表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/74

第46話 三日月の報告

 夜の街を走る黒いバン。

『スパイダー家事代行サービス』と書かれた車の中。


「あーあ、やべぇよマム。クライアントにどう説明すりゃいいんだ」


「大丈夫よ。言い訳と自己弁護は、あんたの得意技でしょ」


マムの嫌味に、褒められた気分になったチャラは、ニコーっと笑った。


「いや褒めてないから」


「ありゃりゃ……、うーーん、でもさぁ」


チャラは、訪問先で見た悪魔たちを思い出した。


「どうしたの?」


「いいや……」


「はっきり言ってよ。気になる」


「本当に、あの子が、悪魔に対価を払った契約者? あのスポンジ持ったクラシックタイプじゃなくて、あの子を消す。本当に、それで合ってる?」


「間違いない。そう依頼された」


「じゃ、あのクラシックタイプを従えるほど、あの子は上位の悪魔?」


「……」


マムとチャラは、一瞬凍り付いた。


「んなわけ、ねえか」


「ばかな。ただの女の子でしょー」




 *依頼主の待つ高層タワーの一室


タワーの上には、細い三日月が浮かんでいた。

その一室。

壁には、Yoshiel & The Fallenというロックバンドのポスターが貼ってあった。


挿絵(By みてみん)


「それで?」


長い髪の女は、チャラとマムを目の前に立たせて問いただした。


「悪魔祓いの件、ターゲットは始末できたの? スパイダー家事代行サービスさん」


チャラとマムは、直立不動のまま緊張していた。


「始末できたの……? 聞いているのよ」


マムはニコニコと、チャラはヘラヘラと笑って誤魔化した。


「だって、クラシックタイプが一緒にいるなんて、お宅一言も言ってなかったでしょ!?」


「どうやって、蟻んこがゾウを倒すんですかぁー」


「ま、あきれた。知恵を使えば、やりようはあるはずよ。……だけど、まあいいわ。最初から、あなたたちに期待はしていなかった」


長い髪の女は、一歩前へと踏み込んだ。


「それよりも、そのクラシックタイプの前に、ターゲットがいたでしょ。どんな様子だった?」


チャラとマムは返答に困った。

ターゲットの報告するのが義務だが、クラシックタイプの印象が強烈過ぎた。


「ど……どうって……」


「普通?」


長い髪の女の声が、静かに怒っていた。


「抽象的すぎるわ」


「普通というか、どこにでもいる女の子って感じでしたよ」


「なぜか、クラシックタイプに懐いていましたけど」


「……そう、もういいわ。帰って。当然、報酬はゼロよ」




 *スパイダー家事代行サービスのオフィス。


ソファーに寝転ぶチャラと、椅子に体を預けて天井を仰いでいるマム。


「なぁ、チャラ。結局何だったんだろうねぇ、あのクライアント」


「俺に聞かれても、困るぜ」


「だって、わたしたちに期待してないだとか、クラシックタイプに懐いてたと言ったとたん、『帰れ』と言ったり」


マムはマンションで見た悪魔と、クライアントの部屋にあったポスターを思い出していた。

そして、ハッとした。


「ん? あのYoshielとあのクラシックタイプって、ちょっと似てない?」


「ええ? 気のせいだろ……」


「……そうか、気のせいか」


「今夜はもう遅い。帰ろうぜ」


長い夜だった。

三日月は傾きはじめた。


挿絵(By みてみん)


 *同じ夜、依頼主の待つ高層タワーの一室。


広いオフィスに男の声が響いた。


「アカネさん」


アカネマネージャーは、怪訝な表情で振り返った。


「アカネさん。気がかりですか? うちの社員……の二人が」


「余計な詮索はしないで。ノリマキさん、ゼットセダイさん」


「ああ……むしろ気にかけているのは……」


ゼットセダイは、白い顔で静かに笑った。


「気にかけているのは、オクトの方ですよね。

あなたが拾って、育てたロックバンド……ヨシフォーの元メンバー。

かっこよくて有能な男。まあ、僕には劣りますけど」


「ゼットセダイくん、君、自信過剰だよ」


「ホホホ、何ですって? わたしは願いの対価として悪魔祓いを引き受けただけです。……仕事は、あの子を消すだけでじゅうぶんでしょ?」


「だけどねー、元メンバーが、新卒の悪魔とくっつきそうで、もはや、下手な動きもままならない。

ウケるぅ……なんて情けない話だ」


「ゼットセダイくん、口を閉じなさい!」


「わぁ、こわーい! ノリマキさん、悪魔の片りんが覗いてますよ」


ノリマキの呼吸は乱れた。


「誰のせいだ、……誰の……! まったく、君ときたら……すみませんね、アカネさん」


アカネマネージャーは、ノリマキに言った。


「とりあえず、仕事はしたわ。これで、契約の対価を払ったから……もう、かまわないでくださる?」


「おっと、人間。ここで、お茶をすすめろという命令なんだ」


「誰からの命令?」


「アカネさん、あなたの仕事はここまでです。ご苦労様。上の者から、おもてなしをするように言われております」


「おもてなし?」


「そう、アカネさん。そろそろ、おやつにいたしましょう」


冗談みたいな口調なのに、断る余地はどこにもなかった。


「……おやつ?」


アカネマネージャーは、眉間にしわを寄せた。


「イライラには甘いものですよ。これ、うちの上司の口癖でね。ゼットセダイくん、あれをお出しして」


「はい、でも、イライラしているのはノリマキさんに見えますけど?」


「早く、お出しして!」



 テーブルの上には、焼きたてのパンケーキが並んだ。


「んー、我ながら、とても上手に焼けました。一緒にいただきましょう」


アカネマネージャーは、この悪魔たちからのもてなしに戸惑った。


「これ、ノリマキさんが焼いたんですか?」


「いいえ、僕です。ゼットセダイです」


「……あんたたち、どういう悪魔なの?!」


「さぁ、アカネさんも、冷めないうちに……」


アカネマネージャーは、パンケーキをじっと見つめている。


「イライラには甘いもの? パンケーキでおもてなし? ……一体、どういうことなの」


上に乗ったバターが溶けて、パンケーキの表面を滑り落ちた。


「どうにかして……」


「え、何ですか?」


「オクトさんを取り戻したいだけなのに……」


アカネマネージャーは、それからしばらく何も言わなかった。

爪だけが、じわりと手のひらに食い込んでいた。

ノリマキは、それを黙って見ていた。


「ふふ……身勝手ですね。何か、策でも?」


「……あの子を始末できなくとも、引き離すくらいは可能でしょ」


「では……追加の契約、いかがですか? でも、ここから先は、上とも相談しないと……」


「馬鹿なことを言わないで! これ以上……これ以上、奪われるのは……耐えられない」


アカネマネージャーは、ゼットセダイをじっと見た。


「……ねえ、あんた」


ゼットセダイは、パンケーキにメープルシロップをかけていた。

だが、その手は止まったままだ。


「かけすぎよ」


「ああ……」


ゼットセダイは目を細めた。


「いけね」


挿絵(By みてみん)


メープルシロップは、パンケーキの皿からあふれ、テーブルにまで流れていた。


「つい、はしゃいでしまって。ぼくは、甘~いメープルシロップが、だーい好きなんで。溶けたバターも」


ゼットセダイは、口元だけが笑っていた。

ノリマキも目を細めた。


「あーぁ、面白くなってきましたね。うちの社員たちって甘党なんですよ。特に、管理職の悪魔は……」


三日月は低く傾き、甘い匂いだけが、部屋に残っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ