4章7節
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クリスマス六日前。
再び、
札幌ダンジョン・ギルド。
本郷三咲は、
昨日と同じ場所に立っていた。
「おはようございます。
今日は……こちらですね」
差し出されたクエスト。
【討伐対象:スノーウルフ ×12】
【階層:中層・森林雪原エリア】
【推奨人数:6名以上】
数は多い。
連携も取る。
群れで動く。
厄介な相手だ。
「……行こう」
ツダは、即決した。
雪を踏みしめ、森に入る。
スノーウルフの気配は、早かった。
包囲。
左右。
背後。
「来るぞ」
ヤヒロが盾を構えた、その瞬間。
――吠え声が、ずれた。
一体が、
なぜか先走る。
別の一体が、躊躇する。
「……統率、取れてない」
ヤチヨが眉を寄せる。
衝突。
ヤヒロの盾が受け止める。
衝撃は、ある。
だが――続かない。
本来なら、
ここで三方向から噛みつかれるはずだ。
だが、
来ない。
ユイの矢が、
無駄なく通る。
一体。
二体。
「……早い」
戦闘時間は、
想定の半分以下。
全滅。
誰も、
大きく消耗していない。
クリスマス五日前。
今度は、
【アイスゴーレム ×3】
防御力が高く、
時間がかかる相手。
だが。
「……砕けるの、早くない?」
ヤヒロの一撃が、
狙った以上に通る。
「私、こんなに関節抜けたっけ」
ヤチヨが呟く。
ユイは、黙っている。
戦闘は、
“順調すぎる”ほどに終わった。
帰還後。
ツダは、
静かに椅子へ腰を下ろした。
「……共通点がある」
誰も、急かさない。
「敵が、“最善手を取らない”」
「ミスをする。連携を崩す」
「本来ならやらない選択をする」
ヤヒロが、息を呑む。
「……俺たちが、強くなったわけじゃない」
「そう」
ツダは、淡々と言った。
「勝ちやすい未来が、先に選ばれてる感じすら覚える」
ユイが、静かに尋ねる。
「……原因は?」
ツダは、答えなかった。
ただ、指先でテーブルを叩く。
「……次も、ホンゴウから受ける」
ヤチヨが、即座に言った。
「確定させる気?」
「しないと、前に進めない」
ツダは、立ち上がる。
「これは――偶然じゃない」
クエスト内容は、
中層としては異例だった。
【討伐対象:イエティ ×15】
「……これ、普通なら無理だろ」
ヤヒロが言う。
本郷は、少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません……」
「でも、このクエスト、最近、通ってしまって……」
通ってしまっている。
その言い方が、
全てだった。
戦闘は――
成立してしまった。
奇襲は、
寸前で外れる。
包囲は、
一歩遅れる。
本来、
死角になるはずの位置に、
必ず逃げ道が残る。
十五体。
討伐完了。
「……なあ」
ヤチヨが、低く言った。
「これさ」
「私たちが、上手くなったんじゃない」
ユイが、続ける。
「……“邪魔されてない”」
ツダは、ゆっくり息を吐いた。
「違う」
三人が、彼を見る。
「助けられてる」
沈黙。
「しかも――本人は、その自覚がない」
本郷三咲。
非戦闘員。
コモン装備。
何の特性もない指輪。
それでも。
彼女が関わると、失敗が起きない。
ツダは、確信した。
(これは、武器じゃない)
(存在そのものだ)
そして、最も厄介なのは。
(彼女自身が、自らの力では、それを望んでいないこと)
雪は、静かに降り続いていた。
何も起きていない日常の中で、
ただ数字だけが、確実に狂っていく。
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