2章31節
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上層を進むにつれて、空気が変わった。
熱でも、硫黄でもない。
「逃げ場がない」という圧迫感だ。
足元の黒い大地は、踏みしめるたびに微かに赤く脈打つ。
溶岩ではない。だが、確実に生きている。
「……地形ダメージ」
ヤヒロは、盾を構えたまま呟いた。
一歩進むごとに、靴底越しに鈍い熱が伝わってくる。
立ち止まれば、じわじわと体力が削られていく。
「装備で防御しても、ゼロにはならねえな」
ツダが、淡々と言った。
「このエリア自体が攻撃してきてる」
その言葉を裏付けるように、地面が歪んだ。
――ずるり。
溶けた地表が隆起し、人型を成す。
全身を黒い殻に覆われた、異形の魔物。
灼殻の守衛。
動きは鈍い。
だが、歩くだけで周囲の地面が灼け、赤熱する。
「来るよ」
ユイの短い声。
次の瞬間、守衛が腕を振り下ろした。
ヤヒロは、反射的に盾を前に出す。
――受け止めた。
だが。
「……っ!」
衝撃そのものは防いだ。
それでも、盾越しに熱と振動が伝わり、体力が削られる。
防いだのに、減る。
これまでの戦場とは、明確に違っていた。
守衛は一体ではなかった。
左右の地面が割れ、さらに二体が姿を現す。
囲まれる。
しかも、時間が経つほど足元が灼けていく。
――全部、受けるのは無理だ。
その判断は、恐怖より先に来た。
「ツダ!」
「あいよ」
短く応じる声。
ヤヒロは、盾を“構え直さなかった”。
真正面で受けるのではなく、斜めに当てる。
衝撃波反転は使わない。
使えば、反動と地形ダメージが重なる。
代わりに。
――流す。
守衛の腕を、盾で受け流し、横へ逸らす。
巨体がバランスを崩し、一歩踏み込む。
その一歩先にあったのは、赤く脈打つ地面。
守衛の足元が、沈む。
「今だ」
ユイの矢が、関節の隙間に突き刺さる。
致命傷にはならない。
だが、動きが止まる。
ヤヒロは、次の一体に向き直る。
今度は、真正面で受けない。
盾で押し返し、位置をずらす。
魔物同士が、互いの灼熱地帯に踏み込むよう誘導する。
「……なるほどな」
背後で、ツダの声。
「全部受けない。
守りながら、分断して、時間を稼ぐ」
ツダが前に出る。
槌が振るわれ、守衛の殻にひびが入る。
だが、決めに行かない。
無理に壊さない。
削る。待つ。位置を動かす。
地形ダメージは、敵にも等しく襲いかかる。
一体が、膝をついた。
もう一体が、動きが鈍る。
「今」
ユイの声と同時に、矢が雨のように降る。
守衛が、崩れ落ちた。
最後の一体は、もはやまともに動けなかった。
ヤヒロは、盾を構えたまま、距離を詰める。
叩かない。
突っ込まない。
ただ、逃がさない位置に立つ。
ツダの槌が、静かに振り下ろされる。
――戦闘終了。
熱に満ちた空間が、少しだけ静まった。
「……上層向きだな」
ツダが、率直に言った。
「守りが“固定”じゃない。戦場を動かしてる」
ヤヒロは、深く息を吐く。
体力は削れている。
だが、致命傷は一つもない。
守りきった。
ヤチヨには剣を抜かせなかった。
ユイが、ヤヒロを見る。
その目に、わずかな安堵。
そのときだった。
遠くで、地鳴りがした。
今までとは、桁が違う。
――ごう、と。
熱風が吹き抜け、火山灰が舞い上がる。
ツダが、顔を上げた。
「……来たな」
ヤチヨが、剣に手を掛ける。
「ここまでが、前座か」
赤く染まる地平線の向こう。
巨大な影が、ゆっくりと姿を現す。
ヤヒロは、盾を構え直した。
今度は、逃げ場のない戦いになる。
それでも。
――守れる。
そう、確信できるだけの“完成度”が、そこにあった。
上層ボス戦、開幕。
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