2章32節
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ツダが呟いた。
「……コイツで、最後だ」
それは、説明ではなかった。
警告でも、演出でもない。
ただ――ここから先は、今までとは違うという、合図だった。
火山灰が、雪のように舞っている。
しかし冷たくはない。
肌に触れるたび、じわりとした熱を残して落ちていく。
ヤヒロは盾を前に出し、無意識に半歩進んでいた。
視線が、自然と前方の“空間”に固定される。
「……勝つ」
ユイの声は低い。
弓を引く腕に、力が籠もっている。
ツダはモノクルを押さえ、ゆっくりと息を吐いた。
「ここは――見だな」
その瞬間。
ゴォ……ォ……ン……
空気が、鳴った。
それは音ではない。振動だ。
胸の奥を、直接叩くような低周波。
地面に走っていた溶岩が、一斉に波打つ。
ひび割れた大地が、脈を打つように震え始めた。
「来るぞ!」
ヤヒロが声を上げた、その直後。
溶岩の海が――割れた。
赤と黒が絡み合った巨体が、
まるで“地面から引き剥がされる”ように、ゆっくりと立ち上がる。
鱗は溶岩のように赤黒く、
ところどころが冷えて黒曜石のように光っている。
――だが。
胸元。
心臓の位置にあたる一枚の逆鱗だけが、
鈍色に、異様な光を放っていた。
「……逆鱗?」
ヤヒロが呟く。
その瞬間、周囲の衝撃が、そこに吸い込まれていく感覚を覚えた。
視覚ではない。肌感覚だ。
「反響鱗……」
ツダの声が、わずかに硬い。
「衝撃、音、振動……」
「全部を溜め込んで、増幅するタイプだ」
ヤチヨが、口の端を吊り上げた。
「なるほどな。つまり、殴るほど、強くなるわけか」
その言葉を、竜が理解したかのように。
ギャァァァァオォォォン――!!
咆哮。
空気が、爆ぜた。
音が“壁”になって、正面から叩きつけられる。
「――っ!」
ヤヒロは反射的に盾を突き出した。
衝撃波反転。
音が、跳ね返る。
だが。
反響鱗が、それを吸い込んだ。
逆鱗が、赤く脈動する。
「効いてない……!?」
いや――違う。
効いていないのではない。
蓄積されている。
「下がれ、ヤヒロ!」
ツダの声が飛ぶ。
次の瞬間。
ヴォルカニクスが、翼を大きく広げた。
溶岩が舞い上がり、火山灰が、渦を巻く。
逆鱗が、さらに強く輝いた。
ツダが叫ぶ。
「全体攻撃……来るぞ!」
ヤヒロは、一歩前に出た。
完全に防ぐ構えではない。
盾を、斜めに。
――受け流す。
「全部は……受けない!」
――ゴォォォォン!!
衝撃が、世界を叩いた。
音と振動と圧力が、同時に襲いかかる。
盾が悲鳴を上げる。
腕が痺れる。
足元の地面が、抉れる。
それでも。
ヤヒロは、立っていた。
衝撃を上に逃がし、
背後にいる三人を、確実に守り切る。
だが。
逆鱗が――なおも、光っている。
「一回じゃ、終わらねぇぞ」
ヤチヨの声が低くなる。
ヴォルカニクスが、再び息を吸い込んだ。
次は、もっと大きい。
「――来る!」
ツダの叫びと同時に、
ヴォルカニクス=エコー・ドラゴンが、息を吐いた。
炎ではない。
溶岩でもない。
音と振動そのもの。
爆発的な衝撃波が、円環状に広がった。
空気が歪み、
火山灰が一斉に跳ね上がる。
「――っ!!」
ヤヒロは盾を前に、踏ん張った。
衝撃波反転。
盾が、唸る。
音が、反転する。
だが――
「……来る、二段目!」
ユイの声が鋭く割り込む。
跳ね返した衝撃が、
逆鱗に吸い込まれ、さらに増幅されて返ってきた。
「っ、クソ……!」
ヤヒロは盾を傾ける。
真正面で受けない。
逸らす、逃がす、横に流す。
だが。
衝撃は“面”だ。
逃げ場が、ない。
地形そのものが、敵だった。
足元の溶岩が、衝撃で跳ねる。
地面から、熱と振動が突き上げてくる。
「ヤヒロ!」
ユイが矢を放つ。
逆鱗“以外”を狙った一射。
だが、硬い。
効いていないわけではない。
だが、決定打にならない。
「チッ……面倒な構造しやがる……!」
ヤチヨが踏み込み、大曲剣を振るう。
斬撃が、竜の前脚を裂く。
しかし、その衝撃すら――
逆鱗が、共鳴する。
「――ギャァァァオォォォン!!」
再咆哮。
今度は、上下から。
天から、振動。
地から、反響。
「防御の意味が削られてる……!」
ツダが歯噛みする。
「全部受けると、削り殺されるタイプだ……!」
ヤヒロも、わかっていた。
防御しても、ダメージはゼロにならない。
受けるほど、削られる。
――防御役殺し。
「……でもな」
ヤヒロは、一歩踏み出す。
「それでも、俺が立ってないと――」
衝撃が、来る。
盾で逸らす。
体勢で逃がす。
地形を利用して、分断する。
だが。
連続だ。
一撃、二撃、三撃。
腕が痺れる。
足が、熱で焼ける。
視界が、揺れる。
「ヤヒロ、下がって!」
ユイの声が遠い。
逆鱗が、限界まで光っている。
「来るぞ……本命だ!」
ツダの声。
ヴォルカニクスが、翼を広げた。
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