4章9節
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クリスマス四日前。
場所は、
札幌ダンジョンから少し離れた、
北千歳駐屯地ダンジョン。
構造は単純な迷宮型。
雪原も森林もない、
閉じた通路が続く、どこにでもある中層。
「ここなら、環境要因は切り分けられる」
ツダの判断だった。
クエストは、本郷経由ではない。
通常の掲示板から拾った、
ありふれた討伐依頼。
【討伐対象:フロストトロル ×2】
「……これ、普通に面倒だよな」
ヤチヨが肩を回す。
「油断すると、一気に持ってかれる」
ユイも頷く。
だが。
戦闘開始。
一体目のトロルが、
棍棒を振り下ろす。
ヤヒロが盾を構え――
「……?」
衝撃は、
想定よりも浅かった。
反動が、妙に軽い。
「今の、手抜いた?」
ヤチヨが言う。
だが、トロルは全力だった。
咆哮。
二体目が横から来る。
連携――
のはずが。
踏み込みが、
半拍遅れる。
「……噛み合ってない」
ユイの矢が、安全に通る。
ヤヒロの盾が、危なげなく受け止める。
数分後。
二体、撃破。
「……おかしいな」
ヤヒロが、呟く。
「こいつらって、こんなに楽じゃないはずだ」
ツダは、
何も言わなかった。
だが、
確信は深まった。
(場所も受注元も、すでに関係ない)
その夜。
ツダは、
すすきのの裏通りにある
冒険者向けのバーにいた。
派手さはない。
だが、
情報は集まる。
カウンターで、
ウイスキーを一杯。
「最近、どうよ」
さりげなく、
隣の男に声をかける。
「ん?」
「クエスト。詰まってない?」
男は、
一瞬考えてから笑った。
「……逆だな」
「最近、妙に通る」
別の席からも、
声が飛ぶ。
「分かる」
「失敗しねえ」
「事故が起きねえんだよな」
「運がいい、ってやつじゃないか」
ツダは、
黙って聞く。
「俺だけかと思ってたけど、みんなそうか」
「なんか、北海道、今ノってる感じ?」
笑い声。
乾杯。
だが――
ツダのモノクル越しの視界は、
冷え切っていた。
(これは――“局地的幸運”じゃない)
(波及してる)
しかも。
(原因が、誰にも認識されていない)
店を出る。
雪が、
街灯に照らされて舞っている。
ツダは、
コートの襟を立てた。
(本郷三咲)
(彼女が中心か)
(それとも――
すでに、引き金は引かれた後か)
知りたい。
確かめたい。
理解したい。
モノクルの奥で、
知識欲が、
静かに疼いた。
「……まずいな」
独り言。
運がいい世界は、
必ず、
反動を伴う。
ツダは、
それを何度も見てきた。
そして今回――
その反動は、
“誰も望まない形”で
やってくる気がしてならなかった。
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