3章18節
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ダンジョンの空気は、今日も湿って重い。
ジャングルに呑み込まれたコンクリートの残骸。
折れた信号機。
蔦に覆われた看板。
「……いい」
思わず、
口元が緩んだ。
(今日も、ちゃんと見られる)
背中に感じる視線。
それは敵意ではない。
――冒険者たちの視線だ。
距離を保ちながら、何人かが後ろを歩いている。
(付いてきてるな)
悪い気はしなかった。
これまでも、何度かあった。
自分が前に出ると、後ろに人が集まる。
それは、自然な流れだと思っていた。
(俺が、一番うまくやれる)
そう考えるのは、驕りではない。
事実、ここまで生き残ってきた。
――刺剣が、腰で小さく震える。
《……》
言葉はない。
だが、分かる。
(もっと、やれ)
「分かってる」
小さく、呟いた。
(だが、やりすぎない)
それが、自分なりの制御だった。
前方。
地面が、不自然に盛り上がる。
「来るぞ」
声を張る。
その瞬間、
土砂を押し上げて現れたのは――
装甲の厚い中型魔獣。
周囲が、ざわつく。
(……いい)
剣を抜く。
細く、しなやかな刃。
光を反射して、異様な存在感を放つ。
「下がってろ」
後ろにいる冒険者たちに、言い放つ。
一歩、前に出る。
(見てろ)
地を蹴る。
速い。
自分でも、驚くほどに。
一閃。
魔獣の関節を、正確に貫く。
「――ギィッ!?」
悲鳴。
追撃。
急所ではない。
だが、確実に動きを奪う。
「すげぇ……」
「何だ、あの動き……」
背後から、声が漏れる。
(……そうだ)
胸の奥が、じんわりと熱を持つ。
(これだ)
魔獣が、暴れる。
だが、追いつけない。
最後は――
喉元を浅く裂き、出血で沈める。
倒れる巨体。
静寂。
そして、
一拍遅れて。
「……おお」
「今の見たか?」
「一人で、あれを……?」
視線が、集まる。
羨望。
驚嘆。
尊敬。
そのすべてが、肌に刺さるように伝わってくる。
(悪くない)
刺剣が、再び震えた。
《……》
(分かってる)
(次は、もっとだ)
少し先。
別の冒険者パーティが、
魔物と交戦している。
手間取っている様子。
(……助けるか)
いや。
違う。
(“見せる”)
そう考えた瞬間、胸が高鳴った。
「――手を出すぞ」
後ろに、声を投げる。
返事はない。
だが、誰も止めない。
突入。
横合いから、一気に魔物を切り裂く。
「え、誰だ!?」
混乱。
だが、構わない。
次々と、動きを止める。
速く。
派手に。
(俺がやった)
(俺が、終わらせた)
戦闘が終わる。
パーティの一人が、呆然と呟く。
「……あんた、名前は?」
一瞬、言葉に詰まる。
(名前?)
今までは、答えなかった。
だが――
刺剣が、強く震えた。
《……》
(ああ)
(そうか)
「……名乗るほどじゃない」
そう言いながら、胸の奥で思う。
(でも、覚えておけ)
(次は、もっと大きな舞台で)
その夜。
ダンジョン内の休憩エリアで、
噂が広がる。
「今日、すごい刺剣使いがいたらしい」
「一人で中型倒したって」
「派手だったぞ」
「……正直、妬ましい」
その言葉が、
波紋のように広がっていく。
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