4章8節
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ツダは、
ギルドの窓口が一段落したのを見計らって、
カウンター越しに声をかけた。
「すみません。
少し、業務確認でお話いいですか?」
本郷三咲は、
ぱっと顔を上げた。
「は、はい」
「ギルドの内部調査でね。
最近、クエストの達成率に偏りが出てて」
「軽いヒアリングです。
心配しなくて大丈夫」
ツダは、
あくまで“ギルド関係者”としての顔を崩さない。
本郷は、
少し緊張しながらも頷いた。
「じゃあ、
中だと邪魔になりますし……外で」
建屋を出ると、
札幌の空気は鋭く冷たい。
吐く息が白く、
街の音がどこか遠い。
「最近、
何か変わったことはありませんか?」
ツダは、
事務的な口調で切り出した。
「体調とか。
人間関係とか」
本郷は、
しばらく考えてから、
首をかしげる。
「……変わったこと、ですか?」
「うーん……」
そして、
困ったように笑った。
「むしろ、
調子はいいです」
「仕事も、
前よりスムーズで」
「クエストも……
担当すると、なぜか達成されることが多くて」
自慢ではない。
誇張でもない。
ただ、
淡々とした事実の報告。
「不思議なんですけど、
嫌な感じはしないんです」
ツダは、
一歩だけ距離を詰めた。
「それを、
不安には思わない?」
本郷は、
一瞬だけ目を瞬かせてから、
左手を見た。
指にはまった、
二連のリング。
「……これ、ですかね」
照れたように、
小さく笑う。
「初任給で買ったんです。
使えない装備って言われてましたけど」
「なんとなく、
気に入って」
「つけてると……
大丈夫な気がするんです」
「お守り、みたいな」
ツダは、
それ以上深く踏み込まなかった。
「なるほど」
「参考になりました。
ありがとう」
「いえ……
お役に立てたなら」
本郷は、
ぺこりと頭を下げ、
ギルド建屋へ戻っていく。
その背中を、
ツダは一瞬だけ見送り、
踵を返した。
――その間。
誰にも気づかれない場所で。
街路樹の影。
電柱の裏。
そこに、
男がいた。
フードを深く被り、
顔は見えない。
だが、
視線だけが、
本郷の背中に縫い付けられている。
(……誰だ)
(あの男)
(知らない)
(なんで、あんなふうに……)
男の脳裏に、
ふと、
テレビの映像がよぎる。
――沖縄。
――暴動。
――刺剣。
――羨望と嫉妬に狂った人間。
胸の奥が、
じくじくと疼く。
(……奪われる)
(また、奪われる)
(ああいう奴が……
先に、触れる)
指が、
無意識に握り締められる。
自分でも理由は、
はっきりしない。
ただ、
胸に溜まる感情だけが、
確かだった。
――妬ましい。
その視線に、
ツダも、
本郷も、
まだ気づいていない。
だが、
物語はすでに、
静かに軋み始めていた。
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