第19話 夜のギター
Yoshiel様のライブでの、あのハプニング以来……
オクト部長は、毎晩密かにギターを弾いている。
ポロン、ポロン、
「何の曲、弾いているんですか?」
「弾いていない、チューニングしているだけだ」
「ちゅうにんぐ?」
「調律だ。弦を、正しい音程に合わせることだ」
「ふーん、それって、毎日するんですか?」
「演奏はな。チューニングがずれると、きれいな音にならない」
「そうなんですね。わたしたちみたい」
「はぁ?!……たちぃ?」
「違う周波数でも、ばっちり共鳴できてるのは……
わたしたちも、音程が合っているんでしょうね」
「俺と……?」
「共鳴してますよね」
「え……」
「わたしたち三人」
「あ、ああ、三人な……」
「ん? 部長、誰かと勘違いしてましたか?」
「勘違いするものか。俺とお前とタルトだろ? あれ、そういえばタルトは?」
「さっき、帰りました」
「どこへ」
「社員寮に、必要な物をとりに……」
「そうか。……やけに静かだな」
わたしはイヤホンで、Yoshiel & The fallenの曲を聴いていた。
画面の作詞作曲の欄を確認。
やっぱり、初期の曲はオクト部長が作曲していた。
今のと全然違う。
ヒック、ヒック、ヒック……
「何の音だ、これは……チル、お前どうした? 口から変な音が……」
「はい? あ、これしゃっくりです」
ヒック、ヒック……
「びっくりしたら止まると思います」
オクト部長は、考え込んだ。
すると、バルコニーに向かって立ち、手をかざした。
「巨大な隕石でも落とすか……」
「!?」
わたしは、オクト部長を止めた。
しゃっくりも止まった。
そのあと、わたしはお風呂に入った。
湯船にのんびりと浸かると、仕事の疲れも飛んで行く。
「あぁー、いいお湯だった」
わたしがお風呂から上がると、部長はソファーで寝落ちしていた。
寝顔が無防備でかわいい……。
今週はお仕事ハードだったもんね。
お疲れ様です。
そーーーっと毛布をかけた。
その瞬間、企業戦士の力が発動。
オクト部長は、目を覚ました。
危機管理能力、はんぱない!
わたしは、心臓をバクバクさせながら謝った。
「す、すみませ……」
「……ああ、悪いな、ありがとう、毛布」
「いいえ」
「気遣いは嬉しいんだが、次からは起こしてくれるか」
「あ、そうですね。部長は、天井からぶら下がって寝るんでしたね」
「そうじゃなくて……」
「はい?」
「お、お、お前も早く寝ろ……」
「はい」
わたしが自分の部屋に戻ろうとしたとき、かすかに聞こえた。
「ちゃんと、おやすみを言いたいから……な」
部長は、ギターをケースにしまいながら、そうつぶやいた。
(……え、優しい?)
わたしの勘違いだ、きっと……
きっと、あれは企業戦士として、挨拶は欠かせないという意味なんだ。
勘違いしそうだから、やめてほしい。
ベッドに入った。
――眠れない。
何度か寝返りをうった。
ポロン、ポロン、……
オクト部長のギターだ。
へんなタイミングで起こされて、眠れないのかもしれない。
ポロン、ポロン、……
さっきまで聞こえていたはずの音が、
少しずつ遠くなっていく
それでも、ちゃんとそこにあるとわかる音
わたしは安心した。
おやすみなさい……




