第39話 ロジックツリー
会社を定時にあがった。
家の近くのスーパーを通ったとき、今日は特売日だった。
牛乳が無かったわ、買って帰ろう。
買い物しながら、今日の出来事を思い出していた。
………アカネさんって、本気でオクト部長を狙っていたんだ。
部長って、本物の悪魔だよ?
知っているのかな。
あ、サバが安い。
30%オフ……。
わたしの価値は半値以下だろうか。
事務作業はミスばかり、営業に出ると悪魔らしくない。
アカネさんの言う通り、わたしは「何もできないひよっこ」だ。
そんなことを考えながら、店内を歩いていると、
「よかった、ここにいたー」
振り返ると、タルト先輩だった。
「先輩、どうしたんですか?」
「えへっ! どうしたのかなー。なんだかチルちゃん、ほっとけなくて……追いかけて来ちゃった」
「今日は、ノー残ですか?」
「ん? 残業よりも優先したいことがあって……」
「……下心ですか?」
「……僕、そんなに信用ない? そうじゃなくて、先輩として新卒のチルちゃんが心配になった。それじゃ、ダメなの?」
「あ、ありがとうございます」
「ふぅーん、何買ったの?」
タルト先輩はわたしの買い物かごの中を見た。
「サバ? 渋いねチルちゃん。チルちゃんなら、もっと甘い系を買っているかと思った」
「あ、これはオクト部長用です。サバの味噌煮……作ろうかと……」
「あー、そういうこと。いいなぁ、オクト部長。チルちゃんってさ、料理上手になったよね」
「部長のおかげです」
「成長著しい……、会社でも成長したって、褒められてたじゃん?」
「そうかな……」
「あれれ、なんか悪いこと、言っちゃったかな、僕。 何か悩んでる?」
「課題ができないんです」
「課題……?」
わたしは、タルト先輩にロジックツリーのことを話した。
なかなか、書けないことを相談した。
「ああ、ロジックツリーね。あれってさ、一人で悩んでも解決しないよ」
「え? でも、課題ってことは、ひとりで書くものじゃないんですか?」
「ロジックツリーがうまく作れない理由は……」
わたしは、タルト先輩をじっと見た。
「教えてください!」
「理由は、大きく二つ。
広がりが足りない(それだけなのか?)
論理がおかしい(本当にそうなのか?)」
「余計わからないです」
「うん、これってさ、本当にそうなの??って、自分に問いかけ続けるんだよ。それには有効な手段があるんだよー」
「それは何?」
「うん、その姿勢が大事。What? だから、何? って問いかけるんだよ。それには、複数人の視点を入れることで格段に精度が上がるんだ」
「複数人……。でも、わたし自身のモヤモヤした不安を、誰かと話し合うって、変じゃないですか?」
「ここに、いるじゃん。僕を頼ってよ。複数人ってなにも大勢とは限らないでしょ。違った視点から見ればいいんだよ。二人だって、複数だからねー」
「じゃ、今から家に来ます?」
ところが、タルト先輩は笑顔で手を振った。
「今日は、部長に怒られたから、チルちゃんの家には行かないよ。何かあったら、メールか電話してねー」
「え? 来ないんですか? わざわざ、この話をするためにわたしを追いかけて……」
「たまには、かっこつけさせてよ~。じゃあねー」
タルト先輩、かっこよ……。
家に帰って、一息ついた。
オクト部長は、仕事のオンとオフをつけろと言ったが、タルト先輩のアドバイスを無駄にしたくない。
忘れないうちに、もう一度、ロジックツリーをやってみよう。
テーブルに紙を広げた。
ロジックツリー。
モヤる
↓
不安
├ 仕事が難しい
├ 生活の変化
├ 疲れ
└ 部長?
├ 優しいときがある
├ 急に近い
├ でも怖い
↓
よくわからない
――回想
アカネさん『なんにもできない。なんにもわかっていない、ひよっこちゃん。比較対象は、しょぼい方がいいの』
そう言われて、わたしは悔しかった。なぜ?
タルト先輩『関係ないのに、気になっちゃうのが……恋だよね』
まさか……。
でも、アカネさんとオクト部長が、ベタベタしたら嫌だ。
Why?
それは、割とオクト部長のこと、嫌いじゃないから。
いつも、そばにいてくれるから、大好きだし。
タルト先輩『そのときの好きとは意味が違うと……思うんだよね』
ああ、そういうことか。
複数人からの視点から見ると、世界が広がる。
つまり、アカネさんから見たわたしと、タルト先輩から見たわたし、両方正解。
もうお子様の“好き”じゃないかも……。
└ 部長?
├ 優しいときがある
├ 急に近い
├ でも怖い
………
わたしは、前に書いた言葉を横線で消して、続きを書いた。
……眠くなった。
ガチャ
玄関ドアの音。




