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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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第36話 分析しろ

 「オクト部長に来客です」


受付から部長の内線が鳴った。


「ああ、わかった。チル、お茶を頼む。お盆に乗せて、ノックは3回だ」


「はい」


それくらい知ってます。

と、咽まで出かかった言葉を飲み込んだ。

最近、何でもない事でも部長に言われると、モヤモヤしたり嬉しかったり。

わたしの感情がコントロールできない。


タルト先輩が、わたしの顔をのぞきこんだ。


「チールちゃん、大丈夫―? 何かあった?」


「うん、ちょっとね」


「何、オクト部長に注意されたこと、まだ引きずってんの?」


「いいえ、それはないです」


「え、じゃ、何?」


「……うまく言えない……です」


「ふーん」


タルト先輩は、それ以上聞いて来なかった。



 コン、コン、コン


「失礼します」


応接室に入ると、笑顔のオクト部長と……

お客様は、前に見かけたきれいな女の人。

また、あの取引先の女……?!


「いつもお世話になっております。本日は、わざわざお越しいただいて……」


オクト部長が、笑っている。

——あんな顔、わたしには見せないのに。

いや、そりゃ笑うけど。

会社で笑っているのを初めて見た。

そいえば、部長は契約営業部長だった。

これは営業用の顔?


お茶をテーブルに置く。


「下がっていいぞ」


わたしには冷たく言うのに、お客様にはにっこにこしている。


「ささ、粗茶ですが……」


「あら、この子、先日ライブの後、Yoshielの楽屋に来た子ね」


「うちの新卒社員です」


「まあ、オクトさんの部下でしたの」


は?

どうして、Yoshiel様のことを知っているんだろう。


「わたくし、ヨシフォーのマネージャーしておりますアカネといいます。またライブにいらしてね」


挿絵(By みてみん)


そうなんだ。

ヨシフォー(Yoshiel & The Fallen)のマネージャーさんだったんだ。

だだ、それを聞くと余計に緊張する。

わたしは緊張して、ガチガチだった。


「チルといいます。よろしくお願いいたします。そうぞ、ごゆっくり……」



 そこから、オフィスにもどり資料の訂正作業をしていた。

だけど、頭の中はあの女性とオクト部長の笑顔。

別に、普通のことだ。

部長が笑うくらい……

家で、メイクで遊んだときだって、部長は笑ってた。

あのとき……


―『ハハハ……。メイクすると、なんだか自分の殻が弾けてしまうな……』。


あの時の部長を思い出して、おもわず声になった


「嫌っ!!」


「何がだ」


後ろで部長の声がした。


「はっ……、お早いお帰りで……」


「もう打ち合わせは終わった。……何かあったのか?」


「いいえ……」


「体調不良か?」


「いいえ」


「突然、否定的な悲鳴。その反応は捨て置けんな」


「なんでもありません」


「モヤモヤを放っておくとしこりになる。早期解決することだ。さぁ、話せ」


オクト部長は、取調官のように、身を乗り出した。


「そ、そんな……追及されても、話すことは何もないです」


「そうか、わかった……。言語化できないのなら……分析しろ」


「ぶんせき……?」


嫌な予感しかしない。

部長は、引き出しから紙とペンを取り出して、机の上に置いた。


「ロジックツリーを書く」


「ろ、ろじっく……?」


「いいか。感情を放置するな。分解しろ」


「ロジックツリー……いや、難しく考えるな。特にお前の場合は……」


「はい?」


なんだか、面倒くさいことになった。


挿絵(By みてみん)


「簡単に言うと、“なんでそうなるのか”を、枝みたいに分けていく図だ。

例えば……

“ダイエットが続かない”という悩みがあるとする」


「ダイエット……?」


「そこで“なぜ?”を考える」


「考える……?」


「例えば……こんな風に。

・なぜ続かない?

→ 食べてしまう

→ 運動しない


・さらに分ける

→ 食べてしまう

 ・ストレス

 ・誘惑が多い

→ 運動しない

 ・時間がない

 ・面倒」


わたしは、ペンを持たされた。


「まず、主題を書く。“最近の不調”だ」


カリカリ……


震える手で、紙に書く。


『最近の不調』


「次に、大きく二つに分ける。“仕事面”と“心理面”」


「し、心理……」


ドキッとした。


「さらに分解する。仕事面なら、ミスの種類、集中力の低下、優先順位の混乱などだ」


オクト部長は、淡々と説明する。


「心理面はもっと重要だ。不安、緊張、動揺。原因があるはずだ」


(あります! めちゃくちゃあります!)


全部、あなたです。


「書け」


「は、はい……」


わたしは、ぎこちなく線を引いて、枝を伸ばした。


沈黙。


カリカリカリ……


紙の上に、よくわからない言葉が増えていく。


『不安』

『動揺』

『原因不明』


(原因、わかってるけど書けないんですけど!?)


「チル」


「は、はい!」


「手が止まっている」


「すみません!」


「思考停止するな。原因は必ずある」


ありますってば!!


「なぜ集中できない」


「え……」


「“なぜ”を繰り返せ。最低五回だ」


出た、深掘り。


「なぜミスが増えた」


「……根性が無いからです」


「“根性が無い”で終わらせるな。それは原因じゃない。“思考停止”だ」


「えーーっと、……集中できないから?」


「なぜ集中できない」


「……気になることがあるから」


「なぜ気になる」


「……」


言えるかーーー!!


オクト部長は、わたしをじっと見た。

逃げ場がない。


「……そこが核心だな」


やめてください、見抜かないで。


「そこを言語化できないなら、整理して持ってこい」


「え?」


「課題だ」


課題!?


「今日中に書く必要はない。だが、逃げるな」


紙を、トンと軽く叩く。


「完成させて、提出しろ」


「て、提出……?」


「上司に報告するのは当然だろう」


待って。


(“部長が原因です”って提出するの!?)


無理。

絶対に無理。


「期限は三日」


「み、三日!?」


「十分だろう」


いや、足りません。

一生かかります。


「いいか、チル」


オクト部長は、少しだけ声を落とした。


「不安の正体が分からない状態が、一番危険だ」


「……」


「見える形にしろ。そうすれば、対処できる」


その言葉は、いつもより少しだけ柔らかかった。


「以上だ。業務に戻れ」


「は、はい……」


わたしは、紙を抱えて自席に戻った。

机の上に、そっと紙を広げる。


『最近の不調』


その下に、ぐちゃぐちゃの線と、言葉。


『不安』

『動揺』

『原因不明』


そして、書けなかった“その先”を考える。


(原因かぁ……)


ペンを握った。

でも、その先が書けない。


——“部長”って、書いたら……どうなるんだろう。


ちらっと、オクト部長の方を見た。

メガネをかけて、いつも通りに仕事をしている。


部長は、通常運転なのに。

わたしは、全然、通常じゃない。


(……どうしよう)


わたしは、ロジックツリーを見つめたまま、固まった。


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