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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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第38話 反省文

 ヨシフォーのマネージャーは、わたしに近づいてきた。


「チルさん? あなた、ここにいるってことは、お仕事暇なんでしょ? ちょっとお話、いいかしら」


暇じゃない、暇じゃない。

無断でオフィス出てきてしまった。


「立って話すことじゃありませんけど、よかったわ。ここでヨシフォーのファンに会えて」


「あれ?」


さっきまで、オクト部長にセクハラしてましたよねっ!

と、言いたい気持ちを飲み込んだ。


「オクトさんって、優しい方よね……」


「はぁ? 全然です。目なんか吊り上がってこんなんですよ!」


わたしは、指で目を吊り上げてみせた。


「仕事中は、圧がハンパないですよ! 不注意! 認識不足! 話はメモを取れ!」


「うふふ。おもしろーい。チルさんって、オクトさんの真似がお上手」


「えへへ」


なんだ、意外と話しやすい人だった。


「ごめんなさい。アカネさんと言いましたっけ? なんだか女子力高くて近づけないと思ってました」


「アハハハハ、やだー。そういう内面は、隠しておくものよ」


わたしは、アカネさんの話に笑った。

だが、そのときふと、彼女はつぶやいた。


「ふっ……マジでウケる」


あれ? これ、本当はウケてないときの言い方……。


「本当に、オクト部長の近くにいるのが、あなたで良かったわ」


「そんな、わたしとか、なんの役にも立たないし」


「それよ! だからいいんじゃない」


「えっ?」


「なんにもできない。なんにもわかっていない、ひよっこちゃんで、ラッキーだわ」


「ひよっこ……?」


挿絵(By みてみん)


「オクトさんは、とびきり優秀な営業マン。若くしてトップに昇りつめた出世株。端正な顔立ち。そして、何よりも元バンドメンバーで、Yoshielの弟!」


「はぁ……」


「そんな彼と結ばれるのは、わたしこそ相応しいのよ……。だから、比較対象は、しょぼい方がいいの」


この人、悪魔と結ばれるのが相応しいとで、マジで思っているの?


「え、しょぼい……」


「いい? お子さまは黙ってること。これは大人の恋愛なの」


えーーーーーー!


「オホホホ……今度は、ちゃんとアポ取って来るわ。オクトさんにそう伝えて。じゃあねー」


子ども扱いされた。


「ああ、それと……、あなた、あの人の“本当の顔”、知らないでしょ? フフフ」


そう言い残して、アカネさんは立ち去った。

こんな女に、オクト部長が好かれているなんて。

(しょぼいって……わたし……)



 「ふーん、なるほどね」


後ろで声がしたので、振り向くと


「チルちゃーん、お疲れー。外回りから帰ってきたら、珍しいもの見ちゃったよー」


タルト先輩が立っていた。


「先輩! どこから見ていたんですか?」


「えーーっと、オクト部長が、セクハラ回避しているところ?」


全部じゃないか。


「言ってくださいよー」


「ごめんねー。でも、あれだね。あれは絶対、オクト部長もドキッとしたよね~」


「していますか? 冷静に対処してましたよ」


「でも、いつか魔が差すに決まってるよねー。だって、僕ら……」


僕ら……何。


「……悪魔だもん」


「オクト部長が、誰とベタベタしようが、わたしには関係ないですっ!」


「そうだよねー。関係ないのに、気になっちゃうのが……恋だよね」


恋?

何?

めっちゃ、話しにくいんですけど……。


「寂しいなぁ。チルちゃんは、オクト部長が好きなんだもん」


「そりゃ、好きですよ。大好きですよ。いつだったか、公園の帰り道で言ったじゃないですか」


「公園ねぇ。……そのときの好きとは意味が違うと……思うんだよね」


タルト先輩は、くくくっと笑った。


「何、笑っているんですか? わたしのこと、そんなにおかしいですか? お子様だからですか?」


「あらら、お子様なんて誰も言ってないよー」


「言ったもん! アカネさんが、そう言ったもん」


「ほらほら、そういうとこだよ。そんなにムキにならないで。落ち着いて、オフィスに戻ろうよ」


わたしは、タルト先輩から肩に手を回された形で、オフィスに戻った。



 オクト部長と目が合った。


「席を外して、どこで何をしていた。2分以内に説明しろ!」


「あ、わ、違っ!」


「それから、タルト! お前、チルと何をしていた」


「うーん、言っていいのかなぁ」


「なんだと? お前、言えないようなことを……」


わたしは慌てた。

(ここはタルト先輩を庇わなきゃ……)


「違います、違います! オクト部長。タルト先輩はわたしのことを心配してくれて……何も言えないような、やましいことはしていません」


「そうですよ、部長。僕はチルちゃんにフラれたの」


「やっぱり、恋バナじゃないか。チル、課題の続きをすること。タルト、お前は反省文だ」


「何で――――?! 僕が反省?」



 課題のロジックツリーを書こうと、デスクに向かった。

さっきのアカネさんの言葉が、突き刺さっていて痛い。

だけど、そんなこと書けない。


隣の席では、タルト先輩が反省文を書いていた。

わたしも、オクト部長に謝りたい。

元はと言えば、勝手にロビーに見に行ったわたしが悪いのだ。


わたしも反省文を書いた。 



「オクト部長、これ、出来ました」


「課題か?」


「いいえ、反省文です」


「チル……、お前に反省文を命じた覚えはないが……」


「わたしの勝手な行動が、タルト先輩を巻き込んでしまいました。タルト先輩は何も悪くありません」


挿絵(By みてみん)


―反省文


私は、本日、勝手に離席して、会社のロビーに行きました。

オクト部長のお客様対応が気になってしまい、本業以外の案件をのぞき見しました。

社会人として品位を欠いた行動が情けなく、

恥ずかしく思うと共に、深く反省しております。

今後は、余計なことをせず、指示された仕事をこなします。

最後に、本業以外の案件が気になった理由については、

自分でもよくわかっていません。



「こなすだけの仕事はするな」


「はい?」


「品位を欠いた行動は良くないが、本業以外の案件に興味を持つのは悪い事ではない。悪いのは、俺に相談せずに行動したことだ」


「すみませんでした」


「でも、よく反省文を自ら書こうという気になった。成長したな」


「え、あの……、ありがとうございます」


「さてと……もう、終礼の時間だ。今日はもういい」


うわ、優しい。

怒るだけじゃないんだ、オクト部長って。

上司として、部下のことをちゃんと見てくれてる。

やっぱ、素敵……かも……。



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