3章5節
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沖縄の夜は、昼間の熱をそのまま閉じ込めたように重い。
基地の照明に照らされた滑走路で、ヘリのローターが低く回転していた。
ジップ・ブリージャーは、フライトジャケットのポケットに両手を突っ込んだまま、その光景を無言で見つめている。
いつもと変わらない。
変わらないはずだった。
「最新の被害報告です」
背後から、情報将校が声をかける。
差し出されたタブレットの画面には、簡素な文章と、数枚の写真。
倒れた人間。
血痕。
荒らされた装備。
ジップは無言でスクロールした。
「……またか」
吐き捨てるように言う。
「何件目になりますか。いずれもダンジョン外」
「装備を狙った犯行で、現場に共通点があります」
「武器だな」
「はい。特定の近接武器を所持していた被害者が、例外なく狙われています」
ジップは、タブレットを返した。
「持ち主が変わっている」
「ええ。事件のたびに、武器の行方が途切れます。追跡は困難です」
それが何を意味するか、説明されるまでもない。
使われ続けている。
人を殺しながら、渡り歩いている。
「……厄介な代物だ」
ジップは小さく舌打ちした。
レジェンダリー装備。
その時点で、通常の犯罪とは切り離される。
だが、今回のそれは、明らかに異質だった。
「精神状態の異常が、通常のレジェンダリー装備汚染レベルを超えています」
情報将校が続ける。
「所有者は、短期間で攻撃性が増大」
「過剰な自己顕示欲、衝動的な暴力行為……」
「制御不能、か」
「はい」
ジップは、基地の外――闇の向こうにある街を一瞥した。
ここ数週間、抗議活動は確実に増えている。
基地とダンジョン、その両方に対する不満が、区別なく膨らんでいた。
「日本側の対応は?」
「公安とギルドが、確保を前提に動いています」
ジップは、鼻で笑った。
「確保、ね」
その言葉には、明確な不信が込められている。
「回収して、どうする」
「研究か?管理か?」
どちらにせよ、時間がかかる。
そしてその間にも、人は死ぬ。
「今回の作戦方針を確認する」
ジップが言うと、周囲の空気が引き締まった。
「対象装備を無力化する。回収は必須ではない」
言葉を選んだ。
だが、意味は明白だった。
「……破壊、ですね」
「そうだ」
即答だった。
「これは兵器だ。人の手に負える代物じゃない」
数秒の沈黙。
「日本側には、非公式に公安の部隊が動いていると聞いています」
別の将校が、資料をめくりながら言う。
「高い防御性能を持ち、チーム単位での戦闘に長けているとか」
ジップは、資料に目を落とした。
写真。
名前。
簡潔な戦闘記録。
――会ったことはない。
ただのデータだ。
「守りに特化した装備か。若いな」
「はい。公安が保護対象に指定しています」
「……悪くない判断だ」
ぽつりと、そう言った。
守る者がいる。
それ自体は、否定しない。
だが。
「それでも、これは別問題だ」
ジップは、拳を握った。
セスタスの内側で、風が荒れる。
感情に反応するように。
「この装備は、周囲を巻き込む。持った人間だけの問題じゃない」
街。基地。沖縄そのもの。
「米軍としては、この島での駐留を続けたい」
その言葉に、現実的な重みがあった。
「この島で、これ以上の混乱が起きれば、反米感情は抑えきれなくなる」
「ダンジョンがある限り、俺たちは必要だ」
「……だが、同時に邪魔者でもある」
基地の外、暗闇の向こうに広がる街を思い浮かべる。
抗議の声。不信の視線。
「今回の騒動を完全に終わらせる必要がある」
「中途半端な確保は、火種を残すだけだ」
ジップは拳を握りしめた。
その瞬間、セスタスの内側で、風が渦を巻く。
怒りに呼応するように。
「……俺が前に出る」
「ジップ少佐、自ら?」
「当然だろ」
彼は笑った。
だが、その笑みは荒々しく、獣のものだった。
「これ以上の混乱を許容できない。中途半端な確保は、火種を残す」
「だから、壊す」
短く、断定する。
「責任は俺が持つ」
ヘリのローター音が高まる。
作戦開始まで、時間はない。
「――叩き潰す」
ジップは搭乗口に向かいながら、ふと立ち止まった。
ジップは搭乗口の前で、もう一度だけ資料に目を落とした。
盾の装備者。
弓の使い手。
ハンマーの研究者。
大曲剣の担い手。
名前を覚えるつもりはない。
「……ぶつからなければいいがな」
それだけ言って、ヘリに乗り込む。
ローターが回転し、風が巻き起こる。
憤怒のセスタスが、低く唸った。
――これは、戦争じゃない。
だが、平和のための破壊だ。
その正当化を、彼は疑わない。
米軍の捜索部隊は、夜の沖縄へと飛び立った。
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