第52話 フォローアップ面談
B9フロア。
机と椅子があるだけの、殺風景な部屋に通された。
OJT魔女は、わたしに座るように勧めてから、対面する形でゆっくりと座った。
「さて、始めましょうか。これは、新人のフォローアップ面談です。これから聞く内容は、あなたを評価するものではありません」
「はぁ……」
いや、この雰囲気、おかしいよ。
絶対、評価するでしょ。
「評価ではなくサポートが目的です」
ほんとかな。
「また、この面談で得られた情報は、今後の成長のために記録されますが、プライバシーは、守られることを保証します」
プライバシーは守られるのか。
なら、よかった。
しかし、OJT魔女は小さく付け足した。
「……たぶんね」
ちょっと、たぶんってダメでしょ。
この魔女、やっぱりおかしい。
「まず、普段の業務内容についてお聞きします。業務に慣れてきましたか?」
「はい、たぶん」
「たぶん? それじゃダメよ」
「でも、あなたもたぶんって言いましたよ」
「まぁ、揚げ足取りのうまい子ね」
おっと、いけない。
ちょっと反抗的すぎたかな。
ちゃんとまじめに面談を受けよう。
「業務中に特に難しいと感じることはありますか?」
「……全部です」
「職場環境について気になることはありますか?」
「別に……」
「職場で安心して相談できる相手はいますか?」
「オクト部長と、タルト先輩です」
「チームメンバーや上司とのコミュニケーションは円滑に取れていますか?」
「たぶん……」
「なーんか、具体性に欠ける答えばかりですね」
「すみません……」
OJT魔女は、イライラしはじめた。
以前から、こんな魔女だったかしら。
「では、今度はキャリアに関することを聞きますね。
現在の業務内容は、自分のキャリアプランに合っていると感じますか?」
「……わかりません」
「ほかの職種や部署に興味を持つことはありますか?」
「???……ないです」
「今後どういったスキルを伸ばしていきたいですか?」
「……」
「将来的にどのような役割を担いたいと考えていますか?」
「????」
「数年後に達成したい目標や、理想とするキャリアの方向性は?」
「……」
なにもわからないけど。
今、適当に生きていければ、それでいいと思っている。
将来のことなんて、考えようとしてもなにも浮かばない。
頭の中が、混乱しはじめた。
声が出にくい……。
蚊が泣くような声で、やっとつぶやいた。
「……それは、ない……です」
「チルさん、……はっきりと、大きな声で言いましょうか?」
わたしは、顔をあげた。
こいつ、絶対、違う。
なにか、すごい違和感。
なぜ、そんなに圧力面談するのか。
これはハラスメントだ。
大きな声が聞きたいのね。
了解。
「はいっ!!!」
自分でも驚くほどの声が出た。
OJT魔女は、思わず耳を押さえて、ドン引きした。
「わたし……これから、自分で決めますから、煽らないでください!」
「へぇー、あなた、契約で縛られてるのよ。自由が削られているの。自分で決められるの?」
ああ、これ、以前に聞いたり読んだりした記憶がある……。
なんだっけ……。
思い出そうとすると、頭が痛い。
そうだ、コピー機の裏の棚に、契約書のコピーがあって、わたし読んだわ。
「ええ……思い出した」
「何を? かしら……」
「契約は『お友達になって』です。その対価は、『将来における意思決定権の一部』」
「あら、よくできました。だから、あなた、選択権が無いってご存じ?」
OJT魔女は、ゆっくりとタブレットを開いた。
このタブレット見おぼえある。
「あなた、選べないのよ」
その声は、どこか楽しんでいるようだ。
それに、いつもOJT魔女が使っているタブレットと違う。
どこで、見たっけ、これ……。
……いや。
見たことがあるんじゃない。
“知っている”。
胸の奥が、ざわついた。




