第13話 兄弟
契約営業部のお昼休み。
オフィスは弁当の匂いと雑談でにぎやかだった。
その中でタルト先輩が、オクト部長の席に近づいた。
「部長……」
「あ、もう昼か。お前ら、休憩だ。タルトも社員食堂、行っていいぞ」
「はい、あの……、その前にちょっといいですか?」
タルト先輩はスマホを見せて、指さしている。
「このショート動画、再生数、凄いんですけど……」
わたしも部長の席まで行って、動画を見てみた。
【魅惑のロックバンド
Yoshiel & The Fallen
アリーナツアー開催!】
観客の歓声。
「キャーーーーー!」
派手なビジュアル系ロックバンドだ。
ステージで、ボーカルが長い髪を振り乱して、歌う。
会場が熱狂の渦に包まれ、テロップが流れた。
【今宵のミサ
堕天使たちが
君の町に降臨する】
わたしは、そのカッコよさに目を奪われた。
「カッコイイですね! この人たち何なんですか?」
「え? チルちゃん、知らないの? ロックバンドYoshiel & The Fallen」
「え? 先輩と部長、知っているんですか?」
タルト先輩は困った顔で、部長を見た。
「……部長」
オクト部長は……
「知っている」
「部長も、ロックなんて聴くんですか? へぇー、意外です」
「この人たち、ではない。悪魔だ。俺の兄だ」
「ええええええ!?」
「チルちゃん、あまり大きな声で驚かないで~」
「え、やばいんですか? 極秘事項とか?」
「みんな、知っているけど、あえて言わないようにしてるんだよ」
「どうして?」
「まあ、いろいろと……ね、部長」
「で? 俺に見せたいのは、そのショート動画か? タルト」
「実は……、お兄さん、他にSNSもやっていて、僕がコメントを書き込んだら……DMが届いて……」
「!!」
すごい。
タルト先輩、ロックスターのお兄さんと繋がっちゃったんだ。
「見ていただいて、いいですか?」
「お前に来たDM、俺が見てもしょうがないだろ」
「でも、部長の部下だってわかっちゃったみたいで……」
「……見せろ」
―『はじめまして~ !(^^)!
突然DMしちゃって、ごめんね
いつもコメントしてくれるタルトくん
君の投稿を、楽しくみてるよ~~~
ところで、今、君の豚汁の投稿写真
ちょっぴり写っている人、もしかして君の上司?
名前、オクトっていうんじゃない?
わたしの知り合いに似てて……
よかったら、おしえてね
プークスクス( ´艸`)』
部長は、途端に不機嫌になった。
「は、はてしなくウザい!!」
タルト先輩は、即座に謝罪した。
「部長、写真に写っていたみたいで、ごめんなさい。どうしたら……」
「タルト、俺が返信してもいいかな」
「はい、もちろん」
部長は、スマホに返信を入力した。
なる早で。
タッ、タッ、タッ、タッ、……
「よし、送信」
『久しいな、シラス兄さん
ごめん、ごめん、芸名はYoshielだっけ
あいかわらず、ふざけた文章だな
自分勝手で、マジむかつく
堕天使の魔笛かよ!』
「あ、もう返信きました」
―『やっぱ、オクトじゃ~ん
意味わかんない事言って (>_<)
落ち着いて よしよしヾ(・ω・`)』
「また、スマホ借りていいか」
「はい」
『シラス兄さんは、怒りの賛美歌でも歌ってろ
今さら何の用だ』
―『くっ、時を刻む 懺悔室の花弁かよ』
『意味不明 俺だとわかったところで、何が目的だ』
すぐに返信が来た。
―『迷える子羊を見つけちゃった
オクトもヤングな部下とクッキング?
マジ、イケイケの部長じゃーん
この、この、この
共鳴の言霊だよ』
『わかる言葉で話せ』
オクト部長とYoshielのやりとりは、しばらく続いた。
*コンプライアンス部 監査チーム
ゼットセダイがニュース動画を見て、ノリマキにも教えた。
「やばくないですか?」
「ああ、かなりね」
ノリマキは、おむすびを口に運んだ。
「契約を結ばずに、人間を堕とす悪魔。Yoshielねぇ」
コンプライアンス部のパソコン画面に、ロックバンドのライブ動画が流れている。
「人間ども」
歓声、キャーッ!
「今夜も堕ちる準備はできてるか?」
観客たちは拳を上げる
「うおおおおお!」
「ノリマキさん、このボーカルって規約違反すれすれですよね」
「それは……放っておきなさい」
「オクトと兄弟なのに?」
「だからこそだよ」
「兄弟って、面倒くさいっすね」
「君は一人っ子でしょう」
「精神的には末っ子です」
「わかるよ」
その瞬間、オフィスの警報が鳴った。
『コンプライアンス部、未処理契約、二百三十四件』
「あ、帰ります」
「どこへ」
「ノリマキさん、口に海苔、付いてますよ」
――暗転




