3章2節
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新宿。
高層ビルの谷間に建つ、繁華街からは少し離れたビジネス寄りのシティホテル。
部屋は最上階に近い。
過剰な豪華さはないが、無駄に静かで、無駄に広い。
ヤヒロ――曳舟八紘は、窓際に立っていた。
ガラス越しに見下ろす夜景は、どこかダンジョンよりも現実味がなかった。
「全員そろったな」
背後から、ツダ――津田宗吾の声。
振り返ると、
ソファにはユイ――市川有加利が、ちょこんと腰掛け、
少し離れた椅子にヤチヨ――成田八千代が、偉そうに腕を組んでいる。
ツダは、いつものように軽い調子で部屋の中央に立った。
だが、最初の一言は違った。
「……まずな、ヤヒロ」
名前を呼ばれ、ヤヒロは身構える。
「お前の盾の件だ」
ツダは、軽く頭を下げた。
「俺が公安に、正式に報告した」
空気が、沈んだ。
「隠さなかった」
ヤヒロの喉が鳴る。
「結論から言うとだな。あの盾――」
「公安の定義で言えば、明確な保護対象になった」
「保護……?」
「そ。異常だから没収、じゃない」
「異常だから『管理下に置く』って判断だ」
ツダは、肩をすくめる。
「俺が今まで黙ってたせいで、話がでかくなった」
「そこは……悪かった」
軽い口調だったが、
謝罪としては、ツダなりに最大限だった。
「じゃあ……俺は」
ヤヒロが言葉を探す。
「逮捕はされない」
ツダは即答した。
「ただし――」
一歩、前に出る。
「曳舟八紘。
市川有加利。
成田八千代」
三人の名前を、順に呼ぶ。
「今日この時点から、お前ら三人は正式に公安管理下だ」
「もっとも、ヤチヨについては元々、非公式で管理下にあったけどな」
ヤチヨが、わずかに眉を動かした。
「ダンジョンへの潜行は、
俺、津田宗吾の管理下でのみ許可される」
「無断潜行は不可」
「破ったら、その時点で強制拘束だ」
「ゆえに、他の公安の人間もマークについているぞ」
冗談めかした口調のまま、内容は冷酷だった。
「……拒否権は?」
ヤチヨが問う。
「ない」
ツダは笑った。
「拒否したら、今までの全部を“違法所持”でひっくり返される。
残念だが、俺、そういう権限もらってるんだ」
沈黙。
ヤヒロは、盾を背負っていないのに、
また重さを感じていた。
「で、だ」
ツダは、空気を切り替えるように手を叩いた。
「ここからが本題」
彼は、鞄からタブレットを取り出し、
テーブルの上に投影する。
そこに映ったのは――
沖縄本島の地図と、赤いマーカー。
「沖縄で、非公式だが公安の任務が動いてる」
ユイの視線が、画面に吸い寄せられる。
「内容は――
レジェンダリー装備が関係してる可能性が極めて高い案件だ」
ユイが、低く息を吐いた。
「……目的は?」
「『管理目的の回収』だな」
ツダは、少しだけ真面目な顔になる。
「カテゴリは武器。『魅了する刺剣』と呼ばれてる」
「嫉妬の罪を司る可能性がある」
その名前を聞いた瞬間、
ユイの指が、わずかに強張った。
「問題なのはだ」
ツダは、淡々と続ける。
「所有者が固定されない。殺し、強奪、事件が連鎖してる」
「つまり……」
ヤヒロが言う。
「持ったやつが、壊れる」
「そう」
ツダは頷いた。
「米軍や、現地の市民団体も絡んでくる」
「政治的に非常に面倒くさいんだ」
「だから、公式部隊は使えない」
画面を消す。
「そこでだ」
ツダは、三人を見渡した。
「お前らに、行ってもらう」
「非公式だが、公安の任務。
成功すれば、今後もレジェンダリー装備の所持は黙認」
「失敗すれば――」
肩をすくめる。
「まあ、全部なかったことにされる可能性もある」
冗談のようで、冗談ではない。
「……選択肢は?」
ユイが聞く。
ツダは、即答しなかった。
少しだけ間を置いてから、言う。
「形式上は、お願いってやつだ」
「だが実際は、断れない仕事だな」
部屋に、静寂が落ちた。
窓の外で、遠くにネオンが瞬いている。
ダンジョンとは違う。
だが、同じくらい――逃げ場のない場所だった。
「……で?」
ヤチヨが、腕を解いた。
「私たち四人で?」
ツダは、ニヤリと笑った。
「そういうこと」
「沖縄だ。
今度は――人間が相手になる」
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