第50話 魔界の迷路
朝礼の後、オクト部長に呼ばれた。
「チル、ちょっと来い」
何かやらかしたのかな、わたし。
何をミスしたんだろう。
オクト部長に呼ばれただけで、ドキドキする。
言っておくけど、これは緊張だから。
「今日はOJT部で新入社員の面談がある。ここに配属される前に通っていたから、場所は覚えているよな」
「えーーーっと、魔界にある部署ですよね。はい、えーっと、……毎日この営業部に、人間界から通っているので、……忘れました」
「お前、自分の働いている会社だぞ。忘れるとは何ごとだ!」
こわっ!
オクト部長の顔、オフの時と全然違う。
「魔界の地下6階だ。簡単な地図を書いてやる。自分で行くんだぞ」
「はい、ありがとうございます。……ところで」
「なんだ?」
「面談って、どんなこと聞かれるんですか?」
「仕事の進捗、悪魔関係、悩み、今後のキャリア希望、などだ」
ざっくりとしすぎてよくわからない。
わたしが首をかしげたのを見て、オクト部長はささやいた。
「ようするに、上司との関係はどうですか? ハラスメントはありませんか? とかだな」
わたしは、はっとした。
「まさか、プライベートな関係は聞きませんよね」
「バーカ、勘違いも甚だしい。俺は、お前の評価を先日OJTに提出した」
「うわ、評価?……ミスが多いとか書かれたかも……」
「ほうー、よくわかったな」
「ええーーー! 本当ですかぁー!」
「内容は極秘だ。とにかく、11時にはOJTに着くように」
「はい、わかりました」
オクト部長は、メモに簡単な地図を書いてくれた。
なんだ、簡単に行けそう。
約束の11時の30分前になった。
わたしは席を立って、オフィスを出ようとしたら、タルト先輩に止められた。
「チルちゃん、どこか行く予定?」
「はい、OJTまで」
「社内であっても、長時間席を外すときは、行動予定表に書くんだよー」
「あ、そうなんですか」
「うちの会社、地下がやたら広いからさ、場所と戻り予定時刻を記入しないと、行方不明になるからね」
「え、本当ですか?」
「ごめん、今のはちょっと盛った。ってか、ほんとみんな心配するから書いてねー」
「はい、わかりました」
わたしは、ホワイトボードの行動予定表、自分の名前の横に記入した。
OJT 戻り予定12時。
なんだか、一人前の営業マンになった気分だ。
……かっこいい。
オクト部長からもらった地図を手に、エレベーターに乗った。
そして、地下6階ボタンを押した。
配属が決まった日、OJTの魔女と一緒にこのエレベーターに乗ってきたことを思い出した。
チーン
地下6階。
ここは魔界だ。
懐かしい匂いがする。
オクト部長の書いた地図とにらめっこ。
ん? 魔界ってこんなに暗かったっけ……地図が良く見えない。
しかたがない、ここから先は記憶を頼りに進もう。
暗くて、廊下が迷路のようだ。
ところどころ、今にも消えそうな蛍光灯がチカチカしている。
こんなところによく通っていたなぁ。
……あれ?
さっき、ここを通った気がする。
同じ看板。
同じ曲がり角。
……こんな構造だったっけ?
右に行くか、左に行くか。
……どっちでもいいや。
そして案の定、……迷った。
わからない。
そうだ、誰かに聞こう。
でも、誰も歩いていない。
……オワタ。
タルト先輩の予言が当たってしまった。
誰か、わたしを見つけてー!
わたしは泣きたくなって、廊下にしゃがみこんだ。
常日頃、会社の内部を移動することもないから、把握していない。
オクト部長がおっしゃったとおり、「自分の働いている会社だぞ。忘れるとは何ごとだ」だ。
また、やってしまった。
自己嫌悪。
……そのときだった。
コツン、コツン。
靴音。
一定のリズムで近づいてくる。
すると、背中をツンツンとされた。
ふりむくと、OJTの魔女だった。
「チルさん……遅いわね」
(え? “探しに来た”じゃない?)
「こっちよ」
「うわぁー、すみませーん。見つけてくださってありがとうございまーす」
わたしは、安心して号泣してしまった。
「あらあら、泣いてたの? ここで泣かれても困るわ。さ、こちらへいらっしゃい」
「ううう……」
わたしは、OJTの魔女の後を付いて行った。
そしてまた、エレベーターに乗った。
「あれ? 上に戻るんですか?」
「いいえ、下に行きますよ」
カチッ
魔女は、B9と書いたあるボタンを押した。
ボタンが光った。
……でも。
そのボタン、最初からあったっけ?
まさか、……この魔女……OJTじゃない?
そのとき、
エレベーターの扉が閉まった。
チル「……これ、いいところで終わってません?」
オクト部長「終わっているな」
チル「続き、気になりますよね!? ブクマですよね?」
オクト部長「そう願いたい」




