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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章26節

毎日17:30投稿

ダンジョンの中層。

かつて市街地だった名残を残すコンクリートの壁は、蔦と根に覆われ、湿った空気が肺にまとわりつく。


男は一度、深く息を吸った。


――大丈夫だ。

――今度は、ちゃんと“できる”。


刺剣を握る手に、迷いはない。

むしろ、以前よりも静かだった。


彼は胸元のデバイスを起動する。

小型の撮影用ドローンが、無音で浮上し、少し後方から彼を捉える位置に収まった。


「……記録開始」


そう呟いた声は、妙に落ち着いている。


彼は走り出す。

前方で、複数のパーティが足止めされているのが見えた。


巨大な植物型モンスター。

触手のように伸びる蔓が、逃げ場を塞ぎ、じわじわと冒険者たちを追い詰めている。


「下がって!」


男の声が、湿った空間に響いた。


振り返った冒険者たちが、驚きに目を見開く。

だが、次の瞬間――その疑念は吹き飛ぶ。


男の身体が、一気に距離を詰める。

刺剣が、光を引いた。


一突き。

蔓の付け根を、正確に貫く。


モンスターが悲鳴を上げる。

動きが止まった、その一瞬を逃さず、男は連撃を叩き込む。


無駄がない。

派手すぎず、しかし確実。


「すげぇ……」


誰かの声が漏れる。


男は振り返らない。

だが、その言葉が聞こえなかったはずがない。


最後の一撃。

核を貫かれたモンスターが、崩れ落ちる。


静寂。


「……助かりました!」


「ありがとう!」


冒険者たちが口々に礼を言う。

男は軽く手を振り、ドローンに向けて視線を投げた。


「無事で何よりです。ダンジョンは、ちゃんと準備すれば怖くない」


あくまで、穏やかな口調。

模範的な冒険者。

理想的な“先行者”。


その映像は、編集されることなく、そのままアップロードされた。


数時間後。


ダンジョン外。

休憩所やギルドのロビーで、同じ映像が再生されている。


「この人、またか」


「最近よく見るな……」


「動き、きれいだよな」


賞賛の声。

羨望の視線。


だが、それと同時に、別の感情も確実に芽生えていた。


「……なんで、あいつだけ」


「俺だって、同じ装備だったら……」


「タイミングが良かっただけだろ」


誰かがそう言った瞬間、別の誰かが鼻で笑う。


「それを掴めるのが、才能ってやつだろ」


その言葉が、胸に刺さる。


映像は、沖縄の外にも広がっていく。

拡散され、翻訳され、切り抜かれる。


“無名の英雄”

“ダンジョン攻略の最適解”

“次世代のエース”


そんな見出しが、踊り始める。


男はそれを見ながら、静かに笑った。


胸の奥が、熱い。

満たされる。

そして、同時に――足りない。


――もっと。

――次は、もっと大きな相手だ。

――もっと、多くの目が必要だ。


刺剣が、わずかに震えた。


それを、男は“高揚”だと信じた。




夜。

セーフハウスの一室。


照明は落とされ、壁に投影された映像だけが部屋を淡く照らしていた。

例の動画――ダンジョン内で活躍する、刺剣の所有者。


ツダは椅子に深く腰掛け、指先でモノクルを押さえたまま、無言で再生を繰り返していた。


「……」


何度目かもわからない。

ヤヒロたちは背後に控え、口を挟まずにいる。


最初に感じたのは、完成度の高さだった。


動きに無駄がない。

距離感が正確。

判断が早く、迷いがない。


“そこそこ腕が立つ”――その評価は、映像を見れば納得できる。


だが。


「……おかしいな」


ツダが、ぽつりと呟いた。


再生を止め、少し巻き戻す。

モンスターの動きが止まり、男が連撃に入る直前。


「ここ」


指先が、画面の一点を示す。


「踏み込みが、半拍遅れてる」


ヤヒロが眉をひそめた。


「遅れてますか?でも、結果的には――」


「結果だけ見れば、完璧だ」

「だが、あの場で最適解を選ぶ人間なら、迷わない位置取りだ」


ツダは、映像をコマ送りにする。


「この瞬間を見ろ」

「彼は一度、モンスターじゃなくドローンを見てる」


空気が、わずかに張りつめた。


「……自分が、どう映るかを確認してる」


それは致命的な隙ではない。

戦闘に支障もない。

だが――


「戦闘中にやることじゃない」


ツダは淡々と続ける。


「本当に危険な相手とやり合ってる時、人間は他人の視線を忘れる」

「生き残るために、余計な情報を切り捨てるからだ」


モノクル越しに、映像の男を見据える。


「彼は違う。視線を、捨てていない」


ユイが、小さく息を呑んだ。


「それって……」


「承認欲求を、戦闘判断の中に組み込んでる」


ツダはそう断じた。


再生が進む。

モンスター撃破後、冒険者たちに礼を言われる場面。


男は振り返らず、軽く手を振る。

視線は、やはりドローンへ。


「この仕草もだ」


ツダは、口元だけで笑った。


「無意識じゃない。見せるための動きを、計算してる」


ヤチヨが、舌打ちする。


「……つまり?」


「もう、自分の戦いじゃない」


ツダは静かに言った。


「観客を前提にした戦闘だ」

「そして、それを可能にしているのが――」


モノクルが、鈍く光る。


「刺剣だ」


一瞬、沈黙。


「彼は、抑えてるつもりでいる」

「だが実際には、欲求の“使い方”を覚えただけだ」


ツダは椅子から立ち上がり、映像を停止した。


「次は、もっと派手になる。もっと危険な相手を選ぶ」


視線が、ヤヒロに向く。


「そして――」


一拍。


「俺たちが、止めに行くしかなくなる場所でやる」


部屋の空気が、重く沈んだ。


ツダは、最後に小さく付け加える。


「……厄介なのはな」


モノクルを外し、目を細める。


「彼が、まだ本当に悪人じゃないことだ」


それは、警告だった。

そして同時に、破綻の予告でもあった



いつもありがとうございます。


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