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あくまでも部長です ― 悪魔契約コーポレーション営業部 ―  作者: 白神ブナ


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35/40

第35話 浮つく気分

 朝。

起きて着替えながら、昨夜の会話を思い出した。


――回想

メイクした部長の顔が、かっこいい。

「なぁ、俺と……、あの……アレだ。えーっと、アレ、なんかアレしようぜ」



部長は、本当に……女の子を口説く引き出しが無いのかな。

以前、夜の繁華街で見かけたときは、綺麗な女の人といっしょだったのに。

あれは、取引先の人って言っていたから、営業の一環で口説くことはしないのか……


ちょっと待って。

だとしたら……、

わたしが言ったあのセリフ、


――回想

「わたしの寝室。……部長が、いつ入ってきてもいいように、鍵かけなくても……」


バカバカバカバカ……!

元々、この部屋に鍵なんか付いていない。

それなのに、部長ったら鼻血出したの?

嫌だ。

恥ずかしい。


これで嫌われてしまったら……立ち直れない。

朝、顔が合ったら何て言われるのだろう。


キィ


ドアを開けて、リビングに行く。

オクト部長は、わたしのためにトーストとコーヒーをテーブルに置いていた。


「おはよう」


「お、はよう……ございます」


気まずい空気……。


「あ、一緒に出勤するのが嫌なら、俺は先に行くが?」


「えっと、嫌じゃないです。でも、部長が急ぐんでしたら、お先にどうぞ、出勤してください」


「じゃ、悪いが、先に行く」


……一瞬、何か言いかけたように見えたが、

部長は、そのままドアを閉めて出て行った。


(嫌じゃないって言ってんだろがっ!)

そんなに急ぎの仕事があるの?

まあ、部長だからね。

わたしみたいなペーペーにはわからない仕事が、山盛りなんでしょうよ。


部長が部屋を出て、わたしひとりになった。

わたしもこれから職場に向かう。

緊張とストレスの職場。

オクト部長が、すでに座っているオフィス……

どんな顔して入って行けばいいの?



 会社に着くと、みんな忙しそうに働いていた。


ザワザワ、ザワザワ……


「おはようございます」

「○○さーん、2番に電話でーす」

「おーい、3班は会議室に移動―!」


ああ、あいかわらず忙しい部署だ。


「チル……」


後ろから声をかけられて、ドキッとした。

オクト部長の声だ。


「は、はい!」


「ちょっといいか?」


ちょっといいかって?

こんなところで、何を話すというの?


オクト部長は、部長席にわたしを連れて来て、パソコン画面を見せた。

それは、わたしが作った資料で、部長のファイルに転送したものだった。


「この資料なんだが……、何だこれは」


「え」


「俺が言ったことが、全くできていない。第一読みにくい。今日の午前中に直して、再度提出しろ」


ああ……

……昨夜、あんなに甘い言葉をささやいておいて、なんで普通に怒れるの、この人……

いや、わたしの方がおかしいのか?


「あと、経理部から……」


でも、変わらない、この景色、この怒号。

オクト……、

オクト部長。

やっぱ、素敵……(完全にドM化)


わたし、今、オクト部長に注意されているけど……。

実は、昨夜、綺麗だって言われましたー。

しかも、ガチで―。

皆には内緒で同居してますが……。

って、みんなに宣言したい気分。

ほぅ、ムフフ。

こんなに、誰かを愛おしく思うなんて、生まれて初めて。

なんだろ。

これは……


挿絵(By みてみん)


「……チル、……チル、おい、チル!」


はっ!


「じゃ、15時までにな」


「は……。え? 15時??」


「どうした。聞いていなかったのか?」


「いえ……、あの、何を、15時……」


「はぁ?」


やばっ!

聞いていなかった……。


「お前は、仕事に対する熱心さが……、おっと、……朝礼の時間だ。続きはあとで」


朝礼後、延々と説教タイムが始まったのは、言うまでもない。



昼頃、タルト先輩がオフィスに来た。


「お疲れ様でーす」


「あれ、タルト先輩、今日は遅いですね」


「遅くないよー。午前中に契約者のフォローしてから、ここに来たんだから~」


「すみません。ホワイトボード、見てなかったです」


「ふぅーん、めずらしいね、チルちゃんが僕らの行動を確認しないなんて……、午前中、何かあったの?」


わたしは、無言で頭を振った。


ブン、ブン……


「チルちゃん、……わかりやすい」


「何がですか?」


「オクト部長に注意された、って、そう顔に書いてあるよ」


「うそっ!」


わたしは、引き出しからコンパクトミラーを出して、自分の顔を見た。


挿絵(By みてみん)


「ハハハ、チルちゃん、おもしれー」


鏡で自分の顔を見た瞬間、昨夜のメイクのことを思い出した。

部長が、わたしに色付きリップを塗ってくれた。

あの、真剣で優しい瞳……


でも、今はメガネの縁をくいっとあげて、こっちを睨んでいる。


「タルトー、チル―、……仕事しろ」


……その声は、いつもと同じなのに、

わたしには、なぜか少しだけ、優しく聞こえた。


はい、はい……、

わたしは急いで資料の訂正に取り掛かった。


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