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死に戻りが許されるダンジョンでは、バトルロワイアルが日常です。  作者: 昼ライス
2章:富士山ダンジョン編

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2章30節

毎日17:30投稿

火山灰が、夜になると音を失った。


降っているはずなのに、

焚き火の周りだけが、切り取られたように静かだった。


誰も、すぐには口を開かない。


ヤチヨは、少し離れた岩に腰を下ろし、

虎嘯大曲剣を地面に立てている。


磨いてはいない。

ただ、そこに置いているだけだ。


視線は剣に向いているのに、見ていない。


「……」


最初に沈黙を破ったのは、ツダだった。


「さっきの」


短く、区切る。


「一線、越えかけてたな」


責める声音ではない。

確認に近い。


ヤチヨは、鼻で息を吐いた。


「ああ」


否定しない。


「自覚は、ある」


少し間を置いてから、


「毎回だ」

「武器を握って、数を相手にすると……頭が軽くなる」


自嘲気味な笑み。


「自分が『正しい側』だって、錯覚する」


焚き火が、ぱちりと爆ぜる。


ツダは、黙ってそれを見ていた。


「それで?」


「それで」


ヤチヨは、言葉を探すように、視線を彷徨わせる。


「誰かが止めないと、どこまで行くか分からない」

「本当はそれを独りで制御できないかと思ってここに潜ってたんだ」


ヤヒロの方を、ちらりと見る。


直接は見ない。


「今日は、あんたが盾を出したから……止まれた」


ヤヒロは、何も言えなかった。


自分が、止めたのか、止められただけなのか。

判断がつかなかった。


「悪かった」


ヤチヨが言う。


短く、はっきりと。


「守る役に、死なせかける真似をした」


その言葉に、ユイが顔を上げる。


「……それでも」


小さな声。


「……止まりました」


それだけ言って、また黙る。


ヤチヨは、目を伏せた。


「優しいな」


「……事実」


淡々と。


そのやり取りを聞いてから、

ツダが、ゆっくりと口を開いた。


「なあ、三人とも」


焚き火を見つめたまま。


「そろそろ、言っとくべきだと思ってた」


空気が、変わる。


「……何を?」


ヤヒロが問う。


ツダは、少し考える素振りをしてから、言った。


「お前らの装備」


ヤヒロの盾。

ユイの弓。

そして――ヤチヨの剣。


「全部、偶然にしちゃ出来すぎてる」


ヤチヨが、わずかに眉を動かす。


「共通点がある」


ツダは、低い声で続けた。


「使えば使うほど、装備が、持ち主の思考に口出ししてくる」


ヤヒロの喉が鳴る。


思い当たる節が、ありすぎた。


「俺は、確証までは持ってない」


前置きしてから、


「だがな……」


ツダは、焚き火に小枝を放り込む。


「――レジェンダリー装備は、

七つの大罪を模して作られてる可能性が高い」


沈黙。


焚き火の音だけが、残る。


「……は?」


ヤヒロが、絞り出す。


ツダは、頷いた。


「ヤヒロの盾」

「『使い捨てる』ことで強くなる。満たして、食って、取り込む」

「今はまだレアだが、いずれレジェンダリーの域に達するはずだ」

「すでに性能はレアのソレじゃないしな」


「……暴食、か」


ヤチヨが、先に理解した。

自分の剣を見る。


「じゃあ、これは」


「傲慢」


ツダは、即答した。


「力を誇示し、

自分より弱いものを見下ろす方向に、思考が引っ張られる」


ヤチヨは、苦笑した。


「最悪だな」


「ユイの弓は、怠惰だ」


ユイが、ぴくりと反応する。


「無駄な動きを削ぎ、感情を削り、『必要なことだけ』に集中させる」


それを聞いて、

ユイは、少し考えてから言った。


「……納得」


自分が無口になった理由を、

初めて言語化できたように。


「つまり」


ヤヒロが、静かに言う。


「強くなるほど、人として、どこか歪む」


「可能性がある、って話だ」


ツダは、言い切らなかった。


「だからこそ」


ヤチヨが、ゆっくり立ち上がる。


「だからこそ、独りじゃ持てない武器なんだろ」


焚き火の明かりが、彼女の横顔を照らす。


「私は、昔から独りで戦う癖がある」


ヤヒロを見る。


「でも……」


一瞬、言葉を切る。


「さっき、止められた」


それだけで、十分だった。


「距離は、まだある」


ヤチヨは続ける。


「後輩として見てた頃のあんたと、今のあんたの間にはな」


ヤヒロは、黙って頷いた。


「でも」


ヤチヨは、はっきり言った。


「今日の盾は、ちゃんと“前に出る理由”を持ってた」


その一言が、

ヤヒロの胸に、深く落ちる。


「……ありがとうございます」


絞り出すように。


ヤチヨは、肩をすくめた。


「礼を言うな。まだ、同じ場所に立ってるわけじゃない」


焚き火が、静かに燃え続ける。


それぞれが、

自分の武器を見つめながら――


強さと、歪みが、常に隣り合わせであることを

否応なく理解していた。


「……あー」


ツダが、間の抜けた声を出す。


それだけで、三人の視線が集まった。


「今の話な」


頬を掻きながら、どこか居心地悪そうに言う。


「七つの大罪がどうこうってやつ」


わざと軽く言っているのが、逆に分かりやすかった。


「実は――」


ツダは、自分の顔に掛かっているモノクルを、指で軽く弾いた。


「俺も、例外じゃない」


ヤヒロが、目を見開く。


「……それも?」


「おう」


あっさり頷く。


「これも、レジェンダリーだ」


一瞬、言葉が消えた。


ユイが、わずかに息を呑むのが分かる。


「鑑定のモノクル。

正式名称はもっと仰々しいけどな」


ツダは、焚き火を見ながら続ける。


「特筆すべきは二つ」


一本、指を立てる。


「ひとつは、鑑定結果の改ざん」


ヤヒロの背中に、冷たいものが走る。


「俺が“エピック”だって言ってきた鑑定結果」


肩をすくめる。


「全部、本当は好きに書き換えられる」


「……」


「ギルドの記録も、な」


さらりと、とんでもないことを言った。


「じゃあ……」


ヤヒロが、震える声で問う。


「今までの――」


「基本は本物だ」


即座に遮る。


「全部嘘ってほど、悪趣味じゃねえよ」


少しだけ、真面目な顔になる。


「だがな……

知られたら困る部分は、削ってる」


盾の吸収。

特性の積み重なり。

そして――人為的に作られた歪み。


ヤヒロは、何も言えなかった。


「で、もう一つ」


ツダは、モノクルに触れる。


「こっちが本命だ」


声が、低くなる。


「知識欲を刺激する」


ユイが、静かに頷いた。


「……強欲」


「正解」


ツダは、笑った。


だが、その笑みはどこか乾いている。


「知りたくて仕方なくなる」

「構造も、由来も、隠されてる理由も」


焚き火の中で、火が揺れる。


「ダンジョンが何で出来てるか」

「レジェンダリーが誰に作られたか」

「七つ揃ったら、何が起きるか」


息を吐く。


「――全部、見たい」


それは、欲望だった。


剣のように分かりやすくない。

盾のように前に出ない。

弓のように距離も取らない。


知ることで、世界を自分のものにしようとする欲。


「だから」


ツダは、三人を見る。


「俺は、俺で歪んでる」


言い訳もしない。


「鑑定官のフリしたまま、一番近くでダンジョンを覗いてる」


沈黙。


だが、それは重いものではなかった。


「……それでも」


ヤヒロが、ゆっくり口を開く。


「教えてくれた」


「隠し切れなくなったからな」


ツダは苦笑する。


「それに――」


ヤヒロの盾を見る。


「お前が、ちゃんと自分で選ぼうとしてるのが分かった」


ユイが、静かに言う。


「……歪みは」


少し考えてから。


「……共有した方が、制御できる」


「だな」


ツダは、短く答えた。


ヤチヨは、ふっと鼻で笑う。


「全員、業持ちか」


剣に手を置く。


「――面倒なパーティだな」


だが、その声に拒絶はなかった。


焚き火は、静かに燃え続ける。

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