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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章16節

毎日17:30投稿

別の探索者たちが、物陰から戦闘を見ていた。


「……なに、あれ」


「一人で、あの数を?」


「しかも、刺剣?」


ざわつく声。


珍しい武器種。

しかも、動きが洗練されすぎている。


「ギルドの上位か?」


「聞いたことないぞ、あんなやつ」


「……見たか?最後、逃がした後の動き」


「ああ。余裕ぶってた」


その言葉に、

誰かが小さく舌打ちした。


「……調子乗ってるな」


別の探索者が、鼻で笑う。


「たまたまだろ」


「いや、あれはできる側の動きだ」


「だからって、一人で目立ちすぎだろ」


視線が、自然と男の背中に集まる。


(あいつ)


(評価されるべき、か?)


冒険者らの胸の奥に、

ちり、と小さな火が灯る。


数時間後、ダンジョン外にて

中層から戻った探索者たちが、

簡易休憩所で情報を交換していた。


「聞いたか?」


「ああ、刺剣のやつだろ」


「今日だけで、中層を単独で三回戦い抜けたらしい」


「三回!?」


「しかも、大した被害なし」


「……なにそれ」


誰かが、不機嫌そうにカップを置く。


「そんなの、ギルドに推されてるだけだろ」


「武器が強いんじゃねぇの?」


「どうせ、運よくエピックなりを引いただけだ」


言葉は、どれも軽い。


だが、

その裏に滲む感情は、

はっきりしていた。


――妬ましい。


「でもさ」


別の声が割って入る。


「今日の記録、掲示板に出てたぞ」


「……は?」


「映像が、出回ってる」


一瞬、場が静まる。


(映像)


(見られてる)


誰もが、無言で端末を確認する。


そこに映るのは――

瓦礫の街で、

刺剣を操る男の姿。


洗練された動き。

迷いのない判断。


そして、どこか余裕のある立ち姿。


「……」


誰かが、小さく呟いた。


「……ムカつくな」


その一言をきっかけに、空気が変わる。


「調子に乗ってる」


「目立ちたがりだ」


「いつか、足元すくわれる」


噂は、

正確さを失いながら、

速度だけを増していく。


やがて、こんな言葉に変わる。


――“見せびらかしてる刺剣使いがいる”


――“あいつ、自分だけ特別だと思ってる”


――“羨ましいよな?”


その頃、男はまだ知らない。


自分が求めた「評価」が、

すでに――

羨望から、嫉妬へと質を変え始めていることを。




夕方。

湿った風が吹き抜けるテラスで、

ヤヒロたちは簡単な補給を済ませていた。


「……暑い」


ヤヒロが水筒を煽りながら、素直に呟く。


「沖縄なんだから、当たり前でしょ」


ユイは苦笑しつつ、弓の弦を軽く調整している。


ヤチヨは、手すりに肘をつき、下の通りを見下ろしていた。


「それにしても……今日はやけに、人が多いわね」


「ダンジョン帰りの探索者も多いみたいです」


ユイが視線を動かす。


確かに、建物の出入りはいつもより頻繁だった。


その中で――

背後のテーブルから、耳に残る会話が聞こえてくる。


「聞いたか?」


「また、例のやつだろ」


ヤヒロの肩が、わずかに動いた。


(例の?)


「今日もまた中層を三回抜けたって話だ」


「単独で?」


「らしいな」


ヤチヨが、さりげなく振り返る。


「……ほう」


ユイも、会話に耳を澄ませた。


「映像、見た?」


「見た見た。あれは……正直、うまい」


「でもさ、なんか鼻につかね?」


「わかる」


「一人で目立ちすぎなんだよ」


言葉は軽いが、声の奥に、妙な温度があった。


ヤヒロは、無意識に拳を握る。


「……」


ヤチヨが、低く呟いた。


「称賛じゃないわね。あれ」


「……はい」


ユイも頷く。


「……評価より、感情が先立ってる」


「羨ましい、ってやつか」


ヤチヨは、鼻で小さく笑った。


「それが一番厄介なのよ」


ヤヒロは、少し考えてから口を開く。


「……強い人が目立つのは、普通じゃないですか?」


「普通ね」


ヤチヨは、ちらりとヤヒロを見る。


「でも、人に見られたいって匂いがすると、一気に叩かれる」


ユイが、静かに言葉を足す。


「……特に……今の沖縄は」


その言葉に、三人の間に沈黙が落ちる。


市民団体。

基地。

治安悪化。


積み重なった緊張の中で、

誰かが目立つ――

それは、標的になる。


「刺剣使い、なのか……?」


ヤヒロは、ふと、自分の盾を見る。


使い捨てる盾。


(俺も、見られてる側なんだよな)


そう思った瞬間――

背中に、薄い寒気が走った。


「ヤヒロ」


ヤチヨが、

少しだけ真剣な声で言う。


「もし、そいつとダンジョンで会ったら」


「……はい」


「まず、不用意に関わらないこと」


ユイも、静かに頷いた。


「噂の渦中にいる人は、本人が思っている以上に、追い詰められているものよ」


「追い詰められてる……?」


ヤヒロが聞き返す。


ユイは、少し言い淀んでから代わりに答えた。


「……“期待される自分”を、演じ続けないといけないから」


ヤヒロは、その言葉を噛みしめる。


――演じ続ける。


誰かの視線を、欲し続ける。


(……それって)


一瞬、ツダの顔が脳裏をよぎった。


そのとき――

施設の端末が、小さく音を立てる。


掲示板に、新しい情報が流れた。


【中層・市街区画 単独攻略者の映像、拡散中】


ヤチヨが、画面を一瞥する。


「……もう、広がってるわね」


ユイは、静かに息を吐いた。


「これ、放っておくと――」


言葉の続きを、誰も口にしなかった。


だが、三人とも理解していた。


この噂は、いずれ――自分たちが追っている事件に繋がるかもしれない、と。


ヤヒロは、盾を背負い直し、小さく呟いた。


「……今はまだ、何も起きてない、ですよね」


ヤチヨは、視線を逸らさずに答える。


「ええ」


「でも」


その声は、

どこか重い。


「“何も起きてない”のが、一番怖い時よ」


いつもありがとうございます。


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