3章19節
毎日17:30投稿
紙の束を、机の上に並べる。
新聞。
ギルド内掲示。
ダンジョン速報のログ。
どれも、
同じ話題を含んでいた。
「……刺剣使い、ね」
声に出してみると、
少しだけ笑いが混じった。
(早いな)
今の所有者はまだ、
表沙汰にはなっていない。
事件は起きている。
だが死者はいない。
あれ以来、強盗も発生していない。
――にもかかわらず。
(もう、“名前のない噂”が生まれている)
モノクルをかける。
文字列の裏に、
微かな歪みが見える。
《観測補正:低》
《異常係数:上昇傾向》
(……やっぱり)
噂というのは、
事実よりも先に走る。
そして――
嫉妬に紐づいた噂は、特に速い。
(所有者は、まだ理性を保ってる)
(だが、武器は違う)
机に肘をつき、顎に手を当てる。
正直に言えば。
(楽しい)
こういう局面は、久しぶりだった。
誰も正解を知らない。
公式の資料もない。
前例もない。
あるのは、
現象と結果だけ。
(嫉妬の刺剣)
(……やっぱり、面白い)
胸の奥が、じくりと疼く。
それは、研究者としての興奮だ。
だが――
(いや)
(これは、そっち寄りだな)
自覚して、小さく息を吐いた。
モノクル越しに、記事を読み返す。
「単独で中型魔獣を撃破」
「周囲の冒険者を圧倒する動き」
「妬ましいほどの腕前」
(“妬ましい”)
その単語が、不自然に強調されて見える。
《感情残滓:拡散》
《共鳴反応:微弱》
(……もう、始まってる)
まだ、所有者は踏みとどまっている。
だが、噂が先に武器を振るっている。
(次は、何をする)
(“もっと見せる”か)
(それとも――“もっと欲しがらせる”か)
椅子の背にもたれ、天井を見上げる。
(いずれにせよ)
(ダンジョン内だ)
(外に出たら、止められなくなる)
――ふと。
ヤヒロの顔が、脳裏をよぎった。
盾を構える姿。
誰かを守るために、
一歩前に出る背中。
(……捕まえる役が必要だな)
殺さず。
壊さず。
奪う。
(難易度は、高い)
そして――
その難易度を前にしたとき。
(俺は、どう感じる)
胸の奥が、再び小さく熱を帯びる。
(……まずいな)
(考えるのが、楽しくなってる)
モノクルを外し、目を閉じる。
(これは、嫉妬の影響か)
(それとも、元からの俺か)
答えは、出ない。
だが、
一つだけ確かなことがある。
――この刺剣の所有者は。
もう一歩、踏み込む。
それを止めるのか。
利用するのか。
観測するのか。
(選ぶのは、俺たちだ)
ツダは立ち上がり、
端末を手に取った。
「……動くか」
声は、静かだった。
だがその目は――
わずかに、
楽しげだった。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。




