3章10節
毎日17:30投稿
地面を覆い尽くすように、
それは湧いてきた。
甲殻。
黒光りする背中。
節足が土を掻き、濡れた音を立てる。
巨大ワームの死骸に群がり、
肉を裂き、内臓を引きずり出し、
それを食い散らかしながら――増える。
「…………っ」
ヤチヨが、思わず息を詰めた。
「やだ……なに、あれ……」
普段なら真っ先に斬り込む彼女が、
剣を構えたまま、半歩だけ後ろに下がる。
「……ゴキブリ。しかも、でかすぎ……」
ユイも、顔を引きつらせていた。
弓を握る手は震えていないが、
視線だけが、明らかに拒絶している。
「……気持ち悪……っ」
それでも、彼女は目を逸らさない。
「……でも……放っておけない」
ツダは、短く言った。
「死体を媒介にした分裂型だ」
「あのままにしておけば、数は倍になる」
ヤヒロは、何も言わず前へ出る。
盾を地面に叩きつけ、
低く、構える。
「俺が――全部引き受ける」
その言葉に、
ユイとヤチヨの視線が、一瞬だけヤヒロに向いた。
次の瞬間、
巨大ゴキブリの群れが、一斉に動いた。
羽音。
擦れる甲殻。
足音が、雨のように迫る。
最前列の個体が跳んだ瞬間、
ヤヒロの盾が面で受ける。
ガン、という鈍い衝撃。
だが、受け止めない。
盾をわずかに傾け、
逸らす。
甲殻が滑り、
ゴキブリの巨体が横倒しになる。
「今!」
ユイの矢が、
倒れた個体の腹部を正確に貫いた。
黒い体液が飛び散る。
「……うっ」
ユイの喉が、ひくりと鳴る。
それでも、次の矢を番える。
「……大丈夫……当てる……!」
ヤチヨも、歯を食いしばった。
「はぁ……ほんっと最悪……!」
叫びながら、踏み込む。
剣は、無駄なく、正確に。
甲殻の継ぎ目。
節足の付け根。
頭部の下。
嫌悪感はある。
だが、斬る手は迷わない。
「見た目に惑わされんな!」
ツダの声が飛ぶ。
「構造は単純だ、数だけだ!」
ゴキブリたちが、
一斉にヤヒロへと殺到する。
ヤヒロは、盾を前に出し、
挑発のスキルを発動させる。
視線が、殺意が、全てヤヒロに集中する。
盾に、衝撃が重なる。
ガン。
ガン。
ガン。
だが、崩れない。
衝撃反転が、
甲殻を砕き、体勢を崩し、
次々と前列をなぎ倒す。
「……ヤヒロ……」
ユイが、息を整えながら呟く。
「……あなたが前にいる……見なくていい……」
視界の大半を、
盾と背中が塞いでくれる。
だから、撃てる。
「――まとめていくわよ!」
ヤチヨが叫び、
ゴキブリの群れを横から切り裂く。
「近づくな!……来るなって言ってるでしょ!!」
嫌悪を、怒鳴り声に変えて。
剣が、次々と黒い影を叩き潰す。
やがて――
数が、減り始めた。
最後の一体が、
盾に弾かれ、壁に叩きつけられる。
ユイの矢が、その頭部を射抜いた。
沈黙。
地面に残るのは、
砕けた甲殻と、ワームの残骸。
「……終わった、わね……」
ヤチヨが、深く息を吐く。
剣先を、地面に下ろした。
「ほんと……勘弁してほしい……」
ユイも、弓を下ろし、
小さく震えながら笑った。
「……気持ち悪い……」
ヤヒロは、盾を下ろし、
仲間たちの方を振り返る。
誰も倒れていない。
大きな怪我もない。
ツダが、静かに言った。
「これが、沖縄中層だ」
「敵を倒しても、終わらない」
「死体すら、次の敵になる」
ヤヒロは、盾を握り直す。
守りがあるから、
この地獄は進める。
そう、確信するように。
いつもありがとうございます。
面白いと思っていただけたら、
★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。
本作は毎日更新中です。
明日もお待ちしています。
作者の新作です。
現代日本×ヒーローSF
「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」
蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。
もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。




