表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/126

3章4節

祝5000PV!


毎日17:30投稿

セーフハウスの扉が、ノックもなしに開いた。


「――失礼します!」


別のギルド調査員が、息を切らして飛び込んでくる。

顔色が悪い。手には通信端末。


「通報です。新たな強盗事件が発生しました」


「場所は――浦添市、国道沿いの駐車場」


ツダは、反射的に立ち上がっていた。


「被害状況は?」


「装備一式を奪取。被害者は重傷ですが生存しています。犯人は単独、逃走中」


――単独。


ツダの口角が、わずかに上がった。


「……ほう」


それは決して喜ぶべき情報ではない。

それでも、胸の奥で何かが跳ねたのを、ツダ自身が一番よく理解していた。


「来たな」


抑えきれない小さな高揚が、声に滲む。


ツダは三人を見回した。


「お前たちは、ここに残れ」


「え?」


ヤヒロが反応する。


「今回は街中だ。公安案件になる。お前らの出番じゃない」


淡々とした口調を装いながらも、モノクルを指で弾く仕草が、どこか軽い。


「俺が行く」


「でも――」


「命令だ」


短く言い切る。

その顔には、任務への緊張と同時に――研究対象を前にした研究者の顔があった。


「……すぐ戻る」


そう言って、ツダは足早にセーフハウスを出た。




夜の駐車場は、赤色灯に染まっていた。


封鎖線。濡れたアスファルト。冷たい空気。


ツダは身分証を提示し、現場へ入る。


「公安です」


その一言で、誰も止めなかった。


地面に残る血痕を見下ろし、ツダはしゃがみ込む。


「……ずいぶん、きれいだな」


独り言のような呟き。


血は多い。

だが、散らばっていない。


無駄な動きがない。

抵抗も、ほぼゼロ。


(いい……いや、興味深い)


ツダは、自分の思考に一瞬眉をひそめる。

今の言い換えは、完全に『場違い』だった。


それでも、胸の奥がざわつく。


「被害者は中層冒険者です」


警察官の報告を、ツダは片耳で聞きながら、血痕の縁をなぞる。


「……最初の一撃で、心を折られてる」


「え?」


「殺す必要はなかった。装備を奪うだけなら、ここまでやらない」


ツダは立ち上がり、モノクルを押し上げた。


視界が変質する。


床に残る気配が、色を帯びる。


「……ああ、やっぱり」


その声は、どこか楽しそうだった。


弱点看破。

だが今、彼が見ているのは敵ではなく、犯人の癖だ。


「精神を折るのが目的だ。力を誇示して、羨望を奪う」


言葉にしながら、ツダの思考は加速していく。


(なるほど……。見せつけて、奪うタイプか)


気づけば、分析に没頭していた。


「刺剣だな」


細く、鋭い一閃の残滓。


「随分と、洗練されてる。……いや、成長している」


その表現に、自分で違和感を覚えながらも、否定できない。


空を見上げる。低く垂れ込めた雲。


「……面白い」


口をついて出た言葉に、ツダは一瞬だけ目を細める。


(まずいな)


理解している。

これは“知りたい”という衝動だ。


通信端末を握りしめる手に、微かな力がこもる。


「こちらツダ。レジェンダリー案件で確定だ」


通信端末を切って、ツダはつぶやいた。


「――嫉妬の武器が、動いてる」


声は冷静だった。

だが、その奥底には。


次の一手を思い描いている自分を、止められないツダが、確かにいた。




セーフハウスの一室。

蛍光灯の白い光の下で、ヤヒロは盾を膝に載せていた。


使い捨てる盾。


布で表面の煤を拭い、縁に走る細かな傷をなぞる。

受け、逸らし、押し返してきた痕跡が、確かに刻まれている。


盾は、静かだった。

満腹した獣が、息を潜めているように。


「……」


ヤヒロは無言で手入れを続ける。


その横で、ユイが弓の弦を張り替えていた。

きゅ、と張り詰めた音が、部屋に響く。


少し離れた場所では、ヤチヨが大曲剣を分解し、刃に付着した赤黒い痕を削ぎ落としていた。

動きは荒いが、迷いはない。


「……ほんと、丁寧だよね」


ヤチヨが言う。

からかうような声だが、どこか柔らかい。


「盾は、手を抜くと拗ねるんです」


ヤヒロは答える。


冗談めいているが、半分は本気だった。


「拗ねる、かぁ」


ヤチヨは小さく笑い、刃を布で強く拭いた。


「まあ、あんたの盾だもん」


「持ち主に似て、妙に生真面目そう」


「……それ、褒めてます?」


「さあ?どう取るかは、後輩くん次第」


軽口。

けれど、部屋の空気は静かだった。


ユイが弦の張り具合を確かめ、口を開く。


「……ツダ、遅い」


「現場検証だろう」


ヤヒロは視線を盾から離さない。


「嫉妬の武器。放っておくはずがない」


その言葉に、ユイの指が一瞬止まる。


「……危ない?」


「危なくない仕事なら、最初から私たちに回ってこないよ」


ヤチヨが肩をすくめる。


「それに、あの人は――」


言いかけて、言葉を切った。


ユイが視線を上げる。


「……?」


「いや」


ヤチヨは剣を組み直し、鞘に収めた。


「……ツダはね、調べ物が絡むと、ちょっと楽しそうになるだけ」


ヤヒロの手が、ぴたりと止まる。


「……それ、あんまり良くないやつじゃないですか」


「良くないよ」


即答だった。


ユイが弓を膝に置き、静かに言う。


「……でも、必要」


「うん」


ヤチヨは壁にもたれ、腕を組む。


「知ることに夢中になる人ほど、いちばん危ない場面で頼りになるのも事実」


少し間を置いて、視線を落とす。


「……壊れるまでは、ね」


その言葉が、部屋に落ちる。


ヤヒロは、盾の表面に映る自分の歪んだ顔を見る。


(壊れる……)


誰のことだろう、と一瞬考えて――

答えを出すのをやめた。


「……俺たちにできるのは」


ヤヒロは、手入れを終えた盾を立てかける。


「次に呼ばれたとき、ちゃんと動けるようにしておくことだけですね」


「……うん」


ユイが短く頷く。


「守る」


その一言は、自然に口から出ていた。


ヤチヨはその様子を横目で見て、ふっと息を吐く。


「いい顔するようになったじゃん」


「え?」


「自覚ないの?」


ヤチヨは立ち上がり、窓の方へ歩いた。


「じゃあ、その顔のまま――」


夜の沖縄を見下ろしながら、少し低い声で続ける。


「次は、もっと面倒なのが来るよ」


遠くで、サイレンの音が鳴っていた。


それが、ツダのいる現場のものかどうかは分からない。


ただ三人は、黙って武器の手入れを続けた。

いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ