3章17節
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噂を確かめるため、ヤヒロたちはダンジョンに潜ることにした。
ツダはダンジョン外での操作に忙しく、珍しく三人での潜入許可が出た。
二日ぶりに沖縄ダンジョン中層に足を踏み入れる。
ここは、冒険者たちの間で俗に崩壊市街区画と呼ばれているエリアだ。
湿った空気の奥で、
蔦に覆われたコンクリートが軋む音がした。
本来なら、この区画は静かだ。
中層の中でも比較的安定しており、
巨大ワームがいないこの場所は、
他の大型モンスターの出現頻度も落ち着いている。
――にもかかわらず。
「人、多くない?」
ユイが、前方の交差点を見て呟いた。
ヤヒロも気づいていた。
瓦礫の影。
崩れたビルの上。
距離を保ちながら進む、複数の探索者。
明らかに、同じ方向を意識している。
「……追っかけね」
ヤチヨが、短く言った。
「はい」
ユイも頷く。
「目的が一致してます」
ヤヒロは、盾を構えながら周囲を見る。
「噂の人、ですよね」
「十中八九」
ヤチヨは、口の端を歪めた。
「目立つ奴の周りには、必ず人が群がる」
それは、羨望か、好奇心か。
三人は、一定の距離を保ったまま進んだ。
少し先・広場跡
開けた場所に出た瞬間――
熱を帯びた空気が、肌を叩いた。
「……来るわよ」
ヤチヨの声と同時に、地面が爆ぜる。
現れたのは、
瓦礫を纏った中型の獣型モンスター。
本来なら、複数人で当たる相手だ。
だが――
「はあっ!」
鋭い踏み込み。
赤黒い影が、獣の懐に一気に潜り込んだ。
次の瞬間。
刺突。
一撃。
二撃。
獣が悲鳴を上げる前に、
心臓部を正確に貫かれていた。
「……速っ」
ヤヒロが、思わず息を漏らす。
「上手いわね」
ヤチヨも、素直に認めた。
噂の人物は刺剣を使い、
モンスターが崩れ落ちるのを待たず、
軽く剣を払う。
その所作が――
やけに、様になっていた。
「……」
ユイは、その一連の動きを見て、眉を寄せる。
(見せてる)
必要以上に、無駄がない。
だが同時に、無駄がある。
視線を意識した間合い。
背後に人がいることを前提とした立ち位置。
「……演技」
ユイが、
小さく呟いた。
ヤヒロは、
その言葉の意味を噛みしめる。
(見られる前提で、戦ってる)
周囲から、
小さなどよめきが起きた。
「今の見たか?」
「一人で、あれを……」
「やっぱ本物だな」
「……すげぇ」
称賛。
だが――
混じる、別の声。
「調子に乗ってない?」
「映像で見るより、なんか……」
「鼻につく」
空気が、ゆっくりと歪んでいく。
刺剣の使い手は、
それを聞いていない――
はずがない距離にいた。
それでも彼は、
わずかに口角を上げただけだった。
(……気づいてる)
ヤヒロは、
胸の奥がざわつくのを感じた。
(気づいた上で、やってる)
少し離れた高所
ヤヒロたちは、直接姿を見せない位置に移動する。
「……危ういわね」
ヤチヨが、低く言う。
「はい」
ユイは、視線を落とす。
「……“見てほしい”が、“見られないと不安”に変わる直前」
「変わると、どうなる?」
ヤヒロが尋ねる。
ユイは、一拍置いて答えた。
「……より派手に、より危険に、より注目される行動を取る」
ヤチヨが、
鼻で笑った。
「つまり――自分から、地雷原に踏み込む」
その瞬間。
遠くで、別の爆発音がした。
「……連戦?」
ヤヒロが、息を呑む。
刺剣の使い手は、
次の戦闘に入っていた。
しかも、より危険な個体。
「……無理するわね」
ヤチヨの声に、苛立ちが混じる。
「本人は、無理してるつもり、ないんでしょう」
ユイが、静かに続ける。
「“期待に応えているだけ”と、思い込んでいる」
ヤヒロは、盾を強く握った。
(……俺だったら)
ふと、考えてしまう。
もし、自分が称賛される立場で。
もし、守る盾ではなく、倒す力を求められていたら。
(……同じことを、していたかもしれない)
「ヤヒロ」
ヤチヨが、横目で見る。
「情を移すには、まだ早いわよ」
「……はい」
わかっている。
だが――
このまま放っておけば。
刺剣の使い手は、
さらに踏み込み、
さらに目立ち、
さらに――追い詰められる。
その先にあるのは。
「……事件」
ユイの言葉が、静かに落ちた。
誰も、否定しなかった。
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