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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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3章11節

毎日17:30投稿

セーフハウスの扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


外の湿った空気と喧騒が遮断され、代わりに室内には機械油と金属の匂いが満ちる。

沖縄の夜はまだ続いているが、ここは切り離された安全圏だった。


ヤヒロは、無言で盾を床に下ろした。


使い捨てる盾。

表面には、巨大ワームの体液と、無数の巨大ゴキブリの死骸が残した汚れが乾ききらずにこびりついている。

だが、盾そのものは傷一つない。


セーフハウスの奥、簡易作業台の上に、ヤヒロは回収袋の中身を並べていった。


一目で分かる。どれもレア装備だ。


粗悪品ではない。

作りも、素材も、間違いなく上等だ。


それが余計に、重かった。


・巨大ワームの外殻を削り出した 重装バックラー

 ――防御力は高いが、重量過多で取り回しが最悪。


・節足を複層加工した 耐圧アームガード

 ――局所防御特化すぎて、全身装備と噛み合わない。


・地下棲用に調整された 踏破補助ブーツ

 ――土砂や砂地では強いが、市街地型ダンジョンでは死ぬ。


・甲殻を研磨した 耐衝の胸当て

 ――堅牢だが、可動域を著しく削る。


・毒性器官を内包した 刺突短剣

 ――幻痛毒が微量だが、発動率が低すぎる。


「全部、レアではあるのよね」


ヤチヨが腕を組み、少しだけ困ったように言った。


「でも、強いかって聞かれると、首をひねる」


「……うん」


ユイは弓を分解清掃しながら、短く同意する。


「売れば金になりますが。使うには、癖が強すぎる」


ヤヒロは黙って盾を立てた。


使い捨てる盾。


表面は、もう何層もの『他の装備』を飲み込んできたせいか、

鈍く、腹を空かせたような気配を放っている。


最初に手に取ったのは、重装バックラーだった。


盾に触れさせる。


一瞬、拒否がない。


盾が、まるで舌を伸ばすように、静かにそれを飲み込んだ。


「やっぱり」


ヤチヨが小さく息を吐く。


「コモンには、もう見向きもしないのね」


次は、耐圧アームガード。

その次に、胸当て。


どれも、吸収されるまでにほんの一瞬だけ『ためらい』がある。

まるで、盾が値踏みしているかのようだ。


ブーツ。

短剣。


最後の一つが消えたとき、ヤヒロは盾を持ち上げた。


ずしり。


だが、前よりも芯が通った重さだった。


「強化、完了」


数値が見えるわけではない。

特性が増えたわけでもない。


だが――


「防御力は、確実に上がってる」


「ええ」


ヤチヨは頷く。


「派手さはないけど、変な鈍さが消えてるわ」


ユイも顔を上げる。


「……盾、落ち着いてる」


ヤヒロは、その言葉に少しだけ驚いた。


「分かる?」


「……分かる」


ユイは当たり前のように言った。


「……守りの安定は、後ろの安定」


ヤヒロは嬉しくなった。

それと同時に、他の二人が現状をどう感じているのかが気になった。


「沖縄、どう思う?」


一拍置いて、ユイは顔を上げずに言った。


「……面倒」


短い即答。


「……でも、分かりやすい」


ヤヒロは、盾の縁を指でなぞりながら続けた。


「倒したら終わりじゃない。倒した後が本番」


ワームの死体。

それを食って湧いたゴキブリ。

勝利が、次の戦闘を呼ぶ。


「……富士より、ずっと正直」


「それ、私も思ったわ」


ヤチヨが頷く。


「富士は選別。沖縄は消耗戦」


一瞬、沈黙が落ちる。


「でも」


ヤヒロは盾を立てる。


「守る側には、向いてる」

「レアは出る」

「だけど、正解の装備はほとんど出ない」

「だから――」


ヤヒロは盾を立て、深く息を吸った。


「食わせる価値がある」


ユイの手が止まった。


「……それ、危ない考え方」


「分かってる」


即答だった。


「でも、盾はもう、そこを選び始めてる」


一瞬、静寂。


ツダはまだ戻らない。

外では、またどこかで事件が起きているのだろう。


「ツダが聞いたら、眉しかめそうね」


ヤチヨが苦笑する。


ユイが、呟くようにヤヒロに伝える。


「……前より、盾、使えてた」


「全部受けないようにした」


「……うん」


それだけで、十分だった。


ヤチヨは立ち上がり、軽く背伸びをする。


「ツダが戻ってきたら、嫌な報告ばっかでしょうね」


「たぶん、そうですね」


「でもまあ――」


ヤチヨは盾を一瞥し、口元をわずかに緩めた。


「価値のない装備を食わせて、価値のある守りに変える」

「暴食らしいわね」


ヤヒロは苦笑した。


外では、沖縄の夜が静かに続いている。

そしてツダは今も、どこかで次の事件の痕跡を拾っている。


この静けさが、嵐の前であることを示すように。



いつもありがとうございます。


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本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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