3章6節
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――ドドドドドッ。
空気を震わせる重低音。
「……ヘリ?」
顔を上げた瞬間、
夜空を切り裂くように、米軍のヘリが旋回してきた。
強烈なライトが、現場一帯を照らし出す。
その光に――
呼び寄せられるように、人が集まり始めた。
「また米軍かよ……」
「事件が起きるたびに、あいつらが来る!」
規制線の外。
スマホを掲げ、怒声を上げる人々。
市民団体だった。
最初は数人。
だが、次第に増え、塊になっていく。
「ここは俺たちの街だ!」
「勝手に踏み込むな!」
ヘリが着陸態勢に入った、その瞬間。
空気が、変わった。
米軍の兵士たちが降下し、周囲を警戒する。
それを見て、市民側の感情が一気に沸騰した。
一触即発。
「……まずいな」
ツダは、小さく呟いた。
次の瞬間、彼は立ち上がり、規制線を越えて前に出た。
「警察だ!」
腹から声を出す。
「この事件は、ダンジョン関連犯罪として警察とギルドが管理する!」
「双方、ここでの衝突は認められていない!」
一瞬、怒号が止む。
だが――
完全には止まらない。
そのとき、ツダの視界に入った。
米軍部隊の先頭に立つ、ひとりの男。
屈強な体躯。
両腕に装着された、異様な形状のセスタス。
周囲とは、明らかに違う。
(……来たな)
無意識に、ツダはモノクルを押し上げていた。
視界が、歪む。
数値ではない。
だが、感情の奔流が見えた。
抑え込まれた怒り。
噴火寸前の衝動。
それが、武器と一体化している。
(レジェンダリー……しかも、これは)
喉が、無意識に鳴った。
危険だ。
純度が高すぎる。
その男――ジップ・ブリージャーは、ツダを見た。
そして、わずかに笑った。
「……日本の公安か」
低い声。
「ずいぶん、前に出るな」
「前に出ないと、誰かが血を流す」
ツダは、距離を詰めながら応じた。
「ここは俺たちの管轄だ。少なくとも、今夜はな」
ジップの背後で、空気が揺れる。
怒りが、武器を通して周囲に滲み出す。
市民団体の一部が、思わず後ずさった。
(……抑えてる)
ツダは理解した。
この男は、今も自制している。
「目的は?」
ツダが問う。
「終結だ」
即答。
「これ以上、ここで血が流れないためのな」
「破壊する気か?」
「必要なら」
一切の迷いがない。
ツダは、ため息交じりに笑った。
「ずいぶん、短絡的だな」
「長引かせる方が、よほど残酷だろ」
視線が、正面からぶつかる。
火花は散らない。
だが、確実に――熱を帯びている。
「名前は?」
「津田宗吾。公安の現地責任者だ」
「ジップ・ブリージャー」
それだけ告げ、ジップは踵を返した。
階級も、所属も、言わない。
必要ないという態度。
「覚えておけ」
振り返らずに言う。
「俺は、壊すために動く」
ヘリのローター音が、再び高まる。
米軍部隊は撤収を始め、
市民団体も、警察とギルド員の誘導で徐々に解散していく。
嵐は、かろうじて回避された。
ツダは、モノクルを外し、深く息を吐いた。
「……最悪の組み合わせだな」
怒りを燃料にする男。
そして――
自分の中で、静かに疼き始めた知識欲。
(面白くなってきやがった……)
その自覚に、ツダ自身が、わずかに苦笑する。
浦添の夜は、まだ終わらない。
火種は、確実に残ったままだった。
ヘリの機内は、やけに静かだった。
ローター音が、外界を切り離す。
沖縄の夜景が、窓の下で小さく揺れている。
ジップ・ブリージャーは、座席に深く腰を下ろし、両腕のセスタスを見下ろしていた。
冷たい金属。
だが、今は――温い。
胸の奥に残る、あの現場の空気。
(……ギリギリだったな)
市民の怒声。
抑えきれない感情。
そして、正面に立った日本の公安の男。
ツダ、と名乗ったか。
(面白い目をしていた)
怯えも、敵意もない。
ただ、こちらを測っていた。
不快ではない。むしろ――
ジップは、舌打ちを一つ。
(余計な火種は増やすな)
自分は、終わらせるために来た。
混乱も、騒動も、噂も。
壊して、片付けて、灰にする。
それが、ここにいる理由だ。
セスタスが、わずかに軋む。
苛立ち。焦り。抑えきれない衝動。
それらを、力ずくで押し込める。
(……まだだ)
暴れるには、早すぎる。
ヘリが旋回し、基地へ向かっていく。
ジップは目を閉じ、深く息を吐いた。
怒りは、使うものだ。
振り回されるものじゃない。
少なくとも――
今夜は、まだ。
だが、胸の奥で燻る熱は、確かに燃え始めていた。
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