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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
3章:沖縄ダンジョン編

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73/124

3章1節

本日から3章開始です。


毎日17:30投稿

夜明け前だった。


沖縄本島北部、住宅地と旧道の境目にある簡易宿泊所。

通報を受けて駆けつけた警察は、赤色灯を落としたパトカーを建物の手前に止めた。


「……ここか」


先頭に立つ警部補が、無線を切って小さく呟く。

波音が、妙に近い。


扉は壊されていなかった。

鍵も、かかっていない。

それなのに、中は荒れ果てている。


踏み込んだ瞬間、鼻を突いた。


鉄の匂い。

生臭い血の匂い。

それに混じる、焦げた革と油のような臭気。


「――っ」


若い巡査が、思わず息を呑む。


床に倒れている男は二人。

一人は壁にもたれ、もう一人は仰向けだ。

どちらも、致命傷は一つではなかった。


刺し傷。

殴打の跡。

防具越しに叩き潰された痕。


「……やりすぎだろ」


誰かが呟いた。


金は残っている。

財布も、スマートフォンも、散乱したままだ。

だが――


「装備がない」


警部補が低く言った。


本来、冒険者が寝るときでも外さないはずの装備。

革鎧、ブーツ、腕具。

それらが、綺麗に消えている。


壁際には、血に濡れたバックパック。

中身は、ほとんどそのままだ。


「……またか」


この一言に、全員が黙った。


ここ数週間。

似たような通報が、確実に増えていた。


ダンジョン外での殺人。

装備の強奪。

犯人は捕まらない。


「ギルドの鑑定班を呼べ。これは完全にダンジョン案件だ」


警部補の指示に、巡査が即座に無線を入れる。


そのときだった。


「……う、ぁ……」


かすれた声。


全員が一斉に振り向く。


部屋の隅。

倒れた机の陰に、もう一人、生存者がいた。


男は生きている。

だが、その目は焦点を結んでいない。


「落ち着いてください。大丈夫です」


巡査が近づこうとした瞬間、


「――触るな!!」


男は叫んだ。


「奪うな……! 俺のだ……!」


意味が、噛み合わない。


「誰が、何を奪ったんだ」


警部補が問いかける。


男は、震える指で自分の胸元を掴んだ。

そこには、本来この男が持つはずのない――


「……レア装備?」


革製だが、明らかに質が違う。

血に汚れているが、傷はない。


ギルド鑑定班が来る前でも、異常だと分かる。


「俺のだ……」

「やっと、手に入れたのに……」


男の声は、次第に泣き声に変わっていく。


「みんなが、欲しがるから……」

「俺が、すごいって……!」


その言葉に、背筋が冷えた。


――奪われた悲しみじゃない。

――奪った後の、執着だ。


「……この連中、装備を見せびらかしてたんじゃないか」


誰かが、ぽつりと言った。


誰も否定できなかった。


現場を覆う静寂。

遠くで、海鳥が鳴く。


警部補は、無意識に拳を握りしめていた。


「……これは、ただの強盗じゃない」


ダンジョンの中だけで起きるはずの狂気が、

確実に、外へ滲み出している。


「公安の担当部署にも回せ。至急だ」




同じ夜。

沖縄本島中部、ダンジョンから数キロ離れた旧商店街。


シャッター街の裏路地に、灯りが一つだけ漏れていた。

簡易鑑定所として使われている小さな店舗だ。


「……本当に、これが?」


店主の男が、喉を鳴らす。


カウンター越しに置かれたのは、細身の刺剣。

鞘に収まっているにもかかわらず、存在感だけが異様だった。


「ええ。間違いなくレア以上です」


持ち主――若い冒険者は、誇らしげに言った。

声は落ち着いているが、目だけが落ち着かない。


「これ、ダンジョンで拾ったんですか?」


「……まあ」


嘘だった。

だが、男にはもう、どうでもよかった。


(見てる……)


店主の視線。

通りすがりに覗き込んだ男の視線。

店の外に立ち止まった女の視線。


――みんな、この剣を見ている。


(そうだろ?)

(欲しいだろ?)


胸の奥が、じわじわと熱を帯びる。


「……すごいですね」


店主が、思わず漏らす。


その一言で、決定的だった。


(ほら)

(やっぱりだ)


若い冒険者の口元が、わずかに歪む。


「これがあれば、上層だって――」


言い終わる前に、背後で音がした。


コツ。


乾いた足音。

一つ。

二つ。


「……すみません」


振り向いた瞬間、視界が歪んだ。


鈍い衝撃。

頭を殴られた感触。


「な――」


床に倒れる。

剣が、カウンターの上で転がる。


「動くな」


低い声。


顔を上げると、フードを深く被った男が立っていた。

手には、短剣。


「……それ、すげえな」


男の目は、剣から離れない。


「ずっと探してたんだ」


若い冒険者は、笑った。


「……は?」


「分かるよ」


血を吐きながら、男は言った。


「それ、持つとさ……」

「みんなが、こっちを見るんだ」


フードの男の呼吸が、乱れる。


「……黙れ」


「羨ましそうに」

「欲しそうに」


「黙れ!!」


短剣が、突き立てられる。


一度。

二度。

三度。


店主が悲鳴を上げる前に、フードの男が振り向いた。


「見るな」


その一言で、店主は動けなくなった。


床に倒れた若い冒険者は、もう動かない。

だが、その顔は――


満足そうに、笑っていた。


「……」


フードの男は、震える手で刺剣を拾い上げる。


重い。

だが、心地いい。


(俺のだ)


そう思った瞬間。


「……はは」


笑いが、漏れた。


「すげえ……」

「これ、すげえな……」


店主は、カウンターの下で息を殺しながら、ただ震えていた。


フードの男は、剣を腰に差す。


「悪いな」


誰に言うでもなく、そう呟いて、路地へ消えた。


夜風が、商店街を抜けていく。


床には、血と――

もう、誰のものでもない死体だけが残された。


そしてその刺剣は、

また一人、次の「所有者」を得た。

いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。


作者の新作です。

現代日本×ヒーローSF

 「魂融合機兵ヴェスパー《HIVE-01》」

蜂型の機兵が侵略者と戦う物語です。

もしよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです。

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