3章24節
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刃が、振り下ろされた。
一瞬。
本当に、ほんの一瞬。
その“わずかな時間”に、
三人は、それぞれ動いていた。
「――先輩!!」
ヤヒロは、盾を踏み出す。
身体が、思考を追い越す。
(間に合え!)
(間に合え!!)
(間に合え!!!)
盾を、
横に――叩き込むつもりだった。
致命を、逸らすために。
殺させないために。
だが。
一歩、足りない。
盾が届く前に、
剣は――
「……っ!」
ツダも、遅れて踏み込んでいた。
モノクル越しに、見えてしまった。
最悪の未来が、一つに収束する瞬間を。
「やめろ!」
ユイの矢が、
放たれる。
「――ッ!」
ためらいは、ない。
仲間に向ける矢。
それでも、撃った。
(……止まって)
(……お願いだから――)
風を裂いて、矢は飛ぶ。
だが。
そのすべてより、速い。
ヤチヨの剣が、
所有者の身体を
斜めに断ち割った。
音。
鈍い、肉を裂く音。
所有者の口が、開く。
「……あ」
声にも、ならない。
刺剣が、手から零れ落ちる。
同時に。
身体が、光に包まれた。
「あ――」
ヤヒロは、理解した。
(……だめだ)
(間に合わなかった)
所有者の身体は、霧のようにほどけていく。
ダンジョン内から、
“排除”される現象。
――死に戻り。
確定。
刺剣だけが、地面に残る。
一瞬、勝ったように見える光景。
だが。
ヤチヨは、
剣を止めていない。
「……チッ」
舌打ち。
苛立ち。
「逃げたか」
その声音には、
悔恨も、恐怖も、ない。
ただ、
「仕留めきれなかった」
という感覚だけ。
「先輩……」
ヤヒロの声が、掠れる。
盾が、下がる。
力が、抜けた。
「……何してる」
ヤチヨは、振り返った。
その目は、冴えきっている。
戦場の色。
「問題、あった?」
その問いに。
ヤヒロは、答えられなかった。
頭の中に、浮かぶのは――
“これから”。
ダンジョン外。
数分後か、
数時間後か。
刺剣の所有者が、目を覚ます。
もっと強い欲を抱いて。
もっと派手な事件を起こすために。
それを、止められなかった自分。
「……俺が」
ヤヒロは、拳を握る。
「俺が、弱かった」
盾を、見下ろす。
守るための盾。
だが、守れなかった。
「……違うわよ」
ヤチヨが、肩をすくめる。
「足りなかったのは――力でしょ」
「躊躇した」
「迷った」
「だから、 遅れた」
一歩、近づく。
「私は、迷わなかった」
その言葉が、刃のように刺さる。
ツダが、二人の間に立った。
「……やめろ、ヤチヨ」
声は、低い。
抑えられているが、怒りがある。
「これは“失敗”だ」
「力を誇るな」
ヤチヨは、鼻で笑った。
「誇るな?」
「じゃあ聞くけど」
「誰か、助かった?」
沈黙。
ユイが、弓を下ろす。
指先が、
微かに震えている。
「……私は」
小さく、言った。
「……撃った」
「……止めるつもりで」
「……でも……届かなかった」
視線を、ヤヒロに向ける。
「……ヤヒロが、守ろうとしたのも、知ってる」
「……ツダが、止めようとしたのも、見えた」
「……それでも」
言葉が、
途切れる。
「……全部、足りなかった」
その言葉は、責めではない。
事実だった。
ヤチヨは、剣を肩に担ぎ直す。
「次は」
「もっと速くやる」
「逃がさない」
「全部、終わらせる」
その背中は、強い。
だが。
ヤヒロには、はっきりと見えていた。
――それは、“力に溺れた背中”だ。
そして同時に。
自分自身の、情けないほど足りない背中も。
(……俺は)
(何を、守るために強くなるんだ)
刺剣は、静かに脈打っている。
そして光となって消えた。
所有者のもとへ。
次の惨劇を、
約束するように。
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