけ強く握られていた。




